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始まらなかった夏の終わり - #8月31日の夜に

普段の夏なら、相棒にマッキーで登頂記録を書いているはずだった…。

初めて登った夏は、大した準備もせず麓の湖畔に泊まりにきた"ついで"だった。朝、早い時間に車を走らせて1,500m一気に登った。山登りらしいコトをするのは久しぶりだった。ひとつ前は、夏の尾瀬ヶ原に泊まりで行ったきりだったと思う。一気に飛躍して日本一だ。


麓からエンジンの力でスバルラインを駆け上り富士山五合目に着いた。世界遺産に登録されるはるか前から、開けていて広く、人の賑わいが感じられる場所だ。あれから駐車場が再整備されたり、土産物屋兼宿泊施設がリニューアルしたり、変化はしているけれど。


人生初の富士登山は当時体育会系の運動部のレギュラーだったこともあり、苦なく"日帰り"登頂できた。登山道中はガシガシという表現はぴったりな足取りで登った。吉田口の山頂から剣ヶ峰を巡った。「こんなモンか」なんて斜めな感想だった。まだ凄さを知らない頃。


翌年、天体観測の合宿で五合目に宿泊した。夏の風物詩「ペルセウス座流星群」の観測した。車で行ける五合目も標高2,000m程。天体観測にはもってこいで、満点の星空だ。中日にフラッと登った。また"ついで"まら"日帰り"だった。

その翌年、何かの"ついで"でなく、富士登山自体が初めて目的になった。初めて山頂で日の出を見た。「"御来光"、なるほど」と思った。

でも、まだまだ発見があった。初めて山頂から日の入りを見た。誰かが言った「あそこにはきっと天国がある」。日の入りは良かった。

それから毎年富士登山した。麓の北口本宮から1日で登頂した。距離は五合目からの3倍、富士登山駅伝のひとびとの超人ぶりを身をもって知った。静岡県側の富士宮口、須走口からも登った。何を思ったか、30kmある富士スバルラインを踏破した。まだ、御殿場口は登っていない。なんとなく最後にとってある。

初めて登ったあの日から、2019年の夏で50回目の富士登山になった。うち2回は台風直撃で途中下山した。登頂は48回だ。初めて登ったあの年から去年まで毎年登った。杖に登った証として登頂回数と時刻を書くのが慣しだ。白木の杖は書き過ぎて真っ黒になっている。

そして2020年、誰も経験したことのない夏が来た。

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今日8月31日の夜に、思い出すのは富士山と共に歩んできた夏の思い出だった。1シーズンで毎週のように登った。思いが強過ぎてあだ名が「富士山」にだった(むしろ栄誉)。毎年登ることがライフワークになった。富士山がきっかけで繋がった縁も数しれない。

でも、今年は登れない。

あの夏、"ついで"に登った富士山は、今はかけがえのない存在だ。

考えたら、自分の夏は始まらずに終わっていたのかもしれない。


来年、かの地に立てますように。



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