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言葉のモッヂボール

  目次

「馬鹿おめーバカ野郎人前でそんな恥ずかしいことできないわよ!!!! そんなこともわからないの!!!! アナタはいつもそう!!!! どうしてそんな最低限の思いやりもできない子になっちゃったの!!!!」
「はいはいすいませんー。僕が悪かったですー」
「ったく次から気を付けろよおめー」
「うわぁい、うざいなぁこの人」
「ところで俺は取引を持ちかけに来た!!!!」
「あ、唐突に本題に入るんだ。いいよいいよ、つづけて」
「この空間!!!! これは世紀末空間と言う!!!!」
「まんまだね」
「あのーなんかこの超天才がなんかいい感じにコスモとか高めるといい感じに現れる感じの空間だ!!!!」
「眩暈を覚えるほど中身のない説明どうもありがとう」
「ところでお前童貞?」
「そうだけど、それ今関係あるの?」
「そしてこの世紀末空間にはモヒカン化を免れるほど強い奴だけが入ることができる!!!!」
「あ、関係ないんだ……特に意味のない問いなんだ……」
「あれ、『モヒカン化って何だ』とか聞かねーの?」
「あぁ、それは大丈夫。もう読んだから・・・・・・・。全人類の九割九分九厘はモヒカンに見えるんだよね?」
「おう、なんだかわからねえが話がはえーなオイ。んでまー、ここにいるってことはテメーら二人は合格だ!!!! まず俺と戦う資格はある!!!! 泣いて喜べ!!!!」
「ウワー、ウレシイナー」
「ところで総十郎の奴って童貞だと思うか?」
「いや、どうだろう、ちょっとわからないな。あと関係ない話唐突にブッ込んでくるのやめてくんない?」
「あの野郎、自分は清廉無欲な聖人でございみたいな顔してやがるけど女の扱い手馴れすぎなんだよぜってえヤることヤってるよ間違いない!!!!」
「あ、その話題つづけるんだ……いやー、非童貞さんの観察眼には脱帽だなー、あこがれちゃうなー」
「世紀末空間の目的はうかつに世紀末戦闘をブチかまして周りの建物壊しまくりいろんな人からめっちゃ怒られるのを防ぐためのものだ!!!! だから建造物とかが世紀末空間に入ったことなんざ一度もねえ!!!!」
「さすがにキレていいよねこれ?」
「そしてひとつ疑問がある!!!!」
「どんな」
「世紀末空間に入れるのは「俺様が入れと念じ」、かつ「一定以上に強い」奴だけだ」
「ふぅん、けっこう自由がきくんだね」
「というわけで聞くぞ!!!! これは何だ?」

 これ、のところで踵を鳴らし、床を示す。
 そう――ここは王城の中。建造物が世紀末空間に入り込んでいるのだ

「なるほど、そういうことか。まぁ察しはついてるけど、それをあなたに説明して僕らにどんなメリットがあるのかな?」
「大ありだよ馬鹿野郎。世紀末空間に入れる/出すの主導権は俺様にあんだよ馬鹿野郎この野郎。ここから出たかったら質問に答えろやボケコラカスコラ」

 〈道化師〉とギデオンは顔を合わせた。

「……嘘だね」
「はぁ!? どっどっどっどっどんな根拠があって、う、う、嘘だとかお前馬鹿お前」
「そんなことができるのなら、一か月前の戦いで僕たち三人をいともたやすくこの空間に閉じ込め、永遠に世界から追放できていたはずだ。入れる相手は選べるみたいだけど、出るときは強制的に全員一緒なんだろう? あなたと僕らは同じ立場だ。取引材料にはならないね」
「おま、おまっ! この超天才の渾身の知略シーンをあっさり台無しにするんじゃありませんよ馬鹿なのキミは!!!!」
「もういい。さっさと殺そう」

 ギデオンは〈黒き宿命の吟じ手カースシンガー〉をすらりと抜き放った。

「あぁ、いや、気持ちはわかるけど、今はちょっと難しいよギデオン」
「では殺せる状況を作れ」

 〈道化師〉は肩をすくめ、黒神烈火に向けて手をかざした。

「んぎッ!?」

 たちまち拘束される異界の英雄。

「ええとギデオン。理屈の説明はこの際省くね。まず普通の攻撃では黒神烈火を殺すことはできない。これは大前提として理解してほしい。ここで言う普通の攻撃とは、あなたの神統器レガリアの能力も含めるよ。気絶はさせられるだろうけど、そこまでだ。絶対に殺せない」
「だがヴォルダガッダの歪律領域ヌミノースは奴に深手を負わせていたぞ」
「そう、まさにそれだよ。歪律領域ヌミノースの作用による攻撃は補正を貫通するんだ」
「補正だと?」
「あぁ、えっと、超自然的な加護、のようなものさ。これによって黒神烈火は守られているんだ」

 ギデオンは背後の玉座を振り仰いだ。
 そこに突き刺さった赤黒い大剣を。

「……あれを活用しろと?」
「それでも可能だろうけど、もっと手っ取り早い方法がある。彼をとりあえず王城から突き落としてみよう」
「爽やかな調子で突き落としてみようとか言ってんじゃねえぞテメェ!!!!」
「えー? あなたはここから墜落したところで別に死なないでしょうが」

 蛍光色の幻影蔓が黒神に絡み付いた。

「待て待て待て待て待て俺の触手プレイとかマジで誰得なんだよいい加減にしろ!!!!」
「いい加減にしてほしいのはこっちなんだけどなぁ。ほら、落ちなよ」

 ゴミでも投げ捨てるように無造作に、黒神烈火は「あーれー」王城から放り投げられた。

「行こう、ギデオン。地上でなら殺せる」

【続く】


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