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2020年6月の記事一覧

霧黄なる市に動くや影法師  Fog and fog Become yellow, In the city of London Move around, You and me Shadow lawyer

 私はときどき漱石の俳句を読みます。『漱石全集第十七卷 俳句・詩歌』(岩波書店刊)をパラパラとめくると、いつも何かしら静かな発見があります。例えば、以下の句は漱石好きでなくてもご存知の方は多いと思います。
「有る程の菊抛げ入れよ棺の中」
 友人の大塚保治(『吾輩は猫である』に登場する迷亭のモデル)の妻、楠緒子への手向けの句です。これには別バージョンがあります。私は迂闊にも見落としていました。
「棺

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正午になったら正午を読もう。Let's read Shogo at noon.

 佐藤正午さんは私が好きな作家の一人です。私は佐藤さんの小説や随筆をデビューから約40年間ずっと読んでいます。2017年に『月の満ち欠け』(岩波書店刊)で直木賞を受賞したときは(授賞式には欠席して、地元から電話で記者の質問に応えていましたが)受賞作品だけでなく作家性も含めて感動しました。何だか親戚のおじさんを見ているような気持ちでした。「おじさん、本当におめでとう!!」
 読者として同時代にデビュ

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漱石は何を仕掛けたのか?What did Soseki do?

 以前、夏目漱石の『抗夫』という小説について記事を書きました。今回は漱石の『三四郎』について書きます。この小説は、主人公の三四郎が九州から上京して、いろいろな人と出会いながら成長する、いわゆる青春小説であり、『それから』『門』と合わせて前期三部作といわれる作品です。
 一般的にクローズアップされるのは、広田先生の文明批評の「 亡びるね」であり、里見美禰子の思わせぶりな「stray sheep」とい

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自分は何も変わらない。I don't change anything.

 夏目漱石の『坑夫』という小説が好きです。漱石の小説の中では、それほど有名でも名作でもありませんが、私の印象に残る面白い作品です(ときどき読み返します)。この小説は漱石作品には珍しい「人から聞いた話」を基にした小説です。今でいうルポルタージュのようなものかもしれません。
 『坑夫』の主な登場人物は「自分」「長蔵(ちょうぞう)」「安(やす)さん」の3人です。ストーリーは主人公の「自分」が過去を語ると

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歪んでいるのは、世界か?あなたか?Is the world or you distorted?

 先日『木になった亜沙』(今村夏子著・文藝春秋刊)を読了しました。この単行本には「木になった亜沙」「的になった七未」「ある夜の思い出」の3つの短編が収められています。今村さんの小説は時系列にすべて読んでいますが、『こちらあみ子』から『むらさきのスカートの女』まで続く、独特の今村ワールドが今回もありました。帯に「読んだあと、世界の色が違ってみえる。芥川賞作家の最新短編集。」と書かれているように、読後

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未来のミッションのための休息。I'm resting now for a future mission.

もう6月も1週間が過ぎました。世の中の人たちは新型コロナウイルスの第二波を気にしながら、日常を取り戻そうとしています。その日常は、いわゆる「新しい」日常かもしれませんが。我が家では愛猫は相変わらず空咳をしています。妻は暑い中ですが仕事にでかけて家計を支えてくれます。私は無職(もうすぐ3カ月)で仕事はありませんが時間はあるので(お金にはならないけれど)心身の健康のためにnoteを書いています。そして

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