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【27話】「悶々とした」結婚生活にターニングポイントが来る

結婚3年目。私はフリーランスになったにも関わらず、相変わらずバークレーの同じ事務所を借りていた。自宅には夫が一日中居るし、狭い家の中で24時間顔を突き合わせたくないというのもあったが、夫から指図されず、この事務所で過ごす間が私の唯一の「自由時間」だった。 

この頃、「地球の歩き方」を始め、「まっぷる」、「ことりっぷ」、タビトモなど日本のガイドブックの現地担当として執筆していた。ガイドブックのクライアントは徐々に増えていき、たまに日本からの取材班をコーディネートする事もあった。「地球の歩き方」は、コンテンツ前の特集8ページを任され、フォトグラファーとしてもデビューした。

一方でフリーランスとしてのオンラインマガジンは思うように進まなかった。当時主流だったウェブサイトのコンテンツ作成ソフト、「ワードプレス」を思うように操作できないのが、原因だった。膨大な写真の量を処理しきれないのだ。それでもこれまでの書き溜めていた記事を少しずつアップしていた。

でも商業的に言えば、ブログや記事を書いているだけでは、収入は雀の涙。かといって、主人が私にお小遣いをくれるわけでもない。事務所代は相変わらず自分で払っていたし、友達と食事にもいけないほど経済的に疲弊していた。 

キャリアも夫婦生活も悶々していた。そんな時、突然通訳会社を経営する知り合いから一本の電話が入った。内容は、発電所建設のエンジニアの通訳の仕事だった。「通訳の経験がないのになぜ?」と不思議だったが、長期サポートと聞いて納得した。 1ヶ月ほど工事現場の近くのホテルに住み込み、日本の本社から派遣された日本人エンジニアの通訳と生活サポートをして欲しいという事だった。

通訳のキャリアもない上、英語の自信もなかったので、「通訳は無理」と伝えたところ、通訳のレベルに至らずも日常会話プラス程度でも良いと言われた。不便な場所で長期滞在できる人は簡単には見つからなかったようだ。一方私は、フリーランスなのか失業者なのかわからない日々を過ごしている暇人だった。 

私にとって夫としばらく離れて頭を冷やす機会かもしれない。それに短期といってもまとまった収入が入るのは、願ってもないチャンスだった。「それまで膨大な時間を費やしても収入には程遠いフリーランスの仕事に行き詰まってた分、環境を変えてみるのも良いかもしれない」。

しかしそんなイージーマネーなど転がってるはずはない。勤務先はネバダ州のとんでもない田舎で、最高級ホテルはHotel8, レストランたった4軒のほとんどファーストフード、しかも極寒の中、外で仕事するらしい。

田舎で極寒の中の勤務には抵抗があった。仕事内容も適正なのかかわからないし、1ヶ月も耐えられないかもしれない。とりあえず今回2週間だけ、その後は相談という条件で仕事を受けた。

夫はといえば、私に仕事が入った事をとても喜び、なんの抵抗もなく許可した。そもそも家に居ても2人で共有する生活はほとんど無かったので、私が家に居なくても彼には不都合はない。

フリーランスになって初めての出張。少し目指していた職業とは趣旨は違うが、確実に収入を得られる。 不安を抱えながらも家を後にした。しかしその後、この仕事が人生のターニングポイントとなる。

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