朝日新聞が入植地ビジネス推奨記事への批判に対して「追記」を公表。その内容は・・・
朝日新聞の日曜版特別紙面「GLOBE」およびそのデジタル版「GLOBE+」に掲載されたゴラン高原に関する記事に対して私達BDS Japan Bulletinが送った抗議・要請文を受け、以下の「追記」が「GLOBE+」に掲載された。紙媒体「GLOBE」は1か月に1度しか発行されず、5月のタイミングを逃したので6月号に掲載されるらしい。
■本記事中について、イスラエルによる国際法違反を容認する内容との批判を読者からいただきました。1981年にゴラン高原併合を宣言したイスラエルに対し、国際社会は国連安保理決議でこれを無効としています。記事では、ゴラン高原はイスラエルの占領地だと明記し、観光地化の実情を伝えようとしましたが、占領状態を容認としていると受け止められかねない表現がありました。今後、記事づくりにさらに細心の注意を払っていきます。(4月30日追記)
まず、朝日新聞が読者からの批判に対して具体的な対応を取ったという点については、評価したい。今回のBJBの批判が無視するわけにはいかない指摘だという判断を会社として行ったと考えられるからである。しかし、その内容は余りにも空疎であると言わざるを得ない。
抗議・要請文送付後、私達は朝日新聞から、編集後記のようなかたちで何らかの釈明を行うとの連絡を受けており、その際、中途半端な釈明に留まることを懸念し、「私達の抗議文の最大のポイントは、単なる事実誤認や国際法上の解釈ということだけではなく、『入植地ビジネスの推奨』に対する倫理的・法的問題の指摘です」というように確認していた。残念ながら私達の懸念は当たってしまった。
とはいえ、こうした問題の本質を隠匿するような対応しか、朝日新聞ができなかったということは、ある意味では納得できることでもある。というのも、そもそも問題の記事の半分は「ゴラン高原・観光スポット紹介」になっており、それら(ゴラン高原ワイン、ヘルモン山スキーリゾート、ナハル・ヘルモン自然保護区)が、他国の資源を収奪する国際法違反の入植地ビジネスであるという認識は完全に欠落している。私達の指摘にしっかり応えようとすれば、記事の削除か全面的な書き直しをするしか方法はないのである。
「追記」に書かれた「観光地化の実情を伝えようとしました」という苦し紛れの表現は、そのことをよく物語っている。以下の画像(ウェブ版記事の後半が同内容)が私達が特に問題としている箇所であるが、これは「観光地化の実情」ではなく、単なる観光地の名所・名物案内である。ジャーナリズムではなく宣伝文であって、ステルスマーケティングを疑われても仕方がない内容である。
ちなみに朝日新聞は、日露戦争後の1906年に「満韓巡遊船」という、日本初のクルーズ船を用いた植民地観光イベントを行い、その紙面でも大々的にツアーの宣伝・報告を行った。400人近くの参加者が日露戦争の戦跡地などをめぐったこのツアーでは「陸軍や満鉄など満洲経営に関与する組織が全面的支援を行った」という。(以下の画像は同イベントの記念絵葉書)
・長谷川怜「プロパガンダとしての満洲観光旅行」(辻田真佐憲監修『満州国ビジュアル大全』)
現在のイスラエルと同様、当時の日本で植民地ビジネスを批判する日本人はほとんどいなかった。日露戦争は、民間企業やメディアが大々的に戦争協力を行った最初の総力戦であり、日本社会において侵略戦争を批判する視点は一握りの社会主義者や宗教者等に限られていた。植民地宗主国であった日本や欧米において植民地主義批判の論理が一定の社会的認知を得るのは、植民地解放を実現した国々が国際的発言力を増していく1960~70年代以降のことに過ぎない。
そうした中で朝日新聞自身、『新聞と戦争』の連載・刊行(2008年)などを通じて、自らの戦争責任・植民地責任に対する歴史認識を一定程度深めてきたはずでもある。その朝日新聞が、今回のようなゴラン高原における入植地ビジネスを宣伝する記事を掲載するに至ったという状況は、2000年以降徐々に顕著となる、植民地主義批判の論理そのものに対するグローバルなバックラッシュを如実に反映したものだといえる。
このバックラッシュにおいて大きな位置を占めてきたのが、日本における歴史修正主義運動とイスラエルによるパレスチナ支配の「テロとの戦い」へのすり替え言説である。日本の歴史修正主義運動に対して、その集中的な攻撃対象とされてきた朝日新聞がどこまで闘えてきたか/迎合してきたかについては、ここでは評価を控えておきたい。しかし、少なくともパレスチナ問題に関して、安倍政権が進めた親イスラエル政策の下でその根本的視座が大きく揺らいでしまっていることは、今回の記事を待たずとも、以下のような改憲論と親和性抜群のイスラエル軍IT部隊称揚記事を見ても明らかである。
・イスラエル、サイバー防衛の「最強国家」 日本に熱視線(朝日新聞、2018年1月22日)
・インテルが1.7兆円で買収した自動運転技術 イスラエルがITエリート大国になった理由(朝日新聞GLOBE+、2018年6月5日)
イスラエルのセキュリティビジネスや、その宣伝塔となっている「8200部隊」が、いかにパレスチナにおける人権侵害や国内外での不法な活動に関わっているかについては、少しでも調べれば簡単に情報を得られるが、これらの記事を書いた記者らは、占領する側の視点だけで事足れりとしてしまっており、しかもそのことに無自覚である。これでは、占領者の立場から日本のアジア侵略を称揚していたかつての朝日新聞の報道姿勢が一体どこまで、そして何のために反省されたのか、はなはだ覚束ない。
・イスラエル軍事エキスポISDEF Japan:広がる反対の声と隠される参加企業情報(BDS Japan、2018年8月24日)
もちろん、かつての日本の植民地支配と今に続くイスラエルの入植型植民地主義とでは、様々な歴史的条件の違いはある。しかしながら、武力による植民地支配/占領を持続するためには、内外におけるプロパガンダが極めて重要であり、その際にマスメディアが決定的な役割を果たしてきたという点においては普遍的な共通性がある。権力者ではなく弱者の視点に立つことこそ、朝日新聞がメディアとして生き残っていく道であるはずだ。(や)
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