15. 変わりつつある「美のスタンダード」。世界と比較する「日本の美」は。Body Confidence and Body Positivity。
美しさの定義というのは、時と共に変わるものであり、個人によって変わる主観的なものです。
早いスピードで変化した、西洋における美の定義
アメリカやイギリスなどの西洋文化では、自信を持つ人が美しく、魅力的だという考えがあります。人の考え方は自分の力で変えることができるという考えから、うじうじしていたり、ネガティブだったり、自分を卑下したりすることが、何よりも格好悪いことなのです。「内面」の美しさが重要という考えです。この考えは近年のボディ・コンフィデンス(自分の体に自信を持つこと)やボディ・ポジティブ(自分の体にポジティブに向き合うこと)の活動から、どんどん西洋文化で広がりを見せています。
西洋でのボディ・コンフィデンスやボディ・ポジティブは、従来の「長身で細身の白人だけが美しい」という考えを払拭し、どんな体型でも、どんな肌の色でも、ありのままの自分を美しいと受け入れてあげるという考えです。この考えは、過食症や拒食症などの、摂食障害が長年問題になっていたことや、#MeTooムーブメントによって、女性のエンパワメントが進んだことで、女性の美しさの定義が変わってきているということ、人種差別をなくそう活動が活発になっているという様々も後押しして、物凄いスピード感で広がっています。また、SNSなどの新しいツールができたことで、美しさの多様性をコミュニケーションする場が増えたことも、いろんな人の共感を得ている理由の一つだと思います。
今では、様々な人種やプラスサイズモデルの起用が当たり前になっていますし、逆に多様な人種やプラスサイズモデルを起用しないブランドは、エシカルなブランドではないと、顧客の購買意思決定にも影響がでるほどになりました。
https://www.vogue.co.jp/change/article/why-the-body-positivity-movement-still-has-a-long-way-to-go-cnihub
ボディ・ポジティブ後進国ー中国、韓国、日本
では、アジアではどうでしょうか?日本を含むアジアでは、「内面」の美しさよりも、「見た目」の美しさが重要という考えが強くあります。これは、人種間(homogeneous country:単一人種)に違いがない場合に起きやすいのですが、中国、韓国、日本、共通するのは白くて、細くて、若いのが美しい、という定義。昔から存在していた、狭い美しさの定義がアジアでは逆に助長されたのです。
ただ、少しずつではありますが、中国や韓国でも、この細くて、白くて、若い(そして可愛い)という美しさの定義は変わりつつあります。
CASE1 中国
中国では内外(NEIWAI)という下着ブランドが、スタンダードな美しさではない、多様な美しさをもつ見た目、体型、年齢のモデルの起用をはじめました。国際ウィメンズデーに、Nobody is No bodyというインスタグラムで、スタンダードな美しさではない女性をフィーチャーしたキャンペーンを行い、注目を浴びています。
また、プラスサイズや今までのスタンダードではないサイズを取り扱うブランドが増えてきたのと同時に、SNSでもプラスサイズの女性のファッションを取り上げるような投稿も増えてきています。
CASE2 韓国
意外かもしれませんが、韓国では、もう少し西洋の考えが浸透していて、今までの美しさの定義を押し退けようというメンタリティがより浸透しています。韓国は、美容大国。だからこそ、長年狭い美しさの定義に苦しんでいる人が、より多く存在し、この新しい美しさの定義に共感する人が多いのかもしれません。ビーチで19名のインタビューを行った下記の記事では、若い世代からもっと上の世代まで、多様な美しさの定義を共有する女性が紹介されています。
整形やエンターテイメントが盛んな韓国だからこそ、それについて疑問視する人が多い。「細かったり、顔をいじっていたりする人をテレビでみても、不健康であるようにみえる」「綺麗に着飾っている人をテレビで見ていても、モノとして扱われているようにしか見えない、私はそういう風にはなりたくない」「他の人になんと言われようと気にしないようにしているし、他の人も見た目で判断しないようにしている」「自分が納得できればいいと思う、健康と思えることが大事」(意訳あり)と、ボディ・ポジティブについて浸透していることが伺える。
CASE3 日本
では、最後に日本ではどうでしょうか。
