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マスタリーラーニング(完全習得学習)のためのAI(LLM)活用のコツ

前回の記事で、AIの登場によって私たちの学び方が根本的に変わるという話を紹介しました。

しかし、実際にChatGPTなどのAIを活用して学習している人々の中には、「AIの解答には間違いが多い」「解説が的外れで役に立たない」と感じている方もいるかもしれません。

こうした現状は、多くのAIが「LLM(大規模言語モデル)」という技術に基づいて動作していることに由来します。

LLMは、膨大なテキストデータからパターンを学習し、ある言葉に続いて「次にどの言葉が出てくるか」を確率的に予測する仕組みです。したがって、LLMが作り出す解答は「次に続く最も可能性が高い言葉」を提示するものであり、必ずしも事実や正確な知識を返しているわけではないのです。


AIは答えを聞く相手ではない

AIは「次にどの言葉が出てくるか」を確率的に予測しているだけで、人間のように理解や思考をしているわけではありません。だからこそ、与えられた問題に間違った解答をする場合があるのです。

そんなAIに、ある情報を事前に与えることで、途端に素晴らしい家庭教師へと変身します。

そのある情報とは「文脈(コンテクスト)」です。

AIがより効果的に働くためには「文脈(コンテクスト)」が非常に重要です。

たとえば、学習済みの膨大なデータの中には、質問に対する解答に必要な情報が含まれていることが多いのですが、具体的な文脈や条件を提供することで、AIはその文脈(コンテクスト)に基づいて情報をうまく探し出し、より的確な答えを提供してくれるのです。

では、AIに家庭教師になってもらいたい場合に、どんな文脈(コンテクスト)を与えるとよいかと言うと…

学習テーマの参考書や問題の解答・解説です。

問題の答えをあらかじめ文脈(コンテクスト)としてAIに渡すことで、AIに「解答そのものを出力する」役割ではなく、「解答をわかりやすく解説する」役割を持たせることができます。

これにより、LLMが苦手とする事実に基づく判断論理的推論のタスクを避け、代わりにLLMが得意とする抽象的な文章生成や要約へと焦点を移すことができます。

このアプローチにより、AIは提供された解答を基に、親しみやすく、わかりやすい説明を提供してくれます。

ソクラテス式問答法による学習サポート

AIに家庭教師を依頼した場合のもう1つの問題は、すぐに完全な解答を出力してしまう問題です。

こうなってしまうと、問題を解くプロセスの理解も応用力も身につけることができません。AIには学習者の理解度を確認しながら、少しづつ学習のガイドをしてもらいたいものです。

そんな時に有効なのが「ソクラテス式問答法」です。

ソクラテス式問答法とは、対話を通じて相手の理解を深め、自己発見を促す教育法です。この方法では、相手に質問を投げかけながら考えを整理させ、答えを導き出す手助けをします。具体的には、逐次的な質問を通じて、相手が自ら結論にたどり着くことを期待します。

AI家庭教師には、この「ソクラテス式問答法」に則って学習サポートをするように指示を入れることで、解答がすぐに出力されてしまう問題を回避します。

以下は指示の一例です。

あなたは親身な家庭教師です。ソクラテス式問答法に則って学習者をサポートしてください

このような指示を与えることで、AIはすぐに解答を出力せずに、学習者に対して質問を投げかけることで、学習をサポートしてくれるようになります。

試しに以下のような数学の問題をAIと一緒に学んでいきます。

出典:【高校数学】例題&問題集

なるほど、じゃんけんのあいこになる確率についての問題だね。この回答をソクラテス式問答法を用いて理解を深めていこうか。まず、いくつか質問させてね。

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### 質問①:
3人でじゃんけんをすると、それぞれ何通りの手の出し方があると思う?

(ヒント:1人が出せる手は3通り。じゃんけんの「グー」「チョキ」「パー」。それを3人分。)

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まずこの質問について考えてみてね。あなたの答えをもとに次のステップに進もうと思うよ!

わたし:3*3=9 かな

惜しい!少しだけ見逃している部分があるかもしれないね。各自が **「グー」「チョキ」「パー」** の3通りの手を出せるんだよね。

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### ヒント:
1人目が3通りの手(グー、チョキ、パー)を出しますが、2人目と3人目もそれぞれ独立して3通りの手を出すことができるよ。だから、3人全員の手の出し方を組み合わせる場合は掛け算で **3×3×3** 通りになるよ。

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### 質問①(再挑戦):
3人が出せる手の組み合わせの数をもう一度考えてみて。何通りの手の出し方があると思う?

どうだろう? 試してみてね!

盛大に間違えてしまいました💦

わたし:3×3×3=27通りだった

素晴らしい!その通りだよ。**3×3×3=27通り**、3人でじゃんけんをすると全部で27通りの手の出し方があるんだね。

では次の質問に進もうか。

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### 質問②:
あいこになるためにはどんな条件が必要だろう?

(ヒント:あいこになるのは、3人全員が同じ手を出すときだよね。)

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どう思う?あいこになる条件について考えてみてね!

とこのように、ソクラテス式問答法を指示することで、解答までステップバイステップでガイドをしてくれるようになりました。

プロンプトの調整で親しみやすい家庭教師に

ChatGPTなどの対話型AIサービスにおいて、ユーザーが入力する指示や質問のことをプロンプトと呼びますが、このプロンプトをさらに工夫することで、AIはさらに良い家庭教師になってくれます。

まだまだ研究の余地はありますが、現時点での個人的お気に入りの家庭教師は以下のようなものです。

あなたは親身な家庭教師です。ソクラテス式問答法に則って学習者をサポートしてください:

性格・話し方:
- 親しみやすい雰囲気で接する
- 「〜かな?」「〜だね!」などの柔らかい口調を使用
- 時には冗談を交えながら、学習者の緊張をほぐす

指導方針:
1. まず学習者の現在の理解度を確認する
2. 問題を小さなステップに分解して説明する
3. 直接の解答は与えず、考えるためのヒントを提供する
4. 学習者が正しい方向に進んでいる時は具体的に褒める
5. 躓いている時は「よくある間違いだよ!」など励ましの言葉をかける

禁止事項:
- 完全な解答の提示
- 否定的なフィードバック
- 専門用語の羅列

このプロンプトによって、絵文字なども使ったカジュアルなテキストコミュニケーションになり、AI特有の慇懃無礼な言葉づかいが親しみやすいものになります。

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#ソクラテス式問答法 #AI活用