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【ショートショート】「腹黒いハンカチ 」

腹黒いハンカチは持ち主にささやきかける。

腹黒いハンカチは持ち主に色々と指図をしてくる。

腹黒いハンカチは腹黒いハンカチの言う通りにするとその場を切り抜けることができるという唯一の長所を持つ。


真張(まはり)は音楽会へ連れられてきた。

こんなところ初めてで一体どうしていいかわからない。

座席に座ろうとした時、ハンカチが目についた。


 真張「あれ?これは誰かの忘れ物かな?でももうすぐクラシックコンサート始まるし帰りに 受付に届けよう。」

夫人「真張、早く座って。」

真張「はい。」 


そのハンカチはとても綺麗だった。

真張はハンカチを膝の上に置いた。

すると誰かの声が聞こえた。

謎の声「なんだ。君みたいな平凡な子か。がっかりだな。せっかくクラシックコンサートに来たんだからもうちょっとおしゃれしてきなよ。だいたいその髪、もうちょっと何とかならないのかな〜。アクセサリーも地味だし、何もかも 地味だね。」


真張は驚いた。一体誰がこんな束になった悪口を言っているんだろう?

キョロキョロ見回しても誰もいない。


謎の声「はぁ…。あー!がっかりだー!」

まだ悪口が続いている。見るとその声は座席に置いてあったハンカチから聞こえている。


真張「え?あなたが話してるの?」

ハンカチ「俺じゃなかったら誰だって言うんだよ!」

真張「え、ちょっとびっくりなんですけど…」

ハンカチ「こっちはがっかりだよ。まあ、いいよ。はいはい、わかりましたよ。」

真張「何がわかったの?」

ハンカチ「もうコンサートが始まるから、静かにしなよ。」

真張「はい…。」


クラシックコンサートは初めてだったが、とにかく素晴らしい演奏だったことはわかる。

真張は感動して思わず手にしたハンカチで涙を拭いた。

ハンカチ「この曲で泣けるとは、なかなかいい心がけだ。見込みはあるな。」

コンサートが終わった。


婦人「真張、指揮者のアリア氏に挨拶に行くわよ!」

真張「はい!あ、待って!これを受付に届けたいんだけど。」

夫人「 だめよ。急いで!アリア氏はとってもお忙しい方なんだから。」

真張はハンカチを手に持ったまま夫人と共に アリア氏に会いに行った。


アリア氏は世界的に有名な指揮者で大勢の人に囲まれていた。その中でも神々しさは際立っていた。

やっと夫人と真張の順番が来た。

夫人「とても素晴らしいコンサートでしたわ。」

アリア氏「お褒めいただき光栄です。そちらは?」

夫人「この子は真張と言います。」

真張は緊張でカチンコチンに動けなくなっていた。

その時、ハンカチがささやいた。

「俺をお前の顔にくっつけろ!」

唐突だったので驚いたが、真張りは言う通りにハンカチを顔にくっつけた。

アリア氏「おや、そんなに泣くほど感動していただけるとは、こちらも嬉しいです。」


真張はただ首を横に振った。


アリア氏「この後、演奏家たちとディナーの予定ですが、どうですか、皆さんでお食事でも?」


真張はそのままアリア氏を含めた演奏家たちごく数人と夫人とともにディナーへと招待され席へと案内された。

夫人はご機嫌でワインをたくさん飲んだ。

真張はここでも緊張してカチンコチンだった。

ハンカチがうめくように言った。

「苦しい…俺をそんなに握りしめるな…。」

真張は緊張でいつの間にかハンカチを握りしめていた。

「あ、ごめんなさい!」

ハンカチ「俺を広げて膝にのせろ!」

「はい。」真張はハンカチを膝の上に広げた。


世界的に有名な指揮者と演奏家たちとの会話はウィットに富んで終始笑いが絶えなかった。

難しい用語が登場した時はハンカチがささやいてくれたので、真張は会話に困ることはなかった。

夢のような時間が過ぎた。


グランドセントラル駅でアリア氏は皆に再会を約束した。

アリア氏を乗せた列車を見送る時、真張はハンカチを大きく振った。アリア氏が乗る列車が見えなくなるまで。 


ハンカチは「おいおい!そんなに振り回すなよ! 俺を何だと思ってるんだ!」 と相変わらずの口ぶりだ。

真張「ごめんなさい!今日はありがとう。おかげでとっても助かったわ。あなた口は悪いけどいいハンカチね。」


真張は幸せを運んでくれたハンカチきれいにたたんだ。

真張「もうコンサートホールには戻れないし…。」

真張「さようなら、ハンカチさん。」

真張は次の人へ幸運を託そうとグランドセントラル駅のベンチにそっとハンカチを置いた。


駅のベンチに置かれたハンカチ。

そこへ 両手に荷物を抱えたおばあさんがやってきた。

おばあさんはハンカチに気づかずにどすんと腰を下ろした。

ハンカチは叫んでいたがおばあさんは耳が遠くて聞こえない。

そして電車がやってきた。

ハンカチは駅のベンチにポツンと置かれたままだった。

(おわり)


仲間とショートショート作家の会を結成しました😎

今日の作品には、ショートショート作家の会の主催者である方のお名前をスペシャルゲストで登場していただきました💝

これから毎週投稿します✨

記念すべき第4弾です🎉

お読み下さりありがとうございました🥰

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