出典解説L「未来型サバイバル音楽論 USTREAM、twitterは何を変えたのか」 2010年11月 中央公論新社
出典解説のLです。
L「未来型サバイバル音楽論 USTREAM、twitterは何を変えたのか」
2010年11月 中央公論新社
本書は共著とはいえ、牧村氏の初の著書です。発言、文章量は共著者の津田大介氏とほぼ半々ずつで、2010年の時点での音楽業界の概況、ビジネスの在り方、傾向、予想などが書かれ、語られています。
特に第二章の「過去のレーベル、未来のレーベル」は他の著書とはひと味もふた味も違った、独自の見解(=個人史+レーベル論)に満ちています。
この種の本はしばしば、無責任な未来予想にばかり傾いてしまいがちですが、発売時から干支がひと回りした今(2010→2022年)の目から見ると、冷静で誠実な本です。
個人的には(音楽ではありませんが)Zineの制作・販売の流れを通して「何かを作る~売る」という過程の川上から川下までを経験しているので、本書に書いてあるお金の流れや配分の話題がリアルに伝わってきます。
当時の「過去‐現在‐未来」と、いま現在の「過去‐現在‐未来」を重ね合わせることで、立体的に実感できる面もあります。
少し前の本ではありますが、物事を正確に理解するためには、かえって最新の本より有益ともいえます。当時はまだ無かった「TikTok」や「Spotify」といった固有名詞を当てはめ直しながら読むことも出来るでしょう。
ただ「本」として単に存在していれば読まれ、見直されるというものではないので、本書を読み直すトークイベントのような試みがあっても良いのではと思います。
また「発言集成」に収録した多くの発言の中でも、本書はかなりはっきりと「好き」「嫌い」「こうするべき」「やめるべき」が明確なものが多く、そういう箇所を編者の好みで優先して選んでもいます。
いくつか例を挙げます。
「山ほどレコードを聴くことは、画学生がゴッホの絵の前に立ち、
模写することと同じです。(略)今はあまりにも、その時間をとらなくなっている。(L01)」
「これは僕のいうレーベルとは違うものの考え方です。福岡なら福岡のまま、北海道なら北海道のまま、でいい。(L04)」
「(略)メジャーでない劇団は、学校でパフォーマンスをしていたのです。こういう文化が日本に会ってもいいと僕は思います。(L06)」
「素人芸を人に見せるなんて、恥ずかしいことだ、という気持ちがあるのです。(L07)」
「自分の美意識にこだわることや、投資することや、新しいアイディアを考えることに時間とエネルギーを惜しまないこと。(L10)」
ちなみに本書の帯の牧村さんのプロフィールに書いてある著書は一冊だけ、しかも共著の「今だからこそ読みたい本」(小学館)なのでした。
当時はそれが最新の情報だったこと、つまりまだ「ニッポン・ポップス・クロニクル」も「渋谷音楽図鑑」も刊行されていない──、と考えると隔世の感があります。