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声さえ尽きたとき、
あたかもマズルフラッシュのように。
あるいは星々が瞬くように。
撃剣の火花が、フィンの前で狂い咲いた。
鋼の悲鳴が、まるでひとつながりの音のごとく連続し、凄まじい密度の攻防が繰り広げられていることを伝える。
両者の動きは、もはやフィンには見えない。ともに究極の域にある剣士たちの、殺意を重力として形成される、それはひとつの秩序だった宇宙であった。
武に生きるものであれば、一目見ただけで感涙をこぼすであろう剣闘ではあったが――フィンの心はそちらに向いてはいなかった。
ただひとつの言葉が、脳裏を渦巻いている。
――王国のことが終わっても、小生は君を一人にするつもりはない。
その言葉が耳に入った瞬間、フィンの中で相反する二つの感情が同時に炸裂した。
うれしい、という感情。
そんなことは決して許されない、という感情。
そして、より強いのは後者の思いであった。
「ソーチャン……どの……」
自分たちがいるせいで、シャーリィ殿下は声を喪い、子を成す権利まで喪ったのだ。
それを、わが身可愛さにこの世界に居座り続けるなど、フィンには決してできないことだった。
「なんで……」
――ね、フィンくん。こういうのがこの先ずっと、ずぅーーーーっとつづいても、わたしはいいかなって思ってる。
「なんで……なんで……!」
――たとえば、もしフィンどのが、わたしのために身を削ったり、傷ついたりしたら、わたしはとてもつらい。
顔が引き歪む。声が震える。
「なんでみんなして、小官の生きる道を、否定するのでありますか……!」
重銀粒子結晶槍を下げ、肩を震わせる。
「殺さなきゃいけないのであります! 守らなきゃいけないのであります! 牙なき人々の明日のため、小官は私心を滅してカイン人を殺しつづけなくてはならないのであります! それが、ちちうえの――最期の望みだったのであります!」
――だからこそ。フィン、お前は……お前だけは、滅びゆく良き人々のそばに寄り添え。手を握り、最期まで一人ではないのだと囁きかけられる、優しき戦士となれ。軍規や、理屈や、しがらみに囚われず、牙なき人の明日のため、最後の希望でありつづけろ。
その願いは。その誓いは。
他者からの同情などで崩れ去るほど軽いものではないのだ。
「ちちうえを……ちちうえをばかにするなぁっ!!」
それはフィンの誇りで、絆で、敬意で、すべてで。
だからこそ譲れない。それはこの世界で成してきたすべての行動の根拠だったから。
たとえ総十郎が相手でも。たとえ総十郎に嫌われても。
「フィンくん。」
極限の剣劇のさなか、総十郎はこちらを振り向くことなく声をかけてきた。
びくり、とフィンは肩を震わせる。
恐れが胸に忍び寄る。それでも、彼に嫌われるのは怖かった。せっかく友達になれたのに。
「ようやく、君の本音を聞けた。」
「え……」
予想していなかった言葉に、呆けた声が出た。
「小生は、君にとって怒りをぶつけるに値する存在になれていたのだね。……よかった……本当に……。」
機関銃のごとく連続する撃剣の中、涼風のように優しい総十郎の声が、ふわりと吹き込んでくる。
「あとで、聞かせてほしい。君の世界のこと。御父君のこと。守るべきもののこと。カヰン人のこと。すべて。すべて。」
「あ……」
小さく笑いがさざめく。
「別の世界のことだから、などと、つれないことは言いっこなしだ。言ったろう? 小生はもう、君を一人にするつもりはないのだ。君がこの世界にとどまることをどうしても承服できないのなら、小生が君の世界に行こう。君を苦しめ、悲しませるすべてのものを、この太刀でことごとく斬り捨てよう。」
それは。
そうなったら――どれほど心強いことだろう。
どんなに多くの牙なき人が救われることだろう。
どんなに――フィンは救われることだろう。
胸が熱くなる。ダメだと思っても、視界が熱い涙でぼやけ始める。
「そんなの……そんなの、無理、でありますよ……」
声が震える。
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