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コカゲ(4):願った日の記憶
この記事はブループロトコルの自キャラ設定に関連する創作ストーリーです。
ブループロトコルは、バンダイナムコオンラインとバンダイナムコスタジオによる共同プロジェクトチーム PROJECT SKY BLUE が開発する PC 向けオンラインアクション RPG です。
©2019 Bandai Namco Online Inc. ©2019 Bandai Namco Studios Inc.
木々がつくる影は重なり合って、複雑な模様を街道の石畳に描いている。常に通り抜ける風は模様を次々と変えていく。
暑い季節の終わり。木々が街道に描くそれも次第に伸びてきた。まもなくその時刻だ。
私は私の名前の由来である木陰の中に腰を下ろしている。辺りに人の気配はまだ感じられない。
あとはここでルミナと私を襲撃から守るだけ。脇に置いたカバンの中のあっぽを触ると少し気持ちが落ち着いた。カバンから取り出して鼻に近づけるとルミナの匂いがした。相変わらずこの子はあのクロノゲート以来何も視せてくれない。
あっぽをカバンにしまおうと、反対の手で荷物の隙間を確保する。カバンの中には旅先で購入したよく効く日焼け止めクリームや、寝相が良くなるというハーブの精油が入った小瓶、それに開拓局の無効印が押された冒険手帳などがひしめいている。もちろん「真紅の短刀」も。
あの時代で襲撃者の手がかりを得られそうにない私は、より確実な「この時代で襲撃を直接阻止する」計画へ重心を移した。ルミナも見つけることはできなかったが、「夢のあの子」を追って各地を飛び回ったおかげでたくさんの虹を見つけられた。
「道に迷ってもいい。」
彼の言葉が自然と湧いてきた。
風が吹く。街道の模様が変わる。
仕事を遂行する場合、現地には早めに入って地の利を得ておくのが基本だ。しかし襲撃者は一向に姿を見せない。
もしや場所を間違えたのだろうか。または日付が違うのか。時間と空間の座標は入念に調べたはずだけど少し自信がなくなってきた。何か些細なきっかけでそれが変わってしまった可能性もなくはない。
気まぐれな風が木々の葉をざわざわと鳴らす。
襲撃を直接阻止する計画の最終段階。クロノゲートを通って元の時代に戻るところまでは順調だ。
あの時受けた傷は完治した。仕事をしていた現役時代とまではいかないが、開拓局での経験は体力と戦闘技術をそれなりに高めてくれた。すべてはこの時のために。
ふと、風が止まる。
遠くに足音。
人の気配がする。
来た。
一気に仕事モードに入る。
懐かしい空気。
研ぎ澄まされる感覚。
周囲の雑音が消える。
カバンの中の「真紅の短刀」の隣に、音を立てないようにあっぽを素早く突っ込む──
突然、体内のエングラムが乱れた。
あっぽだ!
こんな時に!
気配は迫る。
けれどもそれはお構いなしに流れ込んでくる。
いや、これは「真紅の短刀」から?
この星のすべてはエングラムで構成される。そのエングラムへ強い意志が作用すると結晶化してイマジンシードとなることは広く知られている。
結晶化する前の微弱なエングラムも増幅して発現させる力を持つ短刀。それが増幅させたのはルミナお気に入りのあっぽが持つ小さな記憶。
気づいた頃にはエングラムの流れは体の芯に到達し、次の瞬間一気に私を覆った──
「この子を……ルミナを……よろしくお願いします。」
そう言い残して私は石畳の上で動かなくなった。
あっぽの私はルミナに握りしめられている。
石畳の上には赤い水たまり。
「あなたの名前──」
心肺蘇生をするカメラの女性の手が一瞬止まる。
「あなたの名前、私と同じ。
瞳も……髪も……。」
ルミナに向けて呟いたカメラの女性を
翠の小さな瞳は不思議そうに見上げる。
しばらくの沈黙。
ルミナの桃色の後髪を撫でた手は私の頬に移り、喉につかえていたそれはようやく声になった。
「私の……おかあさん……なの?」
カメラの女性の声は震える。
「……おかあさん?」
地面の私は動かない。
「おかあさん……!」
ルミナの翠の目にそれが滲む。
「おかあさん!!」
叫ぶと頬を伝って零れ落ちる。
「ねぇ……」
ルミナの柔い髪の毛に落ちる。
「おか……さん……」
あっぽの私に落ちる。
「…………」
私に落ちる。
ルミナは涙を拭い、息を吸い、空を見上げる。
慣れない手つきでルミナを抱き上げる。
「あなたは始まったばかりの小さなお話。」
キュッと結んだ口が少し緩んだ。
「昔むかしあるところに、
ルミナという小さな女の子と
何でも知っている物知りおばあちゃんが
暮らしていました──」
「私はね、このお話がすごく好きなんだ。」
「ひとりの女の子が
おばあちゃんに育てられて、
田舎から街に出て、
初めてだらけのことに戸惑って、
仲間と出会って、
世界中を旅するお話。」
「あなたにも『この先のお話』を
聞かせてあげるね。」
「小さなルミナさん。」
木々がつくる影は重なり合って、複雑な模様を街道の石畳に描いている。常に通り抜ける風は模様を次々と変えていく。
「そっか。」
「ルミナは大きくなったね。
いろんなことがあったんだね。
たくさんのお話を、世界に聞けたんだね。」
近づく気配は二つだけ。
大人と子ども。
「あの時起こしてくれたのはルミナだったんだね。
『おかあさん』って言えるようになったんだね。
私より素敵な人になったんだもん。当たり前か。」
何も知らない私と小さなルミナが歩いてくる。
ルミナはあっぽを振っている。
「おかあさんもね、ルミナのお話、聞いてたよ。
できればおかあさんもお話に一緒に出たかったな。
でもやっぱり……」
あっぽの間抜けな音が近くなる。
「出会い、別れ、喜び、悲しみ、決心、願い。
旅の足跡をなかったことになんか、できないよ。」
ふにょふにょ
ひょかひょか
「それにおかあさん、ルミナのお話大好きなんだ。
もっともっと、聞きたいんだ。
だからどうか──」
あっぽの間抜けな音がすぐそばで止まった。
私はカバンにあっぽをゆっくりとしまうと
「真紅の短刀」を鞘から抜いた。