『もひかん☆えくすぷろーど』 #2
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「もー、あにきいっつも勝手なんだから」
コータはぶすくれている!
烈火もどっか行ったことだし、ここらでコータとさくらちゃんの本当の姿を明らかにしておこう!
まずさくらちゃん! ふりふりした感じの服を着た五歳くらいの女の子だ! でっかいどんぐりまなこがひょこひょこ動いている! ちょっと茶色っぽいふわふわした髪も相まって、なんかぽややんとした子だった!
「おにーちゃん、いっちゃったねー」
「行っちゃったねえ。えっと、とりあえずオレは織咲小歌ってゆーんだけど、お名前聞いてもいいかな?」
「うん。えぐち、さくら、ですっ」
「ちゃんと言えたねー。えらいえらい」
「えへへ~」
コータはさくらちゃんを地面に下ろして頭をなでる!
白くほっそりとした指先がふわふわの髪を梳いた!
脱色した白髪の間から、くりくりとした悪戯好きそーな目がのぞく! 目の下には涙滴をイメージしたメイクがあしらわれていた!
首には黒革チョーカー! 手首には黒革バンド! ドクロ柄の黒タンクトップ! シルバーチェーンのアクセ! 赤いフリルのついた黒いミニスカート! そこから伸びるふとももに沿うようにガーターベルト! んでもって赤と黒の縞々ニーハイソックス! 黒革ベルトで締め上げられたブーツ!
そして特に注目すべきは黒タンクトップを窮屈そうに押し上げるパイオツであり、ドクロ柄に「三」の形の皺ができるレベルでむちむちと張り詰めておりますぞデュフフフフこいつぁ最低でもGカップいやいやことによるとHカップいくかもしれませんぜ旦那!!
「なんかそこはかとなくやらしい視線を感じるなー……」
「ほえ?」
さすがギャグ時空! 第四の壁の規制がゆるい!
……ともかく、パンク娘だった!!
しかしこめかみあたりでウサギのあみぐるみがついたヘアピンが髪を留めていて、そこだけ無闇やたらとファンシーだ!
「あっ、そのウサちゃんかわいいねー」
「お、さくらちゃんは目の付けどころが良いですな~。ちょっと前にあにきにもらったの。いいでしょ」
「いいないいなー。どこでうってるのかな?」
「うーん、オレもちょっと探してみたけど、見つかんないんだよね。シリーズあるなら揃えたかったんだけど」
小歌は身をかがめてさくらちゃんのほっぺをぷにぷにした!
「でもさくらちゃんの方がかわいいよー」
「やう~、くすぐったいよぅ」
――なにこの天使持って帰りたい!
などと危ない方向に行きかけた自分の思考をせき払いで中断させる!
「こほん。んじゃまー、とにかくママ探しにいこっか」
「うんっ」
「最後にママを見たのはどこー?」
「んーとね、えっとね……しょうてんがい!」
そんなわけで小歌とさくらちゃんの、ママを捜して三千里が始まったのであった!
などと壮大な冒険が始まった風な言い回しになったが、普通に商店街の交番に行って普通に聞いたら普通にママと連絡がついた! 所要時間十分!
「あらあらまあまあ、うちのさくらが本当にお世話になりました」
「あっと、えっと、そんな、た、大したことじゃ……」
なんとなく良識的な大人からは白眼視されそうな出で立ちであることは自覚しているので、ちょっとしどろもどろってる小歌!
「ほら、さくらもお礼言いなさい?」
「こうたちゃんっ、ありがとー!」
「ふふ、ママに会えてよかったねー」
「お礼と言ってはなんだけど、小歌ちゃんって映画見る?」
「え? まぁけっこう行きますけど」
「ふふ、じゃあこれ、はい」
映画のチケットを手に入れた! コメディ映画だ!
「えっ、いいんですか?」
「主人と三人で行こうと思ってたんだけど、あのひとったらまたどこか行方不明になってるから」
さくらちゃんといい、離散しすぎだろこの一家!
「当分見つかりそうにないし、もったいないから受け取ってちょうだい? ふふ、彼氏でも誘ってみるといいわ」
「か、彼氏なんていませんよ!」
「あらあら、うふふ」
●
「う~~~モヒカンモヒカン」
今、モヒカンを求めて全力疾走しているこの男は、世紀末ストレスを溜めたごく一般的な世紀末伝承者! 強いて違うところをあげるとすれば、一般人も全員モヒカンに見えちゃうってとこかナ――!
名前は黒神烈火!
そんなわけでモヒカンのリスポン地点を捜してあっちゃこっちゃ彷徨った挙句駅前の商店街にやって来たのだ!
……時はまさに世紀末!!
老いも若きも男も女も、全員モヒカンだ!!
らっしゃいらっしゃいと威勢よく客を呼び込むモヒカンに買い物袋片手に井戸端会議を開くモヒカンに駄菓子屋の前で車座になってモンハンやってるちっこいモヒカンどもに腕を組んでくっつきながら微妙に頬を染めて歩いているモヒカップルに、ってイチャついてんじゃねええええええええぞテメェらァァッッ! いやイチャつくなとは言わんがせめて視界に入ってこない場所でイチャつけよバカヤロウなんなのマジキモすぎんだろモヒカン×モヒカンとか誰が得するんだよそのカップリング! 真剣にSAN値がゴリゴリ削れるわ!!
みたいなことを考えながら烈火は脂汗を流して必死にスルーする!
