【2021年2月8日掲載】データセンターの移り変わり
データセンターの移り変わり
ご無沙汰しています、佐伯尊子です。今回はデータセンターの歴史からみた移り変わりと、これからについて考えてみました。日本を中心としたお話になります。
(1) データセンターの種類
最初に、データセンターと一言で表現されていますが、用途によっていろいろな種類があります。日本におけるデータセンターといえば、
・通信事業者の局舎
・企業のサーバ室
・大型電子計算機室/建物
から始まり、
・専用事業者によるデータセンターやISPなどの自社データセンター
・金融系のデータセンター
そして、
・外資系専用事業者によるデータセンター
・クラウド事業者によるデータセンター
等があります。
ちょっとまとめてみると、こんな感じになるかと思います。
この流れに、インターネットや通信のトピックを加えてみましょう。
(1)-1 1990年代
元々の企業のサーバ室や、大型電子計算機室は、インターネットとは別の形で存在していました。
インターネットが商用化され、ISPをはじめとする*SPがサービスを開始し、沢山のサービスが生まれました。
そして、*SPの受け皿として、通信事業者の局舎だけでなく、専用データセンター事業者が出現し始めました。
(1)-2 2000年代
当社が産声を上げたのも2000年です。日本も世界もインターネットサービス、データセンター事業が一気に花が開きますが、同時にM&Aも始まり、急速に会社数は減っていきました。淘汰の激しさを肌で感じたのもこのころです。また、通信事業者のダークファイバ解禁や、登録通信事業者以外の通信事業者にも局舎を開放するなど、通信事業者の局舎もデータセンター機能が充実し始めました。
(1)-3 2010年代
そして、クラウドサービスが本格化します。クラウド事業者は、それまで間借りしていたデータセンターだけでは、コストが見合わないことから、自社でデータセンターを構築/運用を行い始めました。サービスの多様化と相まって、構築/運用するデータセンターは、米国内だけでなく、全世界に一気に広まっていきました。また、データセンター専用事業者も地域や国を限定して建設する事業者だけではなく、世界に面展開する企業も出てきました。それは、世界規模でサービスを広げるクラウド事業者のサービスをサポートすることになり、それが次の国への開拓となるなど、お互いに世界を広げることができるという、好循環になっていきます。
そして、専用DCも、通信事業者の局舎もクラウドDCとの接続性を確保し、クラウドサービスの提供を始めます。更に金融系もクラウド利用が始まったり、2020年にかけて、自社設備だけでクローズしていたDCI (Data Center Inter connect)が、他社DCとの接続を含む大きな流れになってきました。
企業のサーバ室も、クラウド化が進みオンプレミスとクラウドのハイブリッド利用が始まったり、金融系のクラウド利用が始まるなど、クラウドDCとの接続性が、より進み始めています。
(2) 各時代が生み出したもの
この項は、日本の動きだけでなく、世界全体の動きをおさらいします。
(2)-1 1990年代~2000年代:小中規模のデータセンター建設ラッシュ
DC規格、冗長化規格
規格の原型は、1995年にUptime Institute社が作ったガイドラインです。北米のサービス事業者が、海外のDCを借りるに際して、北米とどのように違うのか?また電気や空調などのファシリティの冗長性について、それぞれのDCはどのように対応しているのか?を知るために仕様化しました。そこで規定されたデータセンターのTier1~4 (ティア:冗長性のグレードを示し、4が最高)は、皆さんも聞いたことがあるかと思います。そして、Uptime Institute社は、この仕様を基に、海外のデータセンターの設計/建設に関する認証事業を始めました。現在認証が取得されているデータセンターは、こうしてMapに記されています。また、この認証制度は今も機能しており、クラウド事業者によっては、「Uptime Institute社のガイドライン」に沿って運営していることを触れている事業者もいます。
その後、北米内のデータセンターの規格を制定すべきという流れになり、Uptime Institute社のガイドラインを基に、TIA (米国電気通信工業会) により、TIA-942が策定されました。ただ、一社のガイドラインをそのまま北米規格にするわけにはいかないため、空調や電気の他、建築や通信配線を含め、トータルで見直しを行い、2005年に策定されました。その後、当初Tier1~4としていた冗長化のグレードをTIA-942B版より Rate 1~4 とし、Uptime Institute 社のガイドラインと明確に区別しています。
また、このTIA-942Bに沿って、データセンターの設計や建築のRate認定も始まっています。TIA-942の認証は、TIAが委託した事業者が実施することとし、シンガポールのepi社が初めて委託され、認証事業の他、認証する人材の育成に力を入れています。
