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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #80
「うぃー、なんか珍しい空気じゃねえか? はは、いつもこうならいいんだけどなぁ、ひっく」
「酒臭いな、デイル」
どっかりと爬虫類顔の男がアーカロトの隣に腰掛ける。
「おめーは飲んねえの?」
「……なぜ当然のような顔をして子供に酒を飲ませようとしているのだろうこの男は」
「いや、おめー、子供じゃないだろ」
冷めた口調に、アーカロトは振り向く。
敵意、などではないが、どこか冷静な色がその瞳に宿っていた。
「落ち着いたことだしよ、ひとつおっちゃんに話しちゃくれないかい? お前さん、どうやって銃機勁道を習得した?」
デイルは指先で頭を掻く。
「どう考えてもおかしいんだよな。お前さんの技、体重移動、内息のタイミング、どれをとっても瓜二つすぎる」
脂滴る骨付き肉をひとかじり。
もしゃもしゃと咀嚼して嚥下。
「普通、そんなことはあり得ねえんだ。お前さんと、俺の兄貴は体格も体つきも全然違う。同じ武技を伝授されても、前提が違うんだから同じになんかなるわけがないんだ」
「兄貴、か……」
アーカロトは、ふと遠い目をする。
「あなたはディムズ・マーロウの弟、と考えていいのか?」
「あぁ、おっちゃんはデイル・マーロウ。辛気臭い目つきの兄貴と一緒に、銃機勁道の修行を積んだもんよ。もっとも、正調伝承者は兄貴のほうだがな。おっちゃんはちょいと体重と肺活量が物足りないんで、どこまでいっても亜流さ」
愛嬌のある苦笑を浮かべ、しかし次の瞬間にはすがるような顔つきになる。
「なぁ、教えてくれよ。兄貴はどうしてるんだ? ガキんちょが生まれたことは知ってんだが……」
そこから、なのか。
アーカロトは、覚悟を決めた。
暗い目の男――ディムズ・マーロウがいかに生き、いかに戦い、いかに死んでいったかを。その絶望と悲哀と孤独のすべてを。
包み隠さず、アーカロトは話した。
「……っ」
胸倉を、掴みあげられる。
アーカロトは抵抗しなかった。
「なんとか……なんとかならなかったのかよ……っ!」
騒然とする周囲の人々に構わず、デイルは真っ赤に染まった目で睨みつけてくる。
「お前、それ知ってるってことはずっと見てたんだろ!? なあ!! なんで……なんで……ひでえ……ひでえじゃねえか……!!」
「見たわけじゃない。彼の死に目には立ち会ったけど、直接会ったのはその時だけだ。僕は彼から託された」
「託された……?」
「『誰も泣かぬ世界』。彼は最期にそれを見たいと言った。彼の無念を、僕は全部汲む」
ゆっくりと、アーカロトは降ろされた。
手を差し出す。
「会えてうれしいよ、デイル・マーロウ。見覚えがあると思ったのは気のせいじゃなかったみたいだ」
ディムズの記憶情報にある彼とは、雰囲気がずいぶん変わっていたので、今まで確証が持てなかったのだ。そもそも彼の記憶情報をすべて感得し、咀嚼したわけでもなかった。
「お、お前さん……いったい何者だい?」
握手に応じながら、デイルはきょとんとする。
「さて……それを説明するのは骨が折れそうだね。僕はデムズの遺志を継ぐもので、あなたの言う正調銃機勁道の、最後の伝承者だ」
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