絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #42
まったく同じ背格好の六人の青年は、現れたときと同じく、前ぶりなしに消えていった。まるで合成された映像だったとでもいうように。
後には、騒然と遠巻きに見つめる客たちだけが残された。誰一人、何が起こったのかを把握している者はいなかった。
――アーカロトは。
心機を臨戦させた。
「ゼグ。その二人から離れた方がいい」
ジアドとクロロディス。いったいなぜ守衛の探知を逃れてこの酒場に入れたのかわからないが、〈原罪兵〉である以上友好的な関係にはならなさそうだった。
「おやぁ? これはこれは、いやはやなんとも、つれない話じゃないか。エッ? さっきまであんなに仲良く杯を酌み交わしていた仲だというのにねぇ、アーカロト・ニココペクくぅん? エッ、どうしちゃったんだい? 君は? 急に? エッ?」
なぜこちらの名を知っているのか――という当然の疑問と同時に、なぜ知っている事実をバラすのかが不可解だった。
「ところでいったいどうして急に〈法務院〉が〈組合〉に襲撃をかけてきたと思う? 君もそこは不可解だったんじゃないかナ? 産出される罪業量さえ規定値を超えていれば、そこの地方政府のやりくちにいちいち口出しなどしないはず。なのにこの惨状は何なのか? いったいどこから君の情報が洩れちゃったんだろうねぇ? エッ、どう思う? アーカロトくぅん?」
「……あなたなのか」
気のない拍手が響く。
「はいせーかーい。偉いねェ、お利口さんだねェ。私がばっちりチクッておいたのだよ。もしもし、第五の絶罪殺機の繰り手たるアーカロトくんはここにいまーす! はいそこを右折です、ええ! ええ! 彼は現在お友達と一緒におつかいに出かけているのですヨ! あ、そこは直進ね! ってねぇ」
銃声。血が飛沫く。
クロロディスの耳が千切れかかり、頬に垂れ下がった。
「おもしれえ話じゃねえか、ええ? おっさん。ちょいと興味があるんだがどうやってあのジジイの素性を知ったんだ? あ?」
「ゼグ、相手を刺激するな」
「わかってねェなじいさん。こういう手合いと対等な対話なんざ時間の無駄無駄。さっさと拷問して情報吐かせるに限るぜ」
「どうやって、ねェ……」
瞬間、クロロディスの瞳から、何かが去った。
頬が、歪む。
特に凶相だったわけではない。
特に醜悪だったわけではない。
だが、洒脱で饒舌な紳士という虚飾を剥いだ向こうにあるモノに、アーカロトは正確な名前をつけることができなかった。
人が人に抱く、どのような感情とも異なっていたから。
悪意に似ていたが、そう断言するには何かが欠け、何かが余計だった。
ソレが、口を開く。
「この殻において、私は全知だ」
渾沌の煮汁に濁ったその瞳が、きゅい、と笑みの形に歪められるのを最期に――
クロロディスは窓から飛来してきた罪業場弾体に胸郭を貫かれ、直後に変形・伸長した無数の棘によって上半身をズタズタに引き裂かれて死んだ。
瞬間、酒場全体がさきほどとは比較にならない爆音で揺らぎ、そこかしこから乙陸式機動牢獄が突入してきた。
虐殺の始まりは、常に優雅だ。