時のパワーズ•オブ•テン14

第十四章:最初の生命、原始の海に誕生
(10 億年 = 1 年の 10の9 乗倍)

約 40 億年前、生命の萌芽が地球の原始の海で産声を上げました。それは、単細胞生物とい う、極めて単純な構造を持つ生命でした。しかし、この小さな生命の誕生は、地球の歴史にお ける最も重要な出来事の一つであり、私たち人類を含む、現在地球上に存在するすべての生命
の共通の祖先となったのです。 最初の生命は、おそらく、現在の細菌に似た構造を持っていたと考えられています。彼らは、
原始の海を漂いながら、周囲の有機物を吸収し、分裂することで数を増やしていきました。そして、⻑い時間をかけて、光合成を行うシアノバクテリアのような生物が登場しました。シア ノバクテリアは、太陽光エネルギーを利用して水と二酸化炭素から有機物と酸素を作り出す能 力を持っていました。これは「光合成」という画期的な発明であり、生命が自らエネルギーを 作り出すことを可能にしました。
シアノバクテリアの活動によって、地球の大気中に酸素が放出され始めました。これは、地 球環境を大きく変える出来事でした。まず、酸素は、海洋中に溶け込んでいた鉄などの金属イ オンと結合し、酸化鉄として沈殿しました。これにより、それまで濁っていた海が透明になり、 太陽光がより深くまで届くようになりました。
さらに、大気中に広がった酸素の一部は、紫外線と反応してオゾン層を形成しました。オゾ ン層は、有害な紫外線を吸収し、地表の生命を保護する役割を果たしています。酸素の増加と オゾン層の形成は、生命が陸上に進出するための重要な条件を整えたと言えるでしょう。 しかし、酸素の増加は、同時に、当時の多くの生物にとって猛毒でもありました。酸素は反応 性が高く、細胞内の物質を酸化させ、ダメージを与えるからです。この酸素濃度の上昇は、
「大酸化イベント」と呼ばれ、地球史上最初の大量絶滅を引き起こしたと考えられています。 酸素に適応できなかった多くの嫌気性生物は絶滅し、地球の生態系は大きく塗り替えられまし た。
それでも、一部の生物は、この環境変化に適応し、酸素を利用する能力を獲得しました。こ れが好気呼吸の始まりです。好気呼吸は、酸素を使ってエネルギーを効率的に生産できるため、 より複雑な生命活動が可能になりました。そして、この好気呼吸能力を獲得した生物たちが、 後の多細胞生物へと進化し、現在の豊かな生態系を築き上げてきたのです。 生命誕生の謎:深海熱水噴出孔と蛇紋岩化反応
生命がどのように誕生したのか、その詳細なメカニズムについては、未だ多くの謎が残され ています。しかし、近年注目されているのが、深海にある熱水噴出孔周辺で生命が誕生したと いう仮説です。
特に、熱水噴出孔の中でも、かんらん岩と呼ばれる岩石が海水と反応する「蛇紋岩化反応」 が起こっている場所が注目されています。この反応では、水素やメタンなどの還元物質が生成 され、これが生命のエネルギー源や材料となった可能性があります。
原始地球の海は、鉄やニッケルなどの金属イオンが豊富に溶け込んでいたと考えられており、 熱水噴出孔から供給される還元物質と反応することで、生命に必要な有機物が生成された可能 性があります。さらに、熱水噴出孔周辺は、温度や pH の勾配が存在し、これが原始的な細胞 膜の形成や、エネルギー代謝の進化を促した可能性も指摘されています。そしてどこかのタイ ミングで、おそらく RNA で構成された、自己複製能力を持つ分子が誕生したのです。
現在、地球上に存在するすべての生物は、情報を保持するために DNA や RNA を使用してお り、エネルギーを貯めた電池のような ATP という物質を使用しています。この共通点から、す べての生命はたった一つの共通祖先から生まれたと考えられています。それは同時に、生命の 誕生という奇跡は、この地球上でたった一回しか成功しなかった可能性を示唆しています。
最初の生命の誕生から現在まで、生命は進化を続け、多様性を増してきました。それは、地 球という惑星が、生命にとっていかに恵まれた環境であるかを示しています。そして、私たち 人間もまた、この⻑い生命の歴史の末に生まれた、奇跡のような存在なのです。

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