解析入門I - 実数列の極限1


この記事は解析入門I (杉浦光夫 著)の読書ノートです。


前回までで実数の連続性について説明し、ここから種々の極限の存在が導かれる。この議論につなげるためにまずは実数列とは何かについて定義しておこう。

実数列とは、自然数$${\mathbb{N}}$$を定義域に持ち、実数の値をとる関数である。つまり$${f: \mathbb{N} \to \mathbb{R}}$$のことである。

実数列

実数列の定義はこのように単純明快であるが、私たちは自然数に対する理解をより深めておくべきだろう。そこで自然数について説明することにする。

さて、結論から述べてしまうと私たちは自然数を有限集合の元の個数を表すものとして定める。このため私たちの議論の中で、自然数には$${0}$$を含めることにする。空集合$${\phi}$$の元の個数を$${0}$$としたいからだ。

私たちはまず自然数を厳密に定義するために、継承的な集合というものを次のように定義する。

順序体$${K}$$の部分集合$${H}$$とする。$${0 \in H}$$、$${n \in H \Rightarrow n+1 \in H}$$の双方を満たすならば、$${H}$$を継承的であるという。

継承的集合

継承的集合について成り立つ性質を見ていこう。

まず継承的集合は実際に存在する。つまり継承的集合の全体を$${\Gamma}$$とすると、$${\Gamma \neq \phi}$$だ。実際、実数体$${\mathbb{R}}$$自身もこの性質を満たす。

次に、継承的集合の共通部分は継承的である。この命題を定式化すると次にようになる。

$${L \neq \phi}$$を添字集合とし、$${\{H_\lambda: \lambda \in L\} \subset \Gamma}$$をとると、$${\cap_{\lambda \in L} H_\lambda \in \Gamma}$$である。

これを証明しよう。まず任意の$${\lambda \in L}$$に対し、$${0 \in H_\lambda}$$であるから、$${0 \in \cap_{\lambda \in L} H_\lambda}$$が成り立つ。次に$${n \in \cap_{\lambda \in L} H_\lambda}$$とすると、任意の$${\lambda \in L}$$に対し、$${n \in H_\lambda}$$であり、それぞれの$${H_\lambda}$$は継承的であるから$${n+1 \in H_\lambda}$$が成り立つ。したがって、$${n+1 \in \cap_{\lambda \in L} H_\lambda}$$である。以上から$${\cap_{\lambda \in L} H_\lambda}$$は継承的である。

さて、この事実から私たちは自然数を次のように定義する。

$${\mathbb{R}}$$に含まれるすべての継承的集合に属する実数を特に自然数といい、その全体を$${\mathbb{N}}$$と表す。つまり$${\mathbb{N} = \cap_{H \in \Gamma} H}$$

自然数

自然数の全体は$${\mathbb{R}}$$の最小の継承的集合である。つまり、$${\mathbb{R}}$$の任意の継承的集合$${H \in \Gamma}$$に対して$${\mathbb{N} \subset H}$$となっている。

実際、自然数の定義により、$${\mathbb{N}}$$の元は$${\mathbb{R}}$$のすべての継承的集合の要素でもある。このことから任意の$${H \in \Gamma}$$に対して$${n \in \mathbb{N} \Rightarrow n \in H}$$であるから、$${\mathbb{N} \subset H}$$である。

自然数の定義によって数学的帰納法が定理として導かれる。この元となる原理は次の通りだ。

$${\mathbb{N}}$$の部分集合$${H}$$が継承的であるとき、$${H = \mathbb{N}}$$である。

数学的帰納法の原理

これは$${\mathbb{N}}$$が最小の継承的集合であるために、$${\mathbb{N}\subset H}$$が成り立つと同時に$${H}$$が$${\mathbb{N}}$$の部分集合、つまり$${H \subset \mathbb{N}}$$であることによる。

数学的帰納法の原理によって数学的帰納法は次のように定式化される。

自然数$${n}$$についての命題$${P(n)}$$に対し、$${P(0)}$$かつ、$${P(n) \Rightarrow P(n+1)}$$が成立するならば、任意の$${n}$$に対し、$${P(n)}$$は真である

数学的帰納法

実際、$${H \equiv \{n : P(n) \} \subset \mathbb{N}}$$と定義し、$${P(0)}$$かつ、$${P(n) \Rightarrow P(n+1)}$$が成立するならば、$${H}$$は継承的であることがわかる。すなわち、$${H = \mathbb{N}}$$が数学的帰納法の原理において示されるため、$${P(n)}$$が成り立つような数は自然数全体ということになる。

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