絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #22
大気が震撼し、肌に衝撃を覚えるほどの爆音。部屋の端々でメタルセルの建材が軋みを上げ、埃が剥落した。
アーカロトは即座にシアラをかばうが、幸い部屋そのものが爆砕されたわけではなかった。
――襲撃? 誰が?
〈原罪兵〉の所有者が〈法務院〉であることは公然の秘密だ。現政府は公式には人造サイコパスたちを「ただの凶悪な犯罪者」としており、その逮捕には全力を挙げている――というポーズをとっている。
ゆえに〈原罪兵〉を常習的に狩っているギドに対して、こうもあからさまな襲撃の挙に出るのか否かは、なんとも言えない。
とにかく状況を確認するためにギドらと合流せねばならない。
「立てる?」
「……は、はぃ」
シアラの手を握り、アーカロトは部屋を出た――次の瞬間、シアラを突き飛ばし、床に身を伏せた。
猛烈な銃声が大気を引き裂く。フルオート射撃。たまらない火線が頭上を灼いていった。
即座に腕を伸ばし、応射。しかし効果がないことは歴然としていた。火花が咲く。
蛍光色の罪業場が、その人物の前に盾のように展開されていた。大きな円形で、その左右の端には装甲で覆われた両腕があった。左右の手のひらから露出した罪業場収束器官が、この巨大なラウンドシールドを維持しているのだ。
床を転がって部屋の中に戻る。
……奇妙な風体の男だった。でっぷりと肥えた腹から、直接機関銃が生えている。携行小銃などではない。分隊支援火器クラスの重武装だ。生身との接合部が赤く爛れている。そして黒光りする筒先が罪業場を貫いてこちらに伸びていた。
「はッ、本当に燃料を飼ってやがる。おい、今のてめーの粗チンみてーなサイズの豆鉄砲をこっちに放り投げな。そしたら命は助けてやるよォ」
なるほど。わかりやすいやつだ。
そして今の一瞬で、敵が展開する罪業場の性質は看破した。以前対峙した赤紫色の罪業場とは異なり半透明であることから、電磁波の遮断は行っていない。
そして、罪業場を貫通して腹部機関銃を突き出している。当たり前だが、銃弾は銃口で発生しているわけではない。銃身の最奥部から火薬の炸裂によって射出されるのだ。
と、言うことは、今しがた撃ち込まれてきたフルオート射撃は敵の罪業場をまるで存在しないものとして無視しながら飛来してきたことになる。にもかかわらずアーカロトの拳銃弾は難なく防いでいた。
――物質に一方通行を強いる罪業場。
向こうは撃ち放題だが、こちらの攻撃は通らない。あの無茶なサイバネ改造はこの性質を最大限活用するためのものか。
「……恐るに足らず」
「あァッ?」
アーカロトは迅雷の速度で部屋から飛び出した。即座に銃弾の驟雨が叩き込まれてくる。メタルセルを砕き散らし、鉄粉が舞う。
だが――狙いが甘い。あのサイズの機関銃を両手も使わず保持し、正確な射撃を行うなど不可能だ。制圧射撃としても精度が低すぎる。
そして銃撃の反動をどう処理しているのかを推察すれば、攻略法はおのずと見えてくる。
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