日本では、未だに「こうあるべきだ」という美のスタンダードがありますが、中国と韓国同様に、ゆっくりとボディ・ポジティブの考えが広がりつつあります。
日本に存在する美のスタンダードについて、日本に十年間住んでいるカナダ人女性が記事を書いているのですが、日本人の友人に「あなたはもっと痩せなくてはいけない、痩せないと誰もあなたを真剣に取り合ってくれないし、結婚なんて言語道断だよ」と言われて衝撃を受けたと言っています。また、買い物に行く際に、日本では小さいサイズしかないことも他の外国人に注意しています。それほどに日本社会において、「細い」ことが重要視されているのです。
その一方で、渡辺直美さんや森三中、バービーさんなど、テレビではぽっちゃりしている女性が絶大な人気を得ており、ぽっちゃりしたことが社会的に受け入れられていないわけではありません。しかし、彼女たちは「芸人」で、「女性」として、「美」のロールモデルとして人気を集めているわけではないことを残念としています。
また、日本の下着ブランドの中で、美しさのスタンダードを変えようという動きが活発化されてきています。下着ブランドのピーチジョンがプラスサイズの起用を開始したり、経血吸収ショーツNagiや女性の月経に合わせた下着のあり方を提案しているEMILY WEEKでも、今までよく目にした細くて谷間を強調するようなイメージを使用していません。
自尊心・自己肯定の授業
ここで少し話がそれますが、自尊心(self-esteem)と自己肯定(self-acceptance)についてお話します。
Savvy Tokyoの記事で、Hilaryさんは、日本に訪れる外国人に対して「自分の体について自信を失わないで!細口なくてはいけないと言う日本人に、自尊心を奪われないで。買い物に行って、自分のサイズがなくても、自分の体型が嫌いにならないで」というメッセージを残しています。
西洋では、Self-esteemについて、とてもポジティブに考えており、生まれ持った自分の顔、体、肌の色、性格、考えなど、自分自身を受け入れて、自分自身を好きになろう!という考えがあります。
私は高校はアメリカの現地校に通っておりましたが、「健康的な精神を養う」ための授業が必須科目として存在していました。つまりは今よく聞く「ウェルビーイング」「マインドフルネス」ということに繋がるのですが、自分を肯定してあげて、大事にすることが重要ということを教える授業でした。そして、それは自分だけでなく、他の人に対して接する際にも相手を肯定してあげることが重要ということを教える授業でした。Self-esteemやself-loveに気をつけたり、訓練することで、健康的なマインドを作ることができ、より豊かな生活を送れるというものです。
ボディ・コンフィデンスやボディ・ポジティブは、今後広がる?
絶大な人気を誇る渡辺直美さんは、日本に置いて太っている人の意識を変えたと言われているのですが、「太っていても、私のように派手に着飾ることが好きな人もいれば、そうでない人もいる。一括りにして“ポジティブに自己表現しなくちゃイケナイ”と決めると苦しむ人もいる。自信を持つというよりも、自分の体を否定せず好きになってほしいと思う。それは太りたくても太れない人でも背が低い人でも同じ。どんな体形も素敵なんだと発信し続けたい」と言っています。
アメリカでは、ボディ・ポジティブの活動が広まると同時に、痩せている人に対しての批判が増えてしまいました。本当のボディ・ポジティブというのは、痩せている=美しいでもなく、ぽっちゃりしている=美しいでもなく、多様な美しさがある、ということです。
ただ、フランスで細すぎるランウェイモデルの起用に規制ができたように、細さを追求するあまり、健康被害に悩む人や、最悪の場合では死に至ることもあります。日本では、20代からダイエットを行っている人がとても多いため、年齢を重ねると共に、カルシウム不足や鉄分不足などによる骨密度の低下や貧血などの問題を抱える女性が多いです。
ボディ・コンフィデンス、ボディ・ポジティブは、多様な美しさが存在することを気づかせてくれるもの。色んな姿があるからこそ、個性が美しいという考えです。今後日本もどんどん国際化が進むでしょう。その中で、多様な人種や考え方が溢れる世界になるかもしれません。
その際に、このボディ・ポジティブというイデオロギーが広がり、多様性を受け入れ、豊かなマインドで美しさを追求している人が増えれば良いなと思います。
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