解析入門I - 実数の連続性5


この記事は解析入門I (杉浦光夫 著)の読書ノートです。


前回はボルツァーノ・ワイヤストラスの定理を示して、有界実数列と部分列の収束の関係を示した。この定理を利用することで実数列が収束するために必要十分な数列の特徴を導くことができる。

数列が収束することと、その収束値がどんな実数であるかは分けて考えたほうが良いことがある。何らかの値に収束することはある程度容易に示すことができるが、収束値を求めることが困難である場合だ。
このどんな実数に収束するかは明言しないが、確実に何らかの値に収束はするという性質を抜き出せることがわかっている。このためにコーシー列という概念を持ち出そう。

数列 $${(a_n)}$$がコーシー列であるとは、任意の正数$${\varepsilon \gt 0}$$に対し、ある$${n_0 \in \mathbb{N}}$$が存在して、$${n, m \ge n_0 \Rightarrow |a_n - a_m| \lt \varepsilon}$$が成り立つときをいう。

コーシー列

「限りなく0に近い正数に置いても、特定の番号からは任意の2点間の距離がその正数で押さえられる」というこの定義より、コーシー列は何らかの値に限りなく近づく数列であろう、という直感を得る。この直感は実際に正しいが、論理的に示すためにコーシー列の性質を見てみることにしよう。

コーシー列は次の性質をもつ。

  1. コーシー列$${(a_n)}$$は有界である

  2. コーシー列$${(a_n)}$$のある部分列$${(a_{n(k)})}$$が実数$${a}$$に収束すれば、コーシー列自身も$${a}$$に収束する

では1.から示そう。$${1 \gt 0}$$に対してある自然数$${n_1}$$が存在して、$${n, m \ge n_1}$$とするとき、$${|a_n - a_m| \lt 1}$$が成り立つ。特例として$${m = n_1}$$の時を考えると$${|a_n - a_{n_1}| \lt 1}$$となるから、

$$
-1 \lt a_n - a_{n_1} \lt 1
$$

が成立する。よって$${a_{n_1} -1 \lt a_n \lt a_{n_1} +1}$$を得る。

ここまでで、すべての$${n \ge n_1}$$に対して、「$${a_n \ge 0}$$ならば$${|a_n | \lt |a_{n_1} + 1|}$$」が、「$${a_n \lt 0}$$ならば$${|a_n| \lt |a_{n_1} - 1|}$$」が得られることになる。この事実を更にまとめると

$$
\forall n \ge n_1,\ |a_n| \lt \max{\{|a_{n_1} -1|, |a_{n_1} +1|\}}
$$

となる。このことからすべての自然数$${n}$$に対しては

$$
|a_n| \lt \max \{|a_0|, |a_1|, \cdots, |a_{n_1 - 1}| , |a_{n_1} - 1| ,|a_{n_1} + 1| ,\}
$$

が成り立つことになる。

次に2.を示そう。今$${(a_n)}$$がコーシー列であることを仮定するから、任意の$${\varepsilon \gt 0}$$に対し、ある自然数$${n_0}$$が存在して$${n, m \ge n_0 \Rightarrow |a_m - a_n| \lt \frac{\varepsilon}{2}}$$が成り立つ。また、$${\lim_{k \to \infty} a_{n(k)} = a}$$だから、ある自然数$${k_0}$$が存在して、$${k\ge k_0 \Rightarrow |a - a_{n(k)}| \lt \frac{\varepsilon}{2}}$$も成り立つ。

ここで、$${m_0 \equiv \max \{n_0, k_0\}}$$とおこう。そして$${k \ge m_0}$$なる$${k}$$を取ると、当然$${k \ge n_0, k_0, n(k) \ge n_0, k_0}$$であるから$${|a - a_{n(k)}|, |a_{n(k)} - a_k| \lt \frac{\varepsilon}{2}}$$を得る。よって、三角不等式を使うと

$$
|a - a_k| \le |a - a_{n(k)}| + |a_{n(k)} - a_k| \lt 2\cdot \frac{\varepsilon}{2} = \varepsilon
$$

が成立する。つまり、$${\lim_{k \to \infty} a_k = a}$$であり、コーシー列は収束する。

次回は実際にコーシー列であることが、収束の必要十分条件であることを見ていく。

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