
ミミズクの沈黙、てのひらの目
アルジェリアの言い伝えでは、「眠っている女性のてのひらにワシミミズクの右目があったとき、その女性は知りたいことをなんでも知ることができる」という。
フクロウの仲間であるミミズクは、古くから世界各地で知恵や神秘の象徴として扱われてきた。そのミミズクが人にみずからの右目をあたえ、未知なるものを見通す力や予言能力を授けるというのだ。
とはいえ、てのひらにワシミミズクの右目、という状態がどんなものなのか、容易には想像しにくい。実際の目がそこにあるのか、ある種の痣のようなものなのか、それともタトゥーなどをさしているのか。いずれにせよ、神秘的な力が人の手に宿り、超越的な能力を発揮するということであろう。
科学の発展は、これらの言い伝えをたんなる神話や迷信として、世のなかの表舞台から引きずり降ろしたところがある。しかし、伝承のなかには往々にして、僕たちが忘れかけている自然への畏敬の念が宿っている。
なかでもミミズクやフルロウの仲間は、古くから神聖な生き物としてあがめられ、超自然の力を備えていると考えられてきた。その背景には、これらの猛禽がもつ生物的能力がきわめて優れていることがあるだろう。
暗闇のなかであたりをはっきり見通す視力や、静かに飛び立つ飛翔力、獲物を捕獲する強力な攻撃力。彼らは100メートル先にいる小さなネズミの動きさえも的確にとらえ、音もなく静かに羽ばたき、鋭い爪で捕獲するのだ。パラボラアンテナに似た顔盤は集音機能をはたし、左右で位置の異なる耳孔は音源の位置を立体的にとらえる。だからこそ彼らは暗闇のハンターになることができる。
こうした能力の高さから、フクロウやミミズクはアルジェリア文化においても重要な位置を占めてきた。地域によっては神聖視され、知恵と神秘の象徴とされたりもする。
そのいっぽうで、夜行性の猛禽として、死や禍の暗示とみなされてきた面もある。たしかにその鳴き声もすこし変わっていて、不気味といえば不気味でもある。
ここから先は
¥ 150
記事をお読みいただき、ありがとうございます! 短くはない分量なので、とても嬉しく思っています。もしご支援いただけるのであれば、よろしくお願い申し上げます。