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コカゲ(3):焦がした日の記憶
この記事はブループロトコルの自キャラ設定に関連する創作ストーリーです。
ブループロトコルは、バンダイナムコオンラインとバンダイナムコスタジオによる共同プロジェクトチーム PROJECT SKY BLUE が開発する PC 向けオンラインアクション RPG です。
©2019 Bandai Namco Online Inc. ©2019 Bandai Namco Studios Inc.
ベッドが逆さまになっている。
机も椅子も逆さまだ。
寝相が悪い私にとってはよくある朝。壁に逆さまに掛かった39年前のカレンダーが今日は休日だと教えてくれた。ベッドから半分落ちた頭を持ち上げて体を起こすとコイン亭二階の質素な部屋は元に戻った。
あの日、ルミナを追ってクロノゲートに飛び込んでから、この時代で1年と少しが経った。
アステルリーズは今日も朝から暑い。さすがに下着姿で一階のキッチンを借りるわけにはいかないので上から一枚羽織る。コイン亭の亭主が紹介してくれた腕の良い医者のおかげで、1年前(正確には39年後)受けた大怪我はほぼ治っている。何から何まで彼には本当にお世話になりっぱなしだ。
部屋の扉を開けて薄暗い階段を降りると、誰もいないキッチンには昨晩の宴会の香りが残っていた。年季の入ったフライパンを壁からコンロに移して一瞬手を止める。
「夢のあの子」の今朝はベーコンとたまごだったな。
食料庫からベーコン、たまご、チーズ、少し萎れたトコヨ草を出す。ベーコン3枚をフライパンに乗せるとキッチンには朝が広がった。
新しい一日が始まる匂い。
ワクワクする冒険の匂い。
休日の早起きも悪くない。
しかし朝からよく食べる子だ。
この時代に来てから「あの子」の夢をよく見る。はじめのうちは私自身のような気もしていたけれど、私よりも世間知らずでちょっと独特なところを何度か見て、違うかもとの結論に至っている。
そして確信と言ってしまいたい期待をしている。
翠の瞳が私に、そして桃色の頭髪は夫そっくりなのだ。
会ったことはないけれどなんだか知っているような気もする彼女は、夢の中でカメラを片手にレグナスの各地を旅している。好奇心旺盛な彼女はどこに行っても楽しそうだ。時にはヒヤヒヤすることもあるけれど。
開拓局に籍をおいている私自身、彼女の訪れた場所の依頼を優先的に入れるようにしているものの、彼女までたどり着けたことがない。やはりただの夢なのだろうか。
今まで訪れたことのある場所を順番に一箇所ずつ思い返してみる。彼女を追っていると本当に退屈しない。私の冒険手帳に挟んだ地図はいつの間にかメモでいっぱいになっていた。
彼女もこれと同じ、いや、これ以上の彼女だけの物語を世界に聞いているのかもしれない。
焦げた匂いがキッチンに漂う。
「カリカリベーコン」ができあがった。
自室に戻り、たまごとトコヨ草の炒め物と「カリカリベーコン」の乗った皿を窓辺の丸机の上に置く。
カーテン越しに差し込む暑い季節の光が一筋、出窓に座ったあっぽ(ルミナのお気に入りのおもちゃ)に射している。ここへ導いてくれたあっぽはあれ以来、私に何も視せてくれない。あの幻視は何だったのだろう?
来週は先日の場所で引き続き聞き込みをしてみるか。もしくは場所を変えるか。地図を出そうとカバンをあさっていると、ベッド脇の本棚に立てかけた何かに肘が当たった。
真紅の短刀。
あの日、私を襲撃した何者かが持っていたもの。クロノゲートにあっぽと一緒に落ちていた。ルミナ探しの手がかりの一つを、あの日から肌身離さず持っている。襲撃者の情報も同時に探っているが、こちらも収穫はない。
襲撃者は本当にルミナを追ってこの時代に来たのだろうか?経験上、この手の仕事は残件とならないようにターゲット以外の関係者もキレイにしておくことが多い。だとすると私の子であるルミナを追うのは自然なのだけど。
咄嗟だったとはいえ、「カメラの女性」には本当に悪いことをした。もしも39年後に戻れるならば、もっと入念にお礼を言いたいし謝罪もしたい。そして戻れるならば……
──戻れるならば?
あの時代とこの時代は繋がっている。
もしもこの時代で襲撃の原因を取り除くことができたならばあの時代で襲撃はなかったことになる。あるいは39年後の襲撃を私が直接阻止できるのであればそれが最も確実だ。
うまくいけば私とルミナは予定通り一緒に旅をすることになるし、カメラの女性は引き続き撮りたいものを撮れる未来が続くだろう。
出窓の光の一筋はあっぽを通り過ぎ、真紅の短刀を照らしている。私はカリカリベーコンを端に追いやり、手帳と地図と「時を超えた壮大な計画」を狭い丸机の上に広げ始めた。