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BDS運動に対する歪曲
サーイブ・エラカートPLO執行委員会事務局長が、イスラエル・ボイコットを支持しながら、コロナ感染で重体となりエルサレムのハダサー病院に搬送されたことについて、偽善だと批判する声がSNS上で拡散されている。日本語圏でも少数ながらそうした主張の拡散に加勢している人たちがいる。
米国の有力シオニスト組織サイモン・ウイーゼンタール・センターの日本窓口を長年務め、2016年からはブログ・SNSでイスラエルのプロパガンダ・マシーンとなっている徳留絹枝氏は、例によって以下のような投稿をされている。
また、「イスラム思想研究者」を自称する飯山陽氏にいたっては、エラカートの政治的立場への無理解・無関心を露呈した何とも無残なツイートを投稿されている。
パレスチナの状況を少しでも知っていれば、こうした批判が全く的外れであることは自明である。第一に、BDS運動がイスラエル・ボイコットを呼びかけている対象は国際社会であって、イスラエル支配下に置かれているパレスチナ人に対してではない。パレスチナの経済は、基本インフラから金融、人・モノの移動にいたるまで全てイスラエルの管理下に置かれている。彼らがイスラエル・ボイコットをするのが不可能であることは最初から明らかである。これは、かつて南アフリカの黒人が白人経済に従属させられながら、国際社会に対して南ア・ボイコットを呼びかけていたのと同じことである。BDS運動の目的はイスラエルの破壊ではなく、イスラエルに国際法上の義務を履行させることである。それさえ実現すれば(それはイスラエルの脱シオニズム化を意味するが)、ボイコットの呼びかけは終結する。
第二に、高度な医療サービスの整備が不可能なパレスチナ被占領地の住民に対して、占領国イスラエルが必要な医療サービスを保障することはジュネーブ第4条約に定められた義務である。そして、イスラエルにこの義務を履行させるよう行動することは、国連や日本を含めた同条約締約国の義務でもある。したがって、エラカートのハダサー病院への入院について、BDS運動が批判的立場を取る理由はまったくない。問題なのは、コロナ重症患者の入院受け入れを政治取引に利用しようとしたり、BDS批判に利用しようとしたりする議論に見られる、徹底的に内向き・軍事主義的なシオニスト右派の政治文化がグローバルに拡散していることであろう。
なお、エラカートは、イスラエルが占領を継続する場合、PLOが一国家解決、すなわちパレスチナ/イスラエル全域における民主的世俗国家を目指すことになる可能性について、この数年、何度も言及している。これは政治学者としての経歴をもつエラカートが二国家解決がもはや不可能な状況になりつつあるという認識を強めていたとみることもでき、彼がバンツースタンの壁を越えてイスラエルの医療サービスを受けるということ自体、(イスラエル側の思惑がどうであれ)アパルトヘイト体制を穿つ実践的意味をもつと言えないこともないだろう。
とはいえ、四半世紀の間、オスロ体制の桎梏に囚われ続けたパレスチナ指導部に留まってきたエラカートが、コロナ感染を克服できたとしても、現在のパレスチナの行き詰まり状況を打開するイニシアチブを発揮できるとは思えない。年内実施とも言われる自治政府大統領・立法評議会議員選挙が本当に行われるのか、行われるとすれば、2006年の選挙のときと同様、党派対立の泥沼化を招くのか、あるいは、新しいパレスチナ解放運動のビジョンを打ち出せる若い世代の指導者を登場させるのか、まだ分からない。はっきりしていることは、パレスチナ解放運動再生のプロセスを阻害しようとする諸勢力・諸言説に対抗する必要であり、自由と尊厳を掴み取ろうともがく若い世代のパレスチナ人の意志が国際政治を動かす力として結集できるよう支援する必要である。BDS運動は、そうしたニーズに応えるための、国際的な草の根の市民による連帯の取り組みである。
最後に、サーイブ・エラカートの姪であり、BDS運動を牽引してきた活動家の一人である、ラトガース大学助教ヌーラ・エラカートの言葉を紹介する。
ひとつだけ、イスラエルが米国の力を借りても なお成し遂げられていないことがあります。それは、パレスチナ人の抵抗の意志を殺すこと。自由を望む心を殺すこと。その自由、尊厳、そして正義のために、パレスチナ人と共に闘おうという世界中の人々の連帯 を殺すこと。それだけは、今なおできていないのです。(2018年12月、BDS japan発足集会)
(や)