オランダ備忘録(2)水と緑の住宅地
大学からアパートの鍵を受け取って、スマラグドラーン(宝石の名前エメラルドだったかな)へ。
ライデンの中心地は、城壁に囲まれていて、その外、郊外に建てられた新興住宅地である。
新興住宅地のストリートは、ぜんぶ宝石の名前が付けられてた。
部屋は、普通の団地の一部屋。学生が多いけど、それ以外の一般住民も。
普通の団地といってもやはり日本のとは佇まいが違っている。
建物は、全体的な作りが大きくて、窓が広くて天井が高い。
たいていの団地が、窓枠などにペイントされていて、レゴ感というか四角いシンプルな作りの中にもお洒落間がある。
建物の前は芝生が広がっていて、背の高い北方らしい広葉樹が植えられていた。
一階には管理人室と、洗濯機などもある。
郵便ポストも。
部屋を呼び出せるフォンもあったか。
メインの扉を押し開けた瞬間に、独特の匂いがする。洗剤の匂い。
甘い洗剤に、クッキーの匂いが混じったような独特の匂いが廊下にしてた。
エレベーターの中も、この独特の匂いがもふっと漂っている。
居室に入る時、日本のドアと鍵の開け方が多少ちがって、手間取った。
異国にくると、部屋の鍵さえ開けられないという、幼い子みたいになっちゃうんだなあと思う。
居室は広かった。二人の相部屋なこともある。
廊下に漂ってた洗剤の匂いはしない。
白い壁。
大きな窓でとても明るい。
天鵞絨みたいな赤くて重いカーテンがかかっていた。
部屋の真ん中に、背の高いクローゼットと棚が背中合わせでおいてあって、
二人のスペースを仕切っている。
クローゼットは2メートルはあっただろう、完全に相手のスペースは見えない感じ。
とはいえ入り口から入ってくると、どちらのスペースもみえる。
各スペースにはベッドと机が一台ずつ。
ベッドの上には滞在セットを入れた段ボールがのってた。
ベッドカバーに枕カバー。お皿とコップ、フォーク、スプーン、小さなキッチンナイフ。
キッチンスペースはドアがついてて、入り口側にある。
私の相方はまだ到着してなくて、最初の何日かは一人で過ごした。
ベッドカバーは黒白パターンのモダンな感じ。ベッドの横にはオランダの街風景のモノクロ写真が大きなパネルで貼ってあって、ともあれお洒落である。
ベッドも快適で、長旅でつかれてたのもあり、わりと初日からよく眠れてた気がする。
もちろん玄関で靴をぬぐ習慣はないので、ベッドわきで靴をぬぐ。
汚れてきたらロッカーにあるモップで床を拭き掃除した。
窓の外には、大きな背の高い木の梢。それに芝生や、他の団地、空港が近いせいで飛行機雲がいくつも空にクロスしてることも多かった。
日本の宅地との違いは、とにかく緑が多い! コンクリート部分が少ない。
公園の中に住んでるみたいで、ただ歩いてるだけで心が和む。
運河が、血管のように都市の細部に行き渡っていて、道端には小さな小川のように流れている。
水鳥がいたり。
ところどころで池になってて、そういう池の前の家の庭には芝生にデッキチェアが置かれてたり。
沿道には芝生と、木々が続いている。
歩道も、石のブロックか何か敷かれていて、触感が有機的である。
運河や池には白鳥もよくいた。
オフィスの建物の裏の池に、そのオフィスが映ってたり。
とにかく澄んだ水と池の佇まいが印象的。
オランダの建物は全体的に、レゴ感というか、
どっしりした質量感と、色や丸い装飾などで可愛さが同居してる。
ベルギーとかフランスみたいなレースみたいな女性的で繊細な装飾は
あまりなく、武骨でごろっとしてるんだけど随所に遊び心が加えられてて
可愛くておしゃれだった。
大工さんのこだわった手作りみたいなハンドメイド感がある。
――続く――