絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #13
真っ先に考えられる代替エネルギーは、第五大罪の外側すべてを太陽光発電パネルで覆い尽くし、その電力を持って人類文明を維持するというプランだ。外の様子はわからないが、恐らく太陽は健在であろう。〈無限蛇〉の自乗倍増殖生産ならば数か月で工程は完了する。
だが、問題が二つある。
第一に、第五大罪の規模から試算した現存人類の文明規模を考えると、発電量が恐らく足りないということ。
第二に、自動生産プラント、自動構築機械、発電用パネルのような複雑な構造体は〈彼ら〉の均一化対象であるということ。
以上の点から、この最も簡単な方策は捨てざるを得なかった。
即座に、第二のプランを思いつく。
だがそれは、アーカロトにとって、覚悟を要する計画であった。
――これを実行すれば、僕は永遠の眠りにつく。
七千年どころの話ではない。二度と目覚めることはないだろう。
「……かまうものか……」
消え入りそうな声で、口が勝手に動いた。
その動きで、意識が浮上してゆく。
「……ぅ……」
ぐぎゅる、とおなかが鳴った。
目を開けると、目覚めて以降見飽きてしまったメタルセルの鈍い光沢がそこにはあった。
ゆっくりと身を起こす。
部屋だ。どこかのビルの中か。子供用の小さなハンモックがいくつも吊り下げられている。ぬいぐるみやロボットのおもちゃに交じって、鞘に納まったナイフや小さな銃器が無造作に転がっていた。薄暗い。
立ち上がる。食欲をそそる匂いが漂ってきていた。
ふらふらと匂いの方へ足を進めてゆく。部屋を出て、廊下を通り、そして別の部屋へと。
重い扉を開けると、光が一気に目を襲ってきた。
長いテーブルがあり、その上に見た目は多少みすぼらしいながらも、それなりに食欲をそそるよう盛り付けられた食事の用意があった。〈無限蛇〉の自動生産プラントから吐き出されてきた合成たんぱく質、糖質、脂質、食物繊維、ビタミンやミネラルが含有されるペレットなどが、どうにか料理に見える程度に調理され、皿の上に配置されている。
湯気が立つ。出来立てらしい。アンタゴニアスと接続すれば、活動に必要なエネルギーなど即座に肉体に充填されるのだが――七千年ぶりに目の当たりにした食べ物らしい食べ物を前に、アーカロトの消化器官はみじろぎした。
「さてぼうや」
用意された餐食の向こう。テーブルの反対側で、一人の老婆が席に着き、腕を台形に組んで口元を隠していた。
顔に刻まれた皺が、野蛮で無慈悲な美を浮き彫りにしていた。牙を剥くような笑み。
「ひとつ、取引といこうじゃないか」
彼女の後ろでは、台所に続くと思しき出入り口から、数人の子供たちが身を乗り出して、こちらの様子を窺っていた。
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