量子計算学習ノート - 量子力学の公理2


この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。


前回の記事では離散的な記述である、ユニタリオペレータによる時間発展と連続的な記述である、シュレディンガー方程式による時間発展を紹介した。この記事ではシュレディンガー方程式による時間発展が、ユニタリオペレータによる時間発展に対応付けられることを示す。

シュレディンガー方程式をおさらいすると、次のような方程式になる。

$$
i\hbar\frac{d|\psi(t)\rang}{dt} = H|\psi(t)\rang
$$

ここで、$${H}$$は(閉じたシステムの)ハミルトニアンと呼ばれるエルミートオペレータ、また$${\hbar}$$はプランク定数である。現時点では閉じた量子システムを想定しているので、ハミルトニアンは時間で変化しないと仮定する。

そもそも抽象的な記述のままだと議論を展開しにくいので、ハミルトニアンのスペクトル分解を行えるCONSで、ベクトルと行列表現を固定することにしよう。今$${H = \sum_k E_k |e_k \rang \lang e_k|}$$とハミルトニアンが書き下せていたとする。また、状態ベクトル$${|\psi(t)\rang}$$をCONS$${\{|e_k\rang\}}$$を用いて$${|\psi(t) \rang = \sum_k \psi_k(t)|e_k\rang }$$と表現する。このとき、シュレディンガー方程式は次のように書き直せる。

$$
i\hbar \sum_k \frac{d\psi_k(t)}{dt}|e_k\rang = \sum_k E_k \psi_k(t) |e_k\rang
$$

この微分方程式を解くためには、各$${k}$$に対して次の方程式を解けばよい。

$$
\frac{d\psi_k(t)}{dt} = \frac{-iE_k \psi_k(t)}{\hbar}
$$

では実際に解いていこう。まずは次のように変形する。

$$
\frac{1}{\psi_k(t)} \cdot \frac{d\psi_k(t)}{dt} = \frac{-iE_k}{\hbar}
$$

次に両辺を$${t}$$で$${t_1}$$から$${t_2}$$の間で積分する。

$$
\int_{t_1}^{t_2} \frac{1}{\psi_k(t)} d\psi_k(t) = \int_{t_1}^{t_2}\frac{-iE_k}{\hbar} dt
$$

両辺を整理すると

$$
\log \frac{\psi_k(t_2)}{\psi_k(t_1)} = \frac{-iE_k(t_2-t_1)}{\hbar}
$$

となる。対数の定義からさらに次のように書き直せる。

$$
\frac{\psi_k(t_2)}{\psi_k(t_1)} = \exp\left({\frac{-iE_k(t_2-t_1)}{\hbar}}\right)
$$

両辺に$${\psi_k(t_1)}$$をかけると

$$
\psi_k(t_2) = \exp\left({\frac{-iE_k(t_2-t_1)}{\hbar}}\right)\psi_k(t_1)
$$

を得る。ここまで行くと$${|\psi(t_2)\rang = \sum_k \psi_k(t_2) |e_k\rang}$$だから

$$
|\psi (t_2) \rang = \sum_k \exp\left({\frac{-iE_k(t_2-t_1)}{\hbar}}\right)\psi_k(t_1) |e_k\rang = \exp\left({\frac{-iH(t_2-t_1)}{\hbar}}\right) |\psi(t_1)\rang
$$

ととけることになる。ここで$${\exp\left({\frac{-iH(t_2-t_1)}{\hbar}}\right)}$$はユニタリオペレータである。実際、

$$
\exp\left({\frac{-iH(t_2-t_1)}{\hbar}}\right) = \sum_k \exp\left({\frac{-iE_k(t_2-t_1)}{\hbar}}\right)|e_k\rang \lang e_k|\\
\left[\exp\biggl({\frac{-iH(t_2-t_1)}{\hbar}}\biggr)\right]^* = \sum_k \exp\left({\frac{iE_k(t_2-t_1)}{\hbar}}\right)|e_k\rang \lang e_k|
$$

と書ける。このユニタリオペレータを$${U(t_1,t_2)}$$とおくと、ユニタリにおける時間発展の記述と一致することがわかる。

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