日本では、2008年に日本データセンター協会 (JDCC : Japan Data Center Council) が発足しました。そして、2010年に「データセンターファシリティスタンダード」の初版が完成しました。そこでは、Uptime Institute社のTierの考えをベースに、耐震等を考慮したJティア1~4の冗長性を定義しています。
(2)-2 2010年代:クラウドデータセンター建設
世界規模のバリューチェーン
2010年ごろからクラウド事業者による大規模データセンター(ハイパースケールデータセンター、メガクラウドデータセンターなど、言い方はさまざまあります)の建設が始まります。大規模のイメージですが、サーバ台数5000台以上を有する1000m2以上の施設と定義している調査会社があります。売り上げ規模などで示しているケースも見受けられますが、オーソライズされている指標は無い状況です。全体的に傾向として、台数や敷地面積で規模を示すよりも(ITで利用可能な)消費電力 ××[MW]で大きさを表示していることが多いようです。
各クラウド事業者が自分たちの使いやすいデータセンター設備を仕様化し、それを世界の自社データセンターに展開しました。すると、わざわざ輸送時のリスクを考えなくてはならない精密機器や重荷重の設備を、現地に運ぶロジスティクスを確保するのではなく、現地で同じものを購入できるよう、仕様をオープン化しました。その結果、世界レベルでバリューチェーンが出来上がりました。代表的な例として、OCP (Open Compute Project) は、フェイスブックが最初に名乗りを上げましたが、その後他クラウド事業者も賛同し、全世界規模で「OCP仕様」の機器や設備を調達することが可能になりました。またOCP仕様に特化せずとも、通信配線部材に関しては、既存の構内配線の規格を拡張することで、データセンター向けの仕様になるため、既存の配線部材や、その流通経路が大いに貢献できました。そして、クラウド事業者の大量購入に伴い、それまで高価だと感じていた光ファイバの配線部材も、一気に安価なものが日本でも購入できるようになりました。
データセンターの消費エネルギー基準
次に、データセンターで消費されるエネルギーの効率についても規格化されました。PUE(Power Usage Effectiveness)といい、データセンターを含むIT関連施設におけるエネルギー効率を測定する指標の一つです。数字が小さい方が望ましく、1が最も理想的です。1990年~2000年代前半に竣工したデータセンターは、2.0とか3.0などエネルギー効率については、あまり検討していなかったことが分かります。しかし、クラウド事業者による大規模データセンターの建設が始まると、無駄なものは全てそぎ落とし、売り上げに直結する部分に特化する傾向が一段と強くなりました。PUEが大きいと、それだけ電気設備も空調設備も多く必要になりますし、これらの設備は利益を生まないので、その値を減らす方向で検討が進みました。そして今では大型データセンターは、1.5とか1.3など、2.0をはるかに下回るPUE値が実現されています。中には1.1を切るデータセンターも出現しています。そして、この傾向は、現在作られている中小規模のデータセンターにも応用され、より効率の良いデータセンター設計/建設が進められています。また、近年はサスティナビリティを考慮し、自然エネルギーや再生可能エネルギーを利用してこれらの大規模データセンターの電気を賄う傾向にあります。それにより、ますます省エネルギーで高効率なネットワーク部品や機器の開発をOCPや、それぞれの業界団体では目指しています。
データセンター技術者の育成
データセンターは作って終わりではなく、作り終わったところがサービスの始まりです。そのため、より効率的なデータセンターの設計/構築を行うだけでなく、それを継続運用していかなければなりません。そのためには、構築時よりも更に安価で使いやすい保守/運用部材の選定や、運用フローの更改が必要になります。また、空調や電力などのファシリティ技術を統合的に扱うため、データセンターの技術者は、あるファシリティに特化したメンバーだけでなく、全体のバランスを見ることができる技術者も必要です。そのため、彼らの育成/認定が必要となってきました。認定については、別途「データセンター資格あれこれ」に記載したので、ここでは割愛します。
近年、折角冗長化構成を有している設備であっても、保守運用が上手くいかず、結果SPOFを発生させ、サーバーダウン、サービスダウンが発生してしまった事例は、日本だけでなく、世界中にあります。そのため「設計したときだけ、竣工した時だけの認証だけでなく、運用に関する認証」の必要性が高まってきました。「最適な設計/構築されたデータセンターを適切に運用する」という流れは必然と言えば必然です。まず先のUptime Institute社は運用のTierを策定/認証を始めました。また、TIA-942の設計/構築を認証しているepi社は、いち早く独自規格として運用の認証を始めており、それぞれ独自の認証制度を展開しています。
(3) 2020年代のデータセンターをめぐる動き
それでは、2020年代はどのような時代になるのでしょうか?
