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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #5
「おいおい、おいおいおいおいおい、なにトチ狂ってんだお前? 落ち着けよ、カッカすんな。今更聖人ヅラか?」
「そうじゃない。ミドルネーム持ちに手を出して、ただで済むわけがない。あんただってそれは分かってるはずです」
脇腹の銃口が、強く押し込まれる。
「車を止めてください。あんたについてって色々と美味い汁は吸わせてもらいましたけど、そればかりは許される罪じゃない」
「ふぅん。他の連中は? こいつと同意見か?」
振り返ると、十数丁の黒光りする拳銃の銃口が、一斉にヴァシムへ向けられていた。その向こうでは、脂汗をにじませた部下たちが余裕のない目で睨みつけてくる。
思わずため息も出る。
「……けんか、しておりますの……?」
シアラは座席にちょこんと座りながら、不安げにことのなりゆきを見ている。
「いいや、お嬢ちゃん。ケンカじゃないよ。何も心配はしなくていい」
「……わかった。わかったよ。さすがに青き血脈はまずい。〈法務院〉に届け出て、いくばくかの駄賃でも受け取って、それでしまいにしようや」
あからさまに空気が弛緩した。
ヴァシムはさりげなく腕を伸ばし、シアラの首を掴む。
「……っ!?」
子供は目を白黒させ、ヴァシムの手を引っ掻くが、万力のような力が込められた指は頸部にめり込み、的確に頸動脈を塞いだ。
あっけなく気絶。くたりと人形のように崩れ落ちる。
「……なんでガキを落としたんです?」
「あぁ? そりゃお前、」
瞬間、ヴァシムの前腕がぱくりと割れ、内部の罪業収束器官が露出。使い手の〈原罪〉を反映した物理干渉を行った。
腕を、薙ぎ払う。
伸長した長方形の罪業場が十数名の部下の上半身を斬り飛ばし、血飛沫を盛大に噴出させた。罪業駆動式直結車両の上半分も巻き添えを喰らって切断され、金属的な軋みを上げながらズレる。
むせ返るような血と臓腑と内容物の匂い。
「――まだこんな光景を見せるわけにはいかんだろうが」
腕を元に戻しながら、ヴァシムは肩をすくめた。
……ゆえに、反応が遅れた。
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