成功?失敗?今年話題になったOOH(屋外広告)
さて、今年も残すところあと2ヶ月ちょっととなりました。
今年のベスト広告を振り返るには少しまだ早いですが、今回は今年話題になった世界のOOH(屋外)をご紹介いたします!
カンヌライオンズ受賞作: MAGNUM「Find your summer」
アイスクリームを片手に、かすかな陽の光を浴びているマグナムの広告写真。広告のコピーは「Find your summer」。
真冬でも陽射しが差し込む場所で夏を感じようというメッセージが込められています。
Find your summerの広告は、イギリスの屋外広告、雑誌や新聞広告のほか、デジタルサイネージで展開されました。
特にデジタルサイネージの活用が秀逸で、陽が照っている時間帯に戦略的に広告が表示される仕掛けが施されています。これにより、冬に低迷しがちなアイスクリームの売り上げを66.3%伸ばすことに成功しました。
アイスクリームの売り上げが低迷する冬をあえて狙ったことで、オフシーズンの売り上げ問題を解決し、今年のカンヌライオンズの屋外広告部門でグランプリと金賞を受賞。さらに他の4部門でも賞を獲得しました。
真冬のイギリスに、実際どのようにマグナムの広告が登場したかは、こちらのcase study動画をご覧ください。
そして、アイディアは似ているけど賛否両論に分かれたのがIKEAの「Here comes the sun」・・・。
IKEA「Here comes the sun」
テック企業3社と協働して作られたGPSモニターを、IKEAのNISSEDALミラーに装着し、ストックホルムの広場に屋外広告として設置されました。GPSモニターは太陽の動きに反応し、光を鏡に反射させることで、日陰でも日光浴が楽しめるように設計されています。
このキャンペーンはスウェーデンの不安定な気候を捉えていますが、パーパスマーケティングの成功と失敗事例を紹介したAdAgeのPurpose Marketing Hits and Missesでは、微妙な評価・・・。
目を引くインパクトはあるものの、大きな問題解決には繋がっておらず、ストックホルムではなく、もっと夏でも日が当たらない地域に焦点を当てるべきだったと、デンマークの広告代理店トーマス・コルスター氏が指摘しています。
確かに、スウェーデンの夏は夜22時まで明るく日照時間が長い・・・
個人的には、ストックホルムの美しい広場に巨大な鏡を設置することが街の景観的にどうなんだろう・・・という気持ちです。
カンヌライオンズ受賞作: Pedigree 「Adoptable」
保護犬画像をスタジオで撮影したレベルの写真に生成。
保護犬がいる地域に合わせて、生成された写真はデジタル広告として使用され、里親が見つかるとデジタル広告の犬が別の犬に変わるシステムです。
こちらはペディグリーのブランドパーパス「捨て犬問題を解決すること」に繋がっているキャンペーンでマグナムと同様に屋外広告部門でグランプリを受賞し、その他2部門で金と銀を受賞しています。
Thomas Cook「Deflatables」
イギリスの旅行会社トーマス・クックと海洋保護協会が協働して制作した広告「Deflatables」。通常、大きな浮き輪は「Inflatable」と呼ばれますが、この広告ではその反対語「Deflatables」を使い、リアルな動物の形をした浮き輪の空気が