今まで見てきたように、だいたい10年単位で、新しいデータセンターが生まれてきました。となると、2020年代の新しいデータセンターが出てきてもよさそうです。それを予感させる流れが既にできています。
先ほどまでの図に、技術トピックなどを加えてみました。白抜き枠が「新規に構築するデータセンター」になります。
まず、専用DC事業者が抱える「データセンターの老朽化」問題です。1990年代~2000年代に掛けて建設した建物は、そろそろ20年、30年を迎えます。そのため、データセンターの全面改修が必要となってきます。これまでも、部分的な改築や設備更改は随時実施してきましたが、全面建て替えとなると、自分たちの都合だけでは決めることが出来ません。ラックをご利用頂いている最後のユーザーが引っ越しを行ってからでないと、建て替えそのものが始められません。となると、ユーザーの引っ越しのスケジュールを理解し、そこから逆算して、早め早めに建て替えを周知しておく必要があります。また、ユーザーの引っ越し先が同じデータセンター事業者の別サイトになるのか?それとも別事業者に移るのか?によっても、データセンター事業者の明暗が分かれそうな感じです。また、通信事業者の局舎も、既に老朽化による建て替えが始まっています。それが全国規模で行われていくのも2020年代になると思われます。そして、正に今検討や建設が進んでいるのが、5Gの基地局です。今までの携帯電話網の周波数と違い、高周波を利用する5Gは、今まで以上に基地局の数が必要になっています。それをどう建設していくのか?局舎の建て替えと併せて、今の局舎の機能をより、多目的化させる必要性が出てきています。
次にトピックから要求される事項です。
5Gは、低遅延/大容量/同時多数接続が必要になります。IoTも低遅延/同時多数接続/低速でも切れない接続対応が必要です。更に、自動運転、ドローン制御のサポート、スマートシティ/スマートビルディングなどもこれからどんどん技術が花開いていくところです。それらのアプリケーションを支えるインフラが必要になると考えられます。それが新しいDCに求められる事項になると思われます。
これらのことより、2020年代に建て替え/新規で建設するデータセンターは、多目的用途に応える必要性がありそうです。
(4) エッジコンピューティングとエッジデータセンター
これらのアプリケーションを支えるために、エッジコンピューティングは必須と言われています。そのエッジコンピューティングのための機材は、どこに設置するのか?と考えると、エッジデータセンターが最適であるという答えをよく聞きます。
そしてすでに、具体的な設置場所や、ラック数など、検討が開始されています。そしてそれを最も早くまとめているのが、TIAです。TIAは、先に942B版で一般的なデータセンターの仕様について、規定していることを紹介しましたが。この規格の追補として、エッジデータセンターの仕様を加える作業を行っています。2020年2月には、6項目について、ホワイトペーパーを作成済です。そして、それは私たちも確認することができます。
Issue1:エッジデータセンターの種類と場所
ニーズに合致した場所
Issue2:エッジデータセンターのサイト選択
環境リスク、人為的リスク、商用電力の可用性、地域の規制など
Issue3:エッジデータセンターの冗長性、アクセシビリティ、および存続可能性
冗長性を考慮するのかしないのか?その時のサービスの存続可能性について
Issue4:エッジデータセンターの物理セキュリティ
物理的なセキュリティの考慮事項とソリューション
Isuue5:エッジデータセンターの熱管理
冷却ソリューションを計画する際に考慮すべきトピック
Issue6:エッジデータセンターの運用、管理、保守、自動化
アクセスが困難なリモートサイトの運用、管理、保守、および自動化アクティビティ
ここで特徴的なのは、最初から運用や保守管理について規定をしているところです。自動化というのは、このような運用や管理を自動化する、という意味です。プロビジョニングも含まれています。
中でも通信事業者主体で動いているCORD (Central Office Re-architected as a Datacenter) は、 オープンアーキテクチャーを使って、必要とする機能をエッジデータセンターに提供するプログラムやホワイトボックススイッチの開発を行っています。このように、エッジデータセンターは、ハコだけでなく、自動化や運用までがセットになっている、というのが新しいところです。
(5) まとめ
日本を中心とした、インターネットデータセンターを取り巻く技術トピックや、制定事項、そして2020年代に出てくるであろう新しいデータセンターの一部について考えてみました。
(6) 感想
エッジデータセンターは、場所を確保し、建設しただけでは機能しません。機器を設置、回線を引き込んで、遠隔でカスタマイズして、初めて稼働/運用します。それは今まで私たちが作ってきた「データセンターという器」だけでは用をなさない時代になったと、改めてデータセンター20年の成長の片りんだなぁと感じました。この文章を何年後かに読み返して「全然違う方向に進んでいる」未来だったら、あはは、ですね(笑)。
エッジデータセンターの規格化にあたって、TIAは、本規格を北米のメンバーだけでまとめるつもりは全く無く、全世界から幅広く有識者として参加してもらいたいと、メンバーを募っています。ちょっと興味があるという人は、(全編英語だけですが)コンタクトを取ってみてはいかがでしょう?
参考
Uptime Institute社認定データセンターリスト
TIA-942に基づく認定データセンター検索サイト
OCP (Open Compute Project)
TIA Edge Data Center
CORD