絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #62
罪業駆動列車に揺られて数十時間。かなり重力が少なくなってきた。
セフィラ間の移動を司る電磁加速レーンは、各セフィラの両極点から乗り込む。当然ながら、遠心力で重力を代替している以上、レーンの駅付近は完全な無重力だ。
「びゅーん! びゅーん!」
「いてっ!」
「あーん! あーん!」
当然、こうなる。
空中でくんずほぐれつ衝突して泣き虫のダリュが声をあげ、おかまいなくお調子者のカルは飛び回り、一番小さなトトが真似しようとしてゼグに首根っこを捕まえられ、双子の姉弟であるレミとレムはケラケラ笑いながらダリュの頬をつつき回している。
慌てて抱きしめようと座席を蹴ったシアラが目測を誤ってあらぬ壁面へと漂い始め、手足をばたつかせた。
ギドは我関せずと合成紙の書物を読んでいる。
「だーからシートベルト外すなっつってんだろうがおめーら!!」
「なんとー!」
「それはむりだぞ!!」
「ぶーん! ぶーん!」
「はわわ、だれかたすけてですわ~!」
「おりゃー、つかまえた!」
シアラとジュジュが空中で手をつないでくるくる回転を始める。
きゃいきゃいと騒がしい後部座席を尻目に、アーカロトは座席でふんぞり返っている。
「……ギド。とりあえず作戦を聞いておこうか」
「あ? ドタマに鉛玉ズドンだ」
「そんな簡単にいく相手のわけがないだろう。大量の守衛なりなんなりがいるんじゃないのか。ライフルの射程に近づけるかも怪しい」
「お前も察しが悪いねぇ、作戦なんて今話したらガキどもが敵にとっ捕まって拷問されたときに作戦がバレんだろうが」
いちセフィラのトップを殺そうというテンションではない。
「ではせめてアメリ氏の罪業場の性質だけは話してくれ」
「ふん、そうさね。〈原罪兵〉の中では他に類を見ないほど広範囲に展開する代物だ。〈教団〉の総本山は丸ごと役満ビッチの罪業場に沈んでいる。そこではすべての人間の区別ができなくなる」
「強制的に相貌失認状態にするのか」
「範囲内の全員に、だ。自分自身すら他者を識別することができなくなっている。まぁつまり、侵入はめちゃくちゃ簡単ってことだ。ちなみに相貌失認なんてレベルじゃないよ。体格や声でも区別できなくなる。およそ個体差ってものが認識できなくなるんだ」
それは。
どのような世界なのだ。
「〈教団〉の教理もここから来ている。人類皆平等、汝争うなかれってな。肉体と言う欺瞞に惑わされず、心を繋げとかなんとか、まぁ気色悪いやつをね」
さらり、とページがめくられる。
「あはははははー!」
カルが勢い余って飛んできたのを化勁して捕まえる。
「遊びたいのはしょうがないけど、頭はかばうこと。いいね?」
「おれはニンジャー! ニンジャー!」
聞いちゃいない。太古の神話生物の名を叫びながらすっ飛んでゆく。
「ずいぶんガキどもを手懐けたじゃないか」
「あなたのような悪い大人から守るためには、ね」
さらり、とページがめくられる。
「……アメリはさ」
アーカロトは横目でギドを見る。
剃刀で裂いたような切れ長の目が、どこか遠くを見ている。
「アタシの娘なんだ」
「……そうなのか」
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