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かいぶつのうまれたひ #25
攻牙は眼の前の闘いを見る。
蒼い稲妻を体中に纏わりつかせる篤と、冥い紫の妖炎を立ち上らせるタグトゥマダーク。
二人は対峙しながら、ゆっくりと間合いを詰めていた。
――なんかすごく宿命っぽいぞ! 絵面的に!
この闘いに、立ち入ってもいいものなのか!? 少年漫画的ケレン味は、攻牙の行動原理の根幹を成すファクターであるからして、「認めた宿敵には自分以外の誰にも倒されてほしくない」という戦士のわがままに対しては物凄く理解がある。つもりだ。
このまま手出しは控え、見届けるべきだと思う。
だが、介入すべき理由も、ある。
第一に、タグトゥマダークがいまだに無傷であるという点。スピードやテクニックという要素では、篤はまったくついていけてない。
もちろん、篤がこのまま成すすべもなくやられるようなタマではないことはよく知っている。追い詰められてからが本番と言っても良い。常時死に身の精神力は、ここぞというところで爆発し、小賢しい理屈を吹き飛ばすことだろう。しかし――果たしてそれだけで、この圧倒的力量差を覆せるものなのか? 攻牙はそこが読みきれない。さすがにそれは、どんな頭脳の持ち主でも読みきれない。
第二に、攻牙自身の問題。
攻牙は、ちらりと横を見る。
鋼原射美。悪の組織の尖兵。轢殺系吐血美(?)少女。
地べたにへたり込んで、俯いている。
――あぁクソッ! こいつが凹んでるとこはじめて見たよ畜生!
攻牙は苛立たしげに頭を掻く。
まぁ、なんというか、タグトゥマダークとは気安い間柄だったのだろう。毎日の弁当もタグトゥマダークが作ってたらしいし、射美の中では兄貴的なポジションだったのではないかと思う。相手も自分を妹のように考えていると、そう思っていたとしても不思議はない。それが、たった一度敵をかばっただけで即座に見切られ、「死ね」の一言と共に仮借なき一撃を浴びせられれば、普通はショックを受ける。
動転して、虚脱する。
――あぁもう! こういう雰囲気苦手なんだよなぁ!
その時、脳内暗殺者が「自業自得だな」と吐き捨てた。「思慮に欠け、自分の行動に責任を持たない女だ」……その通りだ。
正論だ。
返す言葉もない。
だが――それで実際どうするんだ?
こいつがアホだってことはわかったよ。それで? ボクが聞きたいのはその後だ。その後どうするんだ? 見捨てるのか? このまま放置しとくのか?
そういう判断で、何か意味のある結末を手繰り寄せられるのか?
攻牙は、思う。
――ヒーローは……こういう甘ったれを見捨てない……んだろうなぁ。
具体的に何がしてやれると言うわけでもないけれど。
でもまぁ、タグトゥマダークをふんじばって、もう一度、面と向かわせるくらいのことは、してやれるかもしれない。
そうしたいと思っている、自分が居る。
「攻牙よ!」
篤の、声。
タグトゥマダークに険しい視線を注いだまま、こちらに声をかけてくる。
「なんだ!」
「手は、出さないでほしいぴょん」
「……」
むぅ。
やっぱりか。
「だが、口は出してほしいぴょん」
「……は?」
「この男の技を読んでほしいぴょん」
「つまりセコンド役か」
「ウイグル語で言えばそうなるぴょん」
「違うぞ!? 英語だぞ!?」
「それから鋼原よ!」
隣で、射美がビクッと身を震わせた。
「タグトゥマダークは、決して無謬の存在ではない!」
「え……」
「奴の言に飲まれるな。お前自身が判断しろ」
そう言うと、『姫川病院前』をタグトゥマダークに向けた。
剄烈なる眼差し。
「さぁ、ゆくぴょん。次の交差で、必ず貴様を打ち倒すぴょん」
「へえ、状況はわかってるのかニャン? 何か反撃のアイディアでも?」
タグトゥマダークは妖眼をすがめ、頬を歪めていた。
「そんなものはない!」
ないのかよ。
「だが、部下への対応ひとつで、貴様が恐るに足りぬ輩であることはわかったぴょん」
「……面白いことをホザく人だニャン。そんだけズタボロじゃなかったらかっこよかったかもニャン」
異様に肥大化した牙が覗いた。
「別にかまわないニャン? そんなに自信があるんならかかってくるニャン?」
構えを解き、傲然と胸をそらす。
「言われずともそうするぴょん。ただし、その時貴様は地面に倒れ伏しているぴょん」
静かに壮言を呟くと、篤は『姫川病院前』を大きく後ろに振りかぶり、腰を落とした。
「――渾身せよ、我が全霊!」
ゴォッ――と音をたてて、蒼く輝く〈BUS〉の雷光が荒れ狂った。篤を中心に大気が押し広げられ、悲鳴を上げながら逆巻いている。
その、無闇にドラゴンボールじみた光景を前に、
「あれ?」
……攻牙は、妙なものを見た気がした。
いや、具体的に何を見たとも言いがたいのだが……篤の闘気が広範囲に放射された瞬間、〝模様〟のようなものが空間に浮かび上がったのだ。
丁度、鉄粉が磁場の形を浮かび上がらせるように、何かの〝形〟が微かに姿を現した。
ほんのわずかな歪み。目の錯覚として斬り捨てられるレベルの、異変と言うほどのこともない違和感。
しかし、攻牙は看過しなかった。逆転勝利の秘訣は、伏線を見逃さないことである。
……それは、ゆるやかな弧を描く曲線、のように見えた。曲線の周囲の光景は、微妙に歪んでいる。
わずかに体を傾けて視点を移動させてみると、それに合わせて歪みの位置もずれてゆく。
要するに、可視光線を歪ませるような何かが空中に存在し、浮いているのだ。
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