と!
そのとき!
「ヒャッハーッ! 爺さん! この新米あきたこまち10キログラムパックは貰っていくぜェーッ!」
「た…たのむ! 後生じゃ。見逃してくれ!!」
モヒカンがモヒカンの酒屋から米を略奪している!
「そのパックを定価で売れば、さらに多くのあきたこまちを仕入れることができる! 今日より明日なんじゃ~!」
それにしてもこの爺さん、ノリノリである!
「ヒャッハーッ! ますますこのあきたこまちを食いたくなったぜェーッ!」
「あひゃはああああぁぁぁぁぁッッ!!」
烈火、背後から槍のごとき抜き手! 心臓貫通! モヒカンはしめやかに爆発四散!
「おう、烈火かいな。相変わらず暇そうじゃのう。うちでバイトでもせんか?」
「うるっせえええええよ礼の一つぐらい言えやクソジジイ! あと午後ティーくれ!!」
「126円な」
購入した午後ティー(レモン)をゴッキュゴッキュ飲み干しながらさらなるモヒカンを求めて全力疾走!
しかし――少ない!
妙に少ない!
いつもならもっと大量に徒党を組んで略奪に精を出すのがモヒカンという生き物だ! この少なさは一体どういうことか!
モヒカンが沸く地域というものはだいたいの傾向があり、世紀末伝承者たちはそれぞれの縄張りを決めてモヒカン狩りを行っている! お互い無駄な衝突をしないための知恵である!
してみると――つまり!?
烈火の縄張りを侵すアホがいるというのか!?
「おいガキ! 最近俺以外の世紀末伝承者がこのへんうろついてなかったか!?」
「え? あー、それっぽいのいましたよ。なんか肩アーマーとマント装備でいっぱいモヒカン引き連れてました」
「SO☆RE☆DA!! どっちに行った!?」
「あそこの角を曲がって行きました……ってうわっ食らってる! 誰か粉塵!」
「もうないよー」
烈火、モヒカンどもをかきわけて全力疾走! 角を曲がる!
すると!
「強者は心おきなく好きなものを自分のものにできる……いい時代になったものだ」
銀髪! ロン毛! 高そうな白スーツ! 肩アーマー! そこから伸びるマント! 優美な長身!
イケメンだ!
イケメンがそこにはいた!
……イケメンだと!?
それはつまり烈火の奇病フィルターを通してすら元のままの姿で映る超希少人種であることを示していた!!
――世紀末伝承者!
この世の食物連鎖の頂点!
はっきり言おう! こいつらは軍隊でも止められない! 冗談抜きで一国を単独で制圧しかねない超絶ブッちぎり最強バイオレンス野郎どもなのだ! どんな法も奴らを縛れない!
そんな絶対強者がここに! 烈火の前に現れたのだった!
だが、烈火はぶっちゃけイケメンには興味なかった!
興味があるのはパイオツとモヒカンだけだ!!
そしてイケメンの周囲には大量のモヒカンがいた!
ものっそい徒党を組んでた! 三十名はくだらない!
「アッヒャアアアアアッハッハハアアアアアアアッッ!!」
残虐無惨スマイルで飛びかかる烈火! 血走る三白眼! 長い舌が犬みてーに口の端から垂れている! 知性の欠片も感じられねえツラだ!!
だがッ!!
「ふん、下郎が!」
「どあっ!?」
烈火の眼の前に白い影が立ちはだかったかと思えた瞬間、腕と肩を掴まれ視界が凄まじい勢いで回転ッ! 回転ッ! 回転しつづけるッ! 終わらないッッ!!
客観的に見るとなんかもう小型の竜巻かと言いたくなるような勢いで烈火の体が超回転しながら宙を舞っていた!
「――散華せよ」
イケメンがスカした仕草でクンッと指で地面を示すと、それに引っ張られるように烈火がアスファルトに垂直軌道で叩きつけられるッッ! 衝撃波が爆散して周囲の人々が騒然となったッッ!!
「ぐぎゃあ!!」
めり込んだッ! 烈火地面にめり込んだッッ!! ていうか周囲はもうクレーターだッッ!!
そのタイミングで画面がモノクロになったッ! テロップが入り、劇画調のフォントで「罪斗輪天舞」と技名が表示されるッッ!
説明しようッッ! 罪斗輪天舞とは! あのーなんか合気道の相手をクルッて回して投げ飛ばす感じの技の、えーと、なんか、凄いバージョンであるッッ!!
モノクロが解除され、時間は再び動き出したッッ!
「っっっってぇぇぇ~なクソがッ! あにすんだテメー!!」
烈火跳ね起きる! 頭にはタンコブだ! 冷静に考えてそんなクソデカいタンコブが出来たらつべこべ言わず病院にダッシュすべきだがギャグ時空だったッッ!!
「ほう、今のでミンチにならんということは、貴様世紀末伝承者か」
イケメンは頬を歪める!
「おうおうおう、テメーコラ、この超・天・才! 黒神烈火様のシマでなにやってんだテメーコラ。あん? 答えろや、おん? やんのかコラ?」
よくもまぁここまでザコ臭い名乗り口上ができるものである!
「はっ! 我が名を問うか。相当な無知蒙昧と見える」
ファッサーとマントを翻し、イケメンは凶悪な笑みを浮かべた!
「俺はツソ! 罪斗惨円拳のツソだ!」
は?
ツソ……?
え、それが名前……!?
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