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かつてこれほどクソくだらない理由で戦ったことなどない。守るため? 吐き気がする。ヴォルダガッダに同族への情愛などひとかけらもない。ただ、自らの目的を達するには兵力がどうしても必要であることを理性で理解しているに過ぎない。
まさにこの義務感こそが、神統器〈終末の咆哮〉がヴォルダガッダに柄を預ける根拠でもあるのだが――しかし不快なことに変わりはない。
そして――思い当たる。天啓のごとく。双戦鎌を分離させ、片方を横に投げた。そこにいた混沌飛竜の長頸に、鎖が絡み付いた。
「吐ケ!! 殺せ!!」
ぐい、と引っ張り、ヒョロガリどもの方に鼻先を向けさせる。
そう、こいつの強酸吐息ならば、甲冑など関係ない。隙間から入り込んでヒョロガリどもをゲロみてえな有り様に変えてくれるはずだ。
混沌飛竜の咽喉部が膨れ上がり――
――爆発。
「なニッ!?」
飛竜の横面を、魔力の爆発が襲い、その頭が向いている方角を変えた。
直後に強酸吐息が解き放たれ、見当違いの方向に溶解液を噴射する。
「――あんたがオークの頭目ねっ! さんざんあたしたちの森を滅茶苦茶にしてくれた落とし前はきっちりつけてもわうわよっ!」
鈴の音のような声とともに、何かが次々と飛来し、爆発した。
●
大樹の枝に足をかけ、膝立ちの姿勢で、一人の少女が弓を構えていた。
エルフの平民が好む、鮮やかな緑に染め抜かれた麻の衣服に身を包んでいる。上下に分かれたタイプの狩猟衣であり、きゅっと引き締まった腰と美しいへそが覗いていた。暗い迷彩柄の外套を肩に羽織っており、その合わせ目から白磁のように滑らかな腕が伸びて、長大な弓を引いている。膝丈のスカートからすらりと伸びた白い脚は、途中から蔓を編んで作られたサンダルに覆われていた。
恰好だけを見れば、平民の狩人でしかないが、人族が見たらしばらく呼吸を忘れてしまうであろう半神的な美貌と、ツインテールにまとめられた翡翠色の髪は、彼女の出自の高貴さを隠しようもなく示していた。
シャイファ・ジュード・オブスキュア。
オブスキュア王国第二王女。
彼女の後ろに付き従っている人物は幽骨製の魔導甲冑に身を包んだ騎士だ。矢筒を四つばかり背負っており、いつでも主人たるシャイファに次弾を手渡せる体勢である。エルフの常として、見た目からは年齢を測れないが、眉間に刻まれて戻らなくなった皺や、どこかポジティブな諦念を湛えた眼からは、彼が想像を絶するほど長く生きた男であることが伺えた。
シャイファは、魔力で編まれた弓弦を引いた。
石とも金属とも幽骨とも異なる霊妙な光沢を帯びた弓がしなる。どうということのない木製の矢に、炎の精霊力の輝きが宿った。
オブスキュア王家に特有の、パッチリと巨きな瞳を片方だけすがめ、狙いをつける。
長く鋭い耳がぴくぴくと動き、風の流れをシャイファに伝えた。
空気の抵抗による減衰。揚力による上昇。重力による下降。そして風によるズレ。
すべての要素を頭の中で補正し、
――今っ!
矢を解き放った。ひょう、と小さく鳴りながら飛び去ってゆく。
命中を確認するより前に、手をさっと肩の後ろに回す。翡翠色のツインテールが、かすかに揺れた。
すぐにその手に矢が差し出される。
と同時に、
「殿下。移動いたしましょう。もう我らの位置は悟られているものと存じまする」
お傍居役の騎士ケリオス・ロンサールが、低く言った。
その声には重厚な貫禄があった。齢九百を超える、オブスキュア王国の最長老だ。
「大丈夫よ、じぃや。こんな樹の上に手出しなんてできるはずないわ。それより今ここでなるべく損害を与えておかないと」
シャイファの言葉通り、現在彼らは巨樹の梢の中に身を潜めていた。
さきほど放った矢は、過たず混沌飛竜に命中。爆発する。
シャイファは次々と手渡される矢をつがえ、放った。神代の霊威を帯びたその弓は、神統器〈天道駆ける濫觴星〉。つがえた矢に魔法を込め、命中と同時に発動させる権能を持つ。
込める魔法は帝国魔導八芒大系が一門、元素変換の「火球」である。戦闘用魔法としては最下級のものであり、オーク相手には目くらましにしかならないが、しかし体内で炸裂させられるなら話は別である。〈天道駆ける濫觴星〉の魔力の弦は、通常の弦とは異なり、所有者の意に応えて柔軟に長さを変える。シャイファの細腕でも、十分にオークの表皮を貫く威力を出せるし、いったん刺さってしまえば体内で「火球」が発動し、重傷を与えられる。
オブスキュア王国第二王女は、エルフ族の中でほとんど唯一、遠距離からオークに有効打を与えられる存在なのだ。
だが――そんな魔弓も、混沌飛竜には効果が薄いようだった。鱗を何枚か吹き飛ばす程度で、致命傷には程遠い。
――ならっ!
シャイファは狙いを変更する。飛竜のそばにいる、オーク個体。後ろのオークどもとは段違いの巨体を、黒く刺々しい鎧で包んでいる。
体格と肌の色から考えて、恐らくは二十齢を超えている。殺し合いの中で生きる悪鬼としては破格に長生きだ。実力も、それ相応のものだろう。
あれを討ち取れば、他のオークどもは烏合の衆と化すだろう。
弓を引き絞り――放つ。放つ。放つ。
狙撃が成功するとき、大抵の場合、矢を放った瞬間に確信を得る。あ、これは当たるな、と。
この時もまた、例外ではなかった。確信をもって疾走する矢を睨み――すべて叩き落とされたことに瞠目する。
「うそ……」
紅玉の眼球が動き、息が止まりそうなほどの剣呑な視線を射込んできた。
緑の巨腕が大戦鎌を振りかぶる。腕に凄まじい筋肉が隆起し、血管が浮き上がった。
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