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第四の錬金登録兵装
少年の前に、激しい雷気を帯びた環が七つ出現し、筒を形成。その中に差し込まれた白銀の大槍が甲高い唸りを上げて回転。柄からは放射状に返しのようなものが突き出ていた。
――キュドムッ!
大気が激発し、異音とともに銀槍が消失――否、〈鉄仮面〉の動体視力でも捉えられぬ超々高速で射出された。
それは銀の直線となって少年と〈竜虫〉を繋ぎ――炸裂。
頭部から槍の侵入を許した〈竜虫〉の、蛇腹状の体節がジクザグに折れ曲がり、次々と圧潰。装甲の破片と青黒い体液が撒き散らされる。
少年は、前方に掲げていた掌を、力を込めて握り込んだ。
「ベータ崩壊開始!」
瞬間、〈竜虫〉の巨躯は、内部から急激に膨張し――爆裂。
凄まじい爆圧が〈鉄仮面〉の体を粉々にする前に、すでに転移は完了していた。
霊光の宿る綱をも千々に引き裂かれ、焼き尽くされる。
球状の爆炎が膨れ上がり、爆風が周囲の枝葉を折れよとばかりに揺さぶる。
〈鉄仮面〉は、愕然とその光景を見ていた。
希望が潰え去る、その光景を。
一瞬、気が遠くなった。
「貴様らは……貴様らはなんということを……」
思わず、〈黒き宿命の吟じ手〉を取り落とした。
優美なる魔剣は地上へと落ちてゆく。
「……自分たちが、何をしたのか、わかっているのか……」
「オブスキュア王国の国難を排したまでである。これにて森におけるヱルフの戦術有利が復活した。ほどなく、国土に侵入したオォクどもは駆逐されるであろう。我々の勝利であるよ、〈鉄仮面〉どの。」
「勝利……? 勝利だと……? やはり所詮は異邦の者か。何もわかっていないのだな」
両腕をだらりと下げ、俯く。
「貴様ら……エルフ族がこのままここでいつまでも平穏に生きていけるとでも思っているのか……!」
「ふむ、どういうことかな? 後学のためにご教授願おうか。」
「ふざけるな。余所者風情に教えることなどなにもない」
「おや/\、では余所者でなければよいのかな? ちょうど本物をお連れしてゐるのだ。存分に一説ぶっていたゞこう。」
「何を言っている……」
青年は懐から札を取り出すと、上に放り投げた。
すると――そこに小柄な人影が出現する。
黄金の柔らかい髪。白地に青の祭祀服。澄み切った深い蒼の瞳。神々しいまでの美貌。
それが何者であるかを認識した時、〈鉄仮面〉は戦慄した。
――本物……? 本物だと……!?
少女は一瞬、きょとんとして周囲を見回した。
直後に落下し、青年の両腕に受け止められる。
「やあ、いさゝかスリゝングな状況で申し訳ない、シャーリィ殿下。あちらの御仁が〈鉄仮面〉氏である。オブスキュア王国の国政についてなにか申し上げたいことがある様子であったがゆえ、殿下にご来臨いたゞいた次第。」
両腕で少女を横抱きにし、にこやかに微笑みかける青年。
そして――少女の蒼い視線が、こちらを向いた。
「うぅ……あ、あ……」
一歩、退く。
その、眼。
静謐な、無垢な、荘厳な、純粋な、広大な、可憐な、その眼。
〈道化師〉が拉致してきた偽物にはあり得ぬ、複雑な感情と戸惑いを秘めた、その眼。
「やめろ……」
首を振る。二歩、退く。
「……見るな……!」
「いかがされた? 〈鉄仮面〉どの。オブスキュア第三王女、シャーリィ・ジュード・オブスキュア殿下であらせられる。さあ、存分に思いの丈をぶちまけるがよろしい。」
その眼はかつて、安らぎをもたらすはずのものだった。希望をもたらすはずのものだった。
だが、運命はすでに変わった。不可逆に。残酷なまでに。
内部に複雑な構造を秘めた紺碧の宝玉は、それが差し向けてくる眼差しは、今となっては無慈悲な裁きの矢として〈鉄仮面〉の全身を刺し貫いていた。
「……見るな……見ないでくれ……!」
三歩、退く。
許しを請うように、〈鉄仮面〉は両掌を突き出し、蒼き目線を遮ろうとした。
「つまり御身はシャーリィ殿下が知っておられる人物ということかね。」
心臓を貫かれたかのような感覚に陥る。
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