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ケイネス先生の聖杯戦争 第十四局面
「……もう動くのか」
日が落ち、夜の帳が住宅街を覆い尽くすと、ケイネスはすぐに外出した。傍らには霊体化したサーヴァントを侍らせているのだろう。
切嗣はライフルからスコープを外し、ガンケースに収める。
「尾けるとしようか。「神童」のお手並みを拝見だ」
『了解』
もちろん、家主が去ったあとの家屋にクレイモア地雷によるトラップを備え付けていくことは忘れなかった。
●
スズメの使い魔は、ほとんど一瞬で確度の高い敵の位置情報を送り込んできた。
ネズミが帰ってこなかった区画を、魔力的なパッシブソナーで浚い、アクティブソナーで位置を特定し、収束ソナーで敵陣の精密な情報を習得。
パッシブソナーとは、要するにごく一般的な魔力感知能力だ。相手が垂れ流す魔力を嗅ぎ当てる。走査精度は低く、おおまかな位置しかわからないが、相手に気づかれる心配はない。
アクティブソナーは、自分から魔力の波を放射し、その反響パターンから強い魔力を持った存在の座標を定位する。高い精度を誇るが、位置を特定した事実を相手に察知されてしまうため、仕掛ける直前にしか使えない。
収束ソナーは、アクティブソナーの前方収束版だ。位置を特定した相手に浴びせ、体格、人数、拠点の内部構造、魔力量、そして緻密な反響パターンのデータをケイネスが脳内で解析することによりクラスすらも特定できる。
最初の一回でいきなり当たりを引いた。
――これは……バーサーカーの霊基パターンか。
タクシーに揺られながら、ケイネスは目をすがめた。
霊体化しているため、物理的な体格や姿かたちは不明。そばにひとりの男が蹲っている。呼吸が荒い。これが間桐雁夜か。
彼らの居場所は、遠坂邸にほど近い座標の地下下水道だった。
なるほど地下から遠坂の出方を窺い、マスターやサーヴァントの行動を監視していたのだろう。
すぐに攻め入らないだけの理性はあるようだが、率直に言って「あの」遠坂時臣に抗しえるような陣営には見えなかった。放っておけばバーサーカーの魔力消費を賄えず、自滅することだろう。
だが、ケイネスとしては別の思案もあった。
〈ランサー〉
そばに霊体化して侍る従僕に、念話で語り掛ける。
〈は〉
〈これよりバーサーカー陣営に仕掛ける。ただし〈必滅の黄薔薇〉の開帳は禁ずる〉
〈は……?〉
〈ただの槍として使うことは問題ないが、回復阻害の呪いは発動を禁ずる〉
〈わ、我が主よ、無論のこと、あなたに勝利の栄誉を捧げるために死力を尽くしますが、敵もまた英霊。いかなる力を持つかわかりません。そのような相手に対し片手落ちの姿勢で挑むのは……〉
〈いつ私はお前に口答えを許した?〉
言葉にならない呻きが伝わってくる。
やがてタクシーを降り、下水道へ続くマンホールの前に立つ。
「やれやれ、降りねばならんか」
深く深くため息をつく。
「先行しろ、ランサー」
〈……は〉
青き槍兵が実体化。鉄の蓋に開いた排気用の穴に指を突っ込んで容易く持ち上げた。
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