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『もひかん☆えくすぷろーど』 #1
黒神烈火は主人公である。
わりとバリバリで、それを自覚している。
モヒカン/もひかん
1、ネイティブアメリカンの一部族。弓を射る際、邪魔にならぬよう頭の両側面を刈りあげていた。
2、1から転じて、頭の両側面を刈りあげて鶏のトサカのようにしたヘアスタイル全般。
3、世界の秩序が崩壊し、世紀末的な情勢に陥った際にパンデミックじみて大量発生する生物。「ヒャッハーッ」という特徴的な鳴き声を上げ、破壊と略奪を好む。
突然であるが黒神烈火は今現在命の瀬戸際に立たされていた!
マジでやばい!
どんくらいやべえかっつぅと間違えて女性専用車両に乗っちまったときぐらいやばい!
なぜなら烈火は世紀末拳法の世紀末伝承者であり、世紀末伝承者であるからには定期的にモヒカンをブッ飛ばして世紀末ストレスを世紀末発散させる必要があるからだ!
これを怠って世紀末ストレスが世紀末レッドゾーンを越えるまで貯め込んじまった世紀末伝承者の末路は悲惨である!
あの、なんか、闘気的な、チャクラ的な、霊圧的な、血中カラテ的な、なんかそんな感じのアレが暴走を引き起こして体内をぎゅんぎゅんぎゅんぎゅん回った挙句、超絶世紀末大爆発を引き起こして世紀末跡形もなく世紀末吹っ飛んじまうからだ!
これはやばい!
世紀末やばい!
どうする烈火!
「ふえーん、ママどこー?」
しかし幸いなことに!
烈火の目の前にはちょうどいい感じにモヒカンがいた!
なんかめっちゃ小さい!
しかしまぎれもなくモヒカンだ!
頭の両側がツルっぱげで、中央がニワトリのトサカみてーに髪がピーンと直立している!
色は伝統の赤! このモヒカン、わかっておる喃!
そしてムッキムキだ! すっごい筋肉だ! どうやってこのバルクを維持してんのか全然わからねえくらいムッキムキだ!
でもちっちゃい! なんかすげーちっちゃい! 背丈幼稚園児ぐらいじゃねこれ!
だがモヒカンだ! やれ! 烈火! ブッ飛ばせ! 世紀末ストレスが世紀末レッドゾーンだ!
だが!
あぁーっと!
なぜだ烈火!
ブッ飛ばさない!
ここに来て烈火ブッ飛ばさない!
拳を固めもせずにしゃがみこんだ! 烈火しゃがみこんだ!
ちっこいモヒカンと目線を合わせる!
「おいガキ。おめーの名を言ってみろ」
ここで烈火話しかけた! フツーに話しかけた! 何故だ! 何を考えている烈火!
「ぐすっ、えぐっ、えぐちさくら、です。ふえーん」
ちっこいモヒカン、フツーに応えた!
しかし、なんだと!?
えぐち、さくらと言ったかこのモヒカン!?
さくらっつったらおめー日本でいちばん多い女の子の名前じゃねーか!
なんでこんな筋肉モリモリマッチョメンのモヒカンにそんな名がついている!?
両親は何を考えていたのか!?
だが、何の驚きも現すことなく、烈火はモヒカンの頭にぽん、と手を置いた!
と、ここで! 見よ! 烈火の手を! なんか妙なことが起きている!
モヒカンヘアーが烈火の手のひらを貫通している!
あの、なんか、3Dゲームで、描画はされてるけど当たり判定はない物体みたいな感じだ!
烈火の手のひらにはふわふわした髪の感触だけがある!
それもそのはず! このちっこいモヒカンは、実はモヒカンでもなんでもないのだ!
ただのちっこい女の子である!
では! 何故! 烈火の目にはモヒカンに見えているのか!?
それは烈火の心身を蝕む、とある奇病が関係している!
いや奇病っつーか、烈火以外の誰もなってないのでそもそも病気認定されてるわけでもねーのだが、とにかく奇病だ!
一定以下の強さの人間が全員モヒカン雑魚に見える病気ッッ!
やべー!
まじこえー!
ぶっちゃけ全人類の九割九分九里以上はモヒカンに見える!
20XX年、世界はモヒカンの海に飲み込まれた!
そう! この病気ゆえに、烈火は本物のモヒカンを見分けるのにものすげー難儀しているのだ!
今回はわりかし迷子迷子した言動だったし、それにちっこかったので識別は簡単だったが、これがそのへんのDQNとかヤクザだったら一気にわかりにくくなる!
まぁ別にそいつらは代わりにボコってもいいような気がするが、モヒカンと違って一応ちゃんとした人間なのであんまり無茶苦茶やると後でいろんな人からめっちゃ怒られて超めんどくせーのだ!
「よーし、えぐちさくら」
烈火は野性的な相好を崩し、笑顔を見せた!
さすが主人公! 泣いてる迷子に救いの手を差し伸べる! すさんだ現代社会でも優しさを忘れない人間の鑑だ!
烈火はそのまま包み込むような笑顔で言った!
「俺は天才だァーッ!」
いや聞いてねえ!
唐突なアミバ様に地の文も困惑!
「天才はあのーなんかいろいろ忙しいんだ!」
ぽむぽむと頭をなでる!
「だからママは自分で探せ! 幸運を祈る!」
立ち上がってスタスタ歩み去った! 再び泣きだすえぐちさくらちゃん!
前言撤回! こいつ人間の屑だ!
いやしかし今回は仕方ないと強弁できなくもない!
世紀末ストレスが世紀末レッドゾーンなのだ! まじやべーのだ! のんびり迷子のママ探しやってる余裕がないのだ! このままでは超絶世紀末大爆発で日本にでっかいクレーターができちまう! 早いとこ手頃なモヒカンをブッ飛ばさなきゃ!(使命感)
と!
