
ひとりでできるもん!
小さな影は、手を振りながら見えなくなっていった。
「ふふ、フィンどの、なんだか楽しそうでしたね」
「うむ、見ているこちらも楽しくなってくるな。」
「でー? 食いもんはどうすんだ? また昼間のカロリーメイトみたいなのか?」
「かろ……? あぁ、レンバスか。あれは本来保存食だしな。ほら、あれを」
リーネが指さす方には、紫色をした細長い実をたくさん実らせた巨樹があった。
「リヴィエラの実だ。蒸かして塩を振ると大層美味だ」
「いやサツマイモじゃねーかどう見ても!!!!」
「うむ、サツマイモであるな。」
「なじみのある食べ物なのですか?」
「うむ、あのように木に成ってはゐないがな。」
「どーでもいいけど肉ねえのかよ肉」
「肉か……そう都合よくは……」
「いや、あるぞ。」
「え?」
総十郎は懐から札を取り出すと、手首を利かせて振った。
たちまち、笹の葉に包まれた塊が出現する。
「北海道でウヱンカムヰ退治をした折に、報酬として受け取った。体長二十メヱトルを超える巨大な霊羆のすね肉である。」
「オイそれ大丈夫か? 腐ってんじゃねえの?」
「失敬な。札にしてゐる間は時間は進まぬ。いるのか? いらぬのか?」
「いるし!!!! 超いるし!!!! それから乳ゴリラ! 食えるキノコと草を教えろ!!!!」
「あ、あぁ……」
烈火は野性的な相貌に、太い笑みを浮かべた。
「テンション上がってきたぜこいつァよォ……!」
●
妖精と式神が忙しく飛び回っている中、フィンは斬伐霊光を幾重にも重ねて銀の袋を作り出した。
「みんな! 一旦ここに集めるであります!」
たちまち落ち葉と小枝が放り込まれていった。
フィンも大きめの白い枝を探して、どんどん歩みを進めていった。
「あった!」
巨大樹は、地面にほど近いあたりはすべて苔に覆われているものの、遥か上方の枝々はバリエーション豊かな色合いであった。
落ちている枝も、黄土色から純白まで、なかなかにカラフルである。中には赤い枝まであった。
葉にもさまざまな種類があり、全体としては緑だが、その中に黄金や紅玉色など多彩な色を含んでいた。
そんな中、蒼い蝶が数匹、ヒラヒラとダンスを踊っている。まるで重力を無視しているような、不思議な動きだった。
こうして自分の脚で散策してみると、樹精鹿に乗っている時では気づかない美しさに触れることができる。
すてきなものでいっぱいのこの世界を、フィンは全身で感じ取った。
「ふんふんふ~ん」
セツ防衛機構が戦意発揚のために流す勇壮な行進曲を口ずさみながら、足取りも軽く進む。
途中で、振り回すのに丁度よさそうな棒を拾った。いい感じの棒を見かけたら特に意味はなくとも拾って振り回したくなる。少年とはそういうものである。
やがて、少しずつ日は傾いてゆく。しかし不安になることはなかった。
途方もなく大きく、深く、そして優しい意志に包まれてあるということを、フィンはなんとなく感じ取っていた。
「あれ」
ふと、陽光の減少に伴って、森を循環する粒子の光が、存在感を増していることに気づいた。
明るいうちは目に留まらない微光も、暗くなるにつれ目立ち始めているのだ。
「きれい……」
図鑑で見た、蛍の光にも似ていた。それが徐々に数と密度を増やしてゆき、太陽光にとってかわろうとしている。
フィンは息をするのも忘れて、色合いを増してゆく霊光の乱舞に見入った。
そして――ふと、奇妙な生き物がこちらをじっと見つめていることに気付く。
五メートルほども離れた場所から、フィンにぼんやりした眼差しを投げかけていた。
「……ウサギ?」
そう、ウサギだ。実物を見たことはないが、あれはどう見てもウサギさんだ。ロップイヤーと言うのだったか。大きく垂れ下がった耳に、丸っこい体躯、そしてひくひく動く鼻っ面、柔らかそうな体毛。
しかし、図鑑で見たものとは明らかに異なる特徴があった。
緑色に光っているのだ。それに、半透明だ。
架空質の生物だろうか。しかしそれならば、地面にいるのは変である。通常の物質と触れ合えないのだから、「地面に立つ」ことが不可能なのだ。
フィンはしゃがんで、ウサギ(仮)を覗き込んだ。
図鑑の写実的な絵よりも、ずいぶんユーモラスで可愛らしい感じだ。
驚かさないようにゆっくりと腕を伸ばし、手招きしてみる。
すると、意外にもぴょこぴょこと近づいてきた。
「わあ」
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