記憶の中の登場人物。それから空似3人。A strange character in my memory. Then, about three people who are very similar to me.

 小学生のころ。家の近所で自転車を乗っているときです。急な坂まで来ました。乗ったままでは坂を上れません。自転車を降りて引きずるようにして坂を上ります。しばらくすると急に自転車が軽くなりました。後ろからお兄さん(中学生くらい)が押してくれていました。恥ずかしくて顔を見ることはできません。そのままお兄さんに自転車を押されながら坂を上りました。気がつくとお兄さんはどこかに消えていました。そして私は一連のことを忘れます。
 中学生のころ。家の近所を歩いているときです。急な坂まで来ました。小学生が自転車を引きずるようにして坂を上っています。思わず後ろから押しました。小学生は気づいたようですが恥ずかしそうに下を向いたまま。坂を上りきると私は無言で立ち去りました。そして私は一連のことを忘れます。
 妻と結婚したころ。妻は小学生のころの思い出を語りました。
「小学生のころ。学校から帰るとき道に迷ったことがあって。知らないお兄さんに助けられて。何とか家に帰れたの。恥ずかしくて顔は見ていないけれど。何となくあなたに似ているわ」
 その話を聞いて私も小学生のころの思い出を語りました。
「知らないお兄さんに助けられた。恥ずかしくて顔は見ていないけれど」
語っているうちに中学生のころ「小学生を助けた」記憶が蘇りました。
 小学生の記憶も中学生の記憶も、確かに私の記憶です。小学生の私の記憶に登場する中学生。中学生の私の記憶に登場する小学生。私の記憶に登場する彼らは、一体、誰なのでしょうか。常識的に考えれば、私ではない、誰かです。たまたま似たような記憶の中で、たまたま登場人物が逆転しているだけで、たまたま同じ坂道で起こったことなのです。たまたまきっとたぶん。

 追伸

 私には、私にそっくりな人が少なくとも3人いることを知っています。いわゆる他人の空似です。残念ながら彼らの居所は知りませんが(だから連絡したり会ったりできません)。
 1人目。大学入試で京都の駅前ホテルに泊まったとき。ロビーの椅子に座ってぼんやりしていると、目の前の鏡に気づきました。じっと見ていると「着ている服が違う!」と気づきました。驚いて立ち上がると、私は鏡に向かって歩きました。すると同時に鏡の中の私も立ち上がり、私に向かって歩いてきます。もちろん、そこに鏡などはなく、それは恐ろしいほどの他人の空似でした。(後から聞くと)相手も私と同じように驚き、私に向かって思わず歩きだしたそうです。どれほど似ているのかというと、同じホテルに泊まる私の友人が私たちの姿を見かけて「どっちがどっち? 君に双子がいたなんて知らなかった」と言うほどです。私と空似の彼は、一緒にそのまま、駅ビルの地下街でお好み焼きを食べながら、いろいろ話をしました(お互いに初対面の知らない人とそんなことはしないし、そもそも受験生なのに。これって空似効果か)。私は新潟生まれで一浪、彼は名古屋生まれで現役。私の志望校より100倍は難しい大学を目指していました。私たちは名前も家族構成も誕生日も星座も血液型も全て違います。遠い親戚を辿ってもお互いに辿り着くようなルーツを見つけることはできませんでした。今、彼はどこで、何をしているのでしょうか。きっと有名大学や有名企業を経て、とても幸福になっていることでしょう。
 2人目。ある日、大学時代の友人が街角で私を見かけました。「セーラー服の彼女と手をつないでいたので、遠慮して声をかけなかったよ」と冷やかされました。数カ月後、今度は職場で知り合った年上の友人から「大丈夫か? あの娘、ちょっとお前には若すぎないか?」と忠告されました。もちろん他人の空似です。友人たちにも言い訳(?)しましたが、信じてくれたのかどうか。当時の私は25歳くらいです。相手がセーラー服では確かに若すぎます。今、彼はどこで、何をしているのでしょうか。若い女の子を騙したり、騙されたり、悪いことをしていないといいのですが。
 3人目。地下鉄の駅のホームでおばさんに「おはよう。元気?」と挨拶されました。おばさんの顔に見覚えがありません。すぐに挨拶を返さない私を見て、おばさんは怪訝な顔で通り過ぎました。「まずいな」と私は思いました。知り合いなのに、私がおばさんの顔を忘れているからです。しばらくすると、今度はおじさんが「おはよう! 昨日はどうも」と挨拶してきました。また「まずいな」と私は思いました。知り合いなのに、また忘れているのかと。おじさんは挨拶しない私を見て怪訝な顔で通り過ぎましたが、すぐ戻って来ました。「〇〇さんでしょ?」「違います」「え!? ホントだ。似ているけど違う。ゴメン。でもすごく似ている。よく言われるでしょ?」「いや…」(私はそもそも〇〇さんを知らないのですが)。私は何か用があって、たまたま、その朝その駅を利用しただけで、その後、その駅に行ったこともありません。だから今となっては名前を忘れてしまった〇〇さんに出会うこともありません。今、彼はどこで、何をしているのでしょうか。みんなに挨拶される〇〇さんは、今でもきっと、挨拶されたり、感謝されたりして、楽しい毎日を過ごしていることでしょう(孫もいたりして)。

 記憶の中の登場人物や空似の3人を思い出すと、何だかSFを体験したような気になります。


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