そこで!
「ヒャッハーッ! 迷子だァー!」
「ヒャッハーッ! 奴隷にしてやるぜェー!」
MO☆HI☆KA☆N!
モヒカンだァァァァァァッ!!
この特徴的な鳴き声! 間違いねえッ!
やったぞ烈火! 今度こそ本物だァーッ!
見ると、二人の屈強で大柄なモヒカンが、ちっこいモヒカン(えぐちさくらちゃん)の首根っこをひっ捕まえて調子こいているッッ! もちろん棘付き肩パッドも標準装備だッッ!
「やだやだ、はーなーしーてー」
「ヒャッハーッ! 連れ帰って、あの、なんか、横向きの棒が八方に伸びててみんなで押してグルグル回す感じのよくわかんねえ装置を回す係にしてやるぜェーッ!」
「ヒャッハーッ! 隣には当然鞭持ったこえー監督役がいるぜェーッ! あの装置マジでなんなのかよくわかんねえぜェーッ!」
おまえらもよくわかってねえのかよ!
それはともかく烈火のツラが見る見るヤベーことになってってる!
頬が歪みィー? 口の端が吊りあがりィー? 尖った歯列が覗きィー? 三白眼が三日月状に細められェー? 眼球に血管が絡みつきィー? お茶の間の良い子が見たら号泣不可避なレベルの凶悪邪悪極悪スマイルだァーッ!
「あひゃらららららららららららららっ!!」
興奮のあまりわけのわからない奇声を上げながら、烈火は即座にアスファルトを蹴り砕いて突撃ィッッ! 口の端から涎がこぼれているッッ!
一足一刀の間合いに踏み込んだ瞬間、右脚が跳ね上がったァァァッッ!!
爆速で一閃ッッ!!
「あぱぺらぱっっ!」
モヒカンAは胴を斜めに両断されてそれぞれのパーツがぎゅるぎゅる回りながらぶっ飛んでいくッッ!
「アッヒャアッッ!」
烈火は蹴りの回転のまま完璧な後ろ回し蹴りを放つッッ!!
「でっべるるばっっ!」
モヒカンBは胴を真横に両断されてそれぞれのパーツがぎゅるぎゅる回りながらぶっ飛んでいくッッ!
ちなみにその瞬間モヒカンどもは赤い背景で黒いシルエットになっているのでゴア表現対策もバッチリだッッ!!
さすがギャグ時空である!
次の瞬間、烈火の腕の中にぽふん、とえぐちさくらちゃんが落ちてきた!
それを合図にしたわけでもねーだろうが、二人のモヒカンはしめやかに爆発四散!
後には何も残らない! モヒカン特有の消滅現象! 環境に優しい!
烈火は蹴り足をゆっくりと戻し、残心する!
生の充足が、体中を駆け巡る! ああすっごい俺今すっごいマジ生きてるわぁマジマジすっごいこれ!
世紀末ストレスもちょっとだけ余裕ができた感じだ!
「えへへ、おにーちゃん、たすけてくれてありがとー。ぎゅーっ」
えぐちさくらちゃんも輝く笑顔で烈火にしがみついてくる!
しかし思い出していただきたい!
烈火が患う奇病によって、現在彼女はムッキムキのモヒカンに見えている!
それが輝く笑顔で抱きついてくる! 極めておぞましい光景だ!
目の下に青い線が何本も現れる!
「あぁ、おう……」
すっげぇゲンナリしてる! テンションだだ下がりだ!
「あっ、あにきだ!」
と、そこで甲高い声が聞こえた!
新たなモヒカンが元気よく駆け寄ってくる!
「おっすーあにき、なにしてんのー?」
小柄なモヒカンだ! つってもさっきのモヒカンズ(本物)や烈火に比べればの話であり、さくらちゃんよりはずっとでっかい!
「ああん? コータか。わかってんだろおめー世紀末ストレスがやべーんだよマジマジどっかでモヒカン見てねえかこの野郎?」
「あー、世紀末伝承者って大変だねー。ごめんけどオレは見てないよ。というか最近モヒカンあんま出ないよねー」
こいつはコータ! あの、なんか、幼稚園時代からあにきあにきと後ろをついてくる烈火の舎弟的なアレだ! 烈火から世紀末拳法をさわりだけ教わってて、伝承者ってほどでもねーけどけっこう強い! タイマンならモヒカンでも余裕だ!
それでも烈火にはモヒカンに見えてしまうあたり、奇病の要求基準は高すぎだ!
「それよりその子どしたの? あにきの隠し子?」
「なわけねーだろおめー迷子だよ迷子。ママンとはぐれちまってんだよ。なー?」
「ねー?」
肯きあう烈火とさくらちゃん!
「つーわけで、ほい」
「わわっ」
烈火はさくらちゃんをコータに手渡した! アイテム扱いか!
そして最高にいい笑顔でサムズアップ!
「任せた!」
「爽やかな育児放棄……!! 日本はどうなってしまうのか……!!」
「いやお前違うんだよ馬鹿野郎お前育児放棄とか人聞きの悪い、あのー、あれだよ馬鹿野郎、ほらあるだろほら最近さ、いろいろさ馬鹿野郎」
「特に何も言い訳を思いついてないけど適当な言葉を繋いで時間を稼ごうとしている!」
「正論やめろ殺すぞ! めんどくせーなオイこいつも育児も!」
「オブラート!! この子も聞いてるオブラート!!」
「つーわけでじゃーな!」
「あっ、こらっ!」
烈火はダッシュで逃げてゆく!
実にクズい!
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