左曲がりは凡人 右曲がりは天下取り
だが――その周囲には、これまでとは比較にならぬほど大量のオークたちがひしめいていた。非常に騒がしい。あちこちで喧嘩や殺し合いが発生しており、規律や統率などという概念とは無縁であった。
「うむ、なんというか、あそこまで大量にいると、体臭がひどいな。」
「でぇじょうぶだ夏コミよかマシだから!!!」
「……ナツコミというのが何なのかよくわからんが、恐ろしいものゝようであるな。」
その時、後ろを漂っていた〈アンガラ〉から、フィンの声が聞こえてきた。
〈ソーチャンどの、聞こえますか?〉
見ると、翅を震わせて音声情報を再生しているようだ。
「これは驚いた。飛ぶためだけのものではないのであるな。」
〈はい。戦術妖精の飛翔原理は、電場の展開によるクーロン斥力を根幹としているであります。翅の役割は、どちらかというと電磁制御器官の意味合いが大きいであります。それで、そちらは大丈夫でありますか?〉
「問題ない。敵の主戦力と思しき群衆を発見した。これより攻撃しようかということろである。」
〈了解であります。こちらも異常はないであります。ご武運を!〉
「うむ、任せたまえ。」
通信は終了した。〈アンガラ〉はドヤ顔だった。
「うむ、次も頼むぞ〈アンガラ〉氏。」
「おい鵺火テメーさっきから何ひとりでぶつぶつ言ってんだ?」
「うむ? 貴様に聞こえなかったということは、かなり指向性の高い音波のようであるな。なるほど、隠密行動に最適化されておるというわけか。」
指先で〈アンガラ〉の頭を撫で、オークどもに目を戻す。
悪鬼らの足元を、同じく緑色のもっと小柄な生物がチョロチョロと駆けまわっていた。筋骨たくましいオークとは対照的に、人間の半分ほどの背丈しかなく、体型はヒョロヒョロだった。その顔には不釣り合いなほど大きい鷲鼻がついている。
オークたちの武具に槌を振るって歪みを直したり、火を熾して肉を焼いたりしていた。
そして――樹精鹿を、けたたましく笑いながら解体していた。バラバラにした死骸を、焚き火のそばに堆く積み上げている。燃料にでもしようというのか。そばでは、厳重に繋がれた別の樹精鹿たちが、同族の無残な末路をじっと見ていた。悲しげに嘶いては、うるせえとばかりにオークに蹴り飛ばされる。
「……とりあえずあいつら全殺し確定な」
「それは同感であるが、どう見ても千体以上おるな。」
「あん? 別にどーってことねーだろ。とっとと潰すぞ」
飛び出そうとする烈火の首に、刀の鞘を引っ掛けた。
「ぐぇ」
「ひとつ、懸念材料があった。」
「あぁ? んだよ」
「彼らはいかにしてこの大集団を形成してゐるのであろうか、と。」
「どうやってって、集まってるもんはしょうがねえだろ」
「ことはそう単純ではない。オォクの様子を見よ。規律もなければ指揮系統もない。単なる暴徒の集団である。そのような者たちが群れる規模は、どう頑張っても数十体程度が限界である。あの数を一か所に糾合し、ひとつの軍事目的に向けて邁進させるには、法治の徹底が必要不可欠。」
「あー……?」
「しかしオォクに法などない。では何なのか。一つ考えられるのは、宗教的熱狂である。信ずるものを同じくした者たちは、多少の組織的不備などものともしない情熱という絆を頼りに、大軍団を形成しうる。」
「んー……」
「だがそれでも、目の前の異常な数を説明するには不足である。よって可能性の第二――」
「ところでチンポジの具合が気になり始めたんだけど、この袴ポケットとかねえの?」
「――戦闘種族たる彼らの魂を芯から寒からしめ、服従させる、絶対的なカリスマが現れたという可能性。」
「無視か! 既読スルーか! 俺のチンポジ事情はどうでもいいってか!」
どうでもええわ!
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