家、ついて行ってイイですか?
【家、ついて行ってイイですか?】
樋口、板付き。舞台上をウロウロしている
明転
馬場、下手から登場
樋「あ、すいません」
馬「はい」
樋「お仕事帰りですか?」
馬「あー、はい。仕事終わりで軽く飲んで」
樋「もう、お家帰られます?」
馬「そうですね」
樋「あの、ここから家までのタクシー代をお支払いするんで…」
馬「あ!知ってる!」
樋「宗教に入ってもらっていいですか?」
馬「いや、知らない!」
樋「どうですか?」
馬「…いや、無理でしょ。一瞬『家、ついて行ってイイですか?』かと思ったけど、よく見たらカメラも持ってないし」
樋「あ、そっちはOKですか?」
馬「は?」
樋「ここから家までのタクシー代お支払いしますんで、家ついていってもいいですか?」
馬「いや、OKじゃねーよ。宗教の勧誘が家ついて来るとか、これ以上怖いコンボねーよ」
樋「立ち話もなんなんで、とりあえずタクシー拾いますね」
馬「いや、拾わなくていい拾わなくていい。家この辺だから」
樋「あ、そうなんですね。じゃあ、コンビニで好きなもの買っていいんで、宗教に入ってもらっていいですか?」
馬「割に合わない。コンビニの額で宗教入るとかマジで割に合わないよ」
樋「遠慮せずにグーグルプレイカードとか買ってもいいですよ」
馬「え、10万円分とか買うよ?いいの?」
樋「大丈夫です。全然取り返せます」
馬「怖えーよ。どうやって取り返すんだよ」
樋「え、興味あります?」
馬「ただの怖いもの見たさだよ!」
樋「どうやって取り返すのか教えるんで、家ついて行ってもいいですか?」
馬「興味がリスクを超えないんだよ」
樋「幹部に紹介するんで、家ついて行ってもいいですか?」
馬「何でリスクのほうを上げるんだよ」
樋「入ってすぐ幹部になんか会えないですよ?」
馬「メリットみたいに言うな」
樋「特別にランクシルバーからスタートにするんで、家ついて行ってもいいですか?」
馬「わかんないけど普通はブロンズスタートなのかな」
樋「ちなみに僕はランクトシちゃんです」
馬「カーストどうなってんだよ。シルバーから何をどう経てランクトシちゃんになるんだよ」
樋「それも教えるんで、家ついて行ってもいいですか?」
馬「だからダメだって」
樋「巨人戦のチケットあげるんで、家ついて行ってもいいですか?」
馬「急に角度変えてくんな」
樋「東京ドームの年間シートあげるんで、家ついて行ってもいいすか?」
馬「大丈夫?あれ結構すんだよ?」
樋「大丈夫です。半年で取り返せます」
馬「だから怖いって」
樋「わかりました!もう何もしないんで、家ついて行ってもいいですか?」
馬「世の中、何もしないからほど信用のおけない言葉は無いんだよ」
樋「ホンットに何もしないんで!」
馬「ホントに何もしないは絶対に押すなと同義だからな」
樋「お願いします!1回だけでいいんで!」
馬「無理だよ」
樋「1回だけ!1回だけ!」
馬「やめろ!変な関係だと思われるだろ!」
樋「お願いしますよ~」
馬「無理だって」
樋「あれですか?部屋汚いとかすか?」
馬「そういうことじゃないんだよ」
樋「片付けるの全然待ちますよ。見られたくない仏壇の一つや二つあるでしょうし」
馬「1個もねーよ。何だ見られたくない仏壇って」
樋「ダメですか?」
馬「ダメだよ」
樋「じゃあもし、僕じゃなくてイイ女だったら家ついて行ってもいいですか?」
馬「そういうことでもないんだって」
樋「今まで落とせなかった男はいないっていう女がいるんですけど」
馬「…どっちの意味でだよ」
樋「三角絞めで」
馬「物理的にかよ」
樋「間違いが無いように、絶対に何もするなよって強めに言い聞かせておきますんで」
馬「それが間違いの元だよ」
樋「ダメですか?」
馬「そんなあぶねー女絶対家に入れたくないよ」
樋「お願いしますよ。お時間取らせませんから。チャチャっと終わらせますから」
馬「宗教の勧誘がチャチャっと終わらせるってめちゃくちゃ怖いからな」
樋「怖くはありません。注射と同じです。しかも麻酔注射です。すぐに何も感じなくなります」
馬「怖えーよ。何やる気だよ」
樋「だから何もしませんって」
馬「絶対するだろ」
樋「ただお家に伺って、その人がこれまでどんな人生を歩んできたのかや、現在の状況、将来の不安等々話を伺って、最後に手相を見ます」
馬「手相!?え、もしかして昔手相の勉強してた人たちですか?」
樋「ご存じなんですか?」
馬「最近見ないと思ったら、今こんなやり方してんのかよ」
樋「はい。時勢に合わせて、手口は日々アップデートしております」
馬「手口って言っちゃったよ」
樋「知ってるなら話が早いです。合同結婚式を挙げさせてあげるんで、霊感商法に騙されませんか?」
馬「ここから家までのタクシー代払うんで、帰ってもらっていいですか?」
暗転