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コカゲ(2):視た日の記憶

この記事はブループロトコルの自キャラ設定に関連する創作ストーリーです。
ブループロトコルは、バンダイナムコオンラインとバンダイナムコスタジオによる共同プロジェクトチーム PROJECT SKY BLUE が開発する PC 向けオンラインアクション RPG です。
©2019 Bandai Namco Online Inc. ©2019 Bandai Namco Studios Inc.



街道沿いの遺跡はすっかり暗くなっていた。草木も寝静まり、人の気配は感じられない。

もしさっき夢の中で誰かに起こされなかったらそのままずっと眠って・・・しまっていたに違いない。安全に休める場所を探していると、血液のいまいち行き渡らない脳がゆっくり動き出した。

真紅の短刀。

私を襲撃した何者かが握っていた一振り。仕事・・で癖のある刃物をいくつも見てきたし、趣味でもたくさん集めていたけれど、あんなに鮮やかな真紅の刀身は初めてだった。

それに襲撃者。おそらく暗殺者であることは“元”同業者としてなんとなくわかる。死角からの迷いのない一閃は確かな意思を感じた。重みの乗ったそれを躱すことができなかった。

いったいいつの仕事の残件・・だろうかと、常に死と隣り合わせだった昔の記憶を辿る。今こうして生きていることは本当に奇跡だと改めて思う。




仕事・・を辞めること。生きること。それが結婚する前に彼と交わした二つの約束だった。

これまでの仕事の中で唯一仕留めそこなったターゲットに見事に仕留められる形となった。その後かわいい娘が彼との間に産まれるなんて、影の世界に生きていた頃の私には想像もできないだろう。

わが子が産まれてからすぐに彼は行方不明となった。一年後、ルミナと一緒に彼を探す旅に出た。

幼いルミナとの二人旅はもちろん困難だらけだけど、最近は少し楽しくなってきた。彼は必ず見つかる。そんな気がしている。不思議なほどに前向きな気持ちでいられるのはたぶん彼の言葉の影響だ。

「道に迷う人ほど虹を見つけられる。地図ではなく景色を観ているからね。」

胸に刻んだ語録の一つを思い出しながら遺跡の小部屋の壁に背を預ける。天井の細かい装飾すら朽ちていないのは、失われた加工技術と特殊素材によるものだ。小部屋の大きな窓越しに広がる空間は転送装置のような印象を受ける。

迷子でもいい。ゆっくり広く世界を見渡せばきっと得られるものがある。のんびりと先を見据える彼らしい言葉は私を何度も救ってきた。

ほら、こんな風に──

視線の先、広い空間の中央辺りには「真紅の短刀」とルミナの握りしめていたおもちゃが転がっていた。




小部屋の扉を開けて広い空間へ出ると、音の反響が変わった。人の気配はない。思ったよりも天井が高い空間はそこに立つだけで背筋がゾクリとする。

やはりルミナのお気に入りのおもちゃだ。あっぽ(まだナッポと発音できない)の小さなぬいぐるみに柔らかいドーナツ状の取っ手がくっついていて、振ると「ふにょふにょ」「ひょかひょか」擬音語にしにくい間抜けな音がする。ルミナはいつもこれを握りしめているので少し臭う。

あっぽをポケットに入れたあと、警戒しながら「真紅の短刀」を拾い上げる。鞘から抜いて確認すると惚れ惚れするほど鮮やかな色が目に刺さった。この手の刃物の収集が趣味だった昔の私なら間違いなくコレクションに入れただろう。

間違いない。これが私とルミナを──

ポケットの中の「あっぽ」に何気なく触れた瞬間、不意に体内のエングラムが乱れた。

腕を伝って何かが流れ込む。

それは体の芯まで到達すると一気に私を覆った。




広い空間の中央。
あっぽになった私はルミナに握りしめられている。
ルミナは「カメラの女性」に抱っこされている。
カメラの女性は小声で何かを呟く。

広い空間全体が光に包まれた。

そこにはあっぽの私だけが残された。




落下する夢から起きる時の感覚。

気づくと私は私に戻っていた。



次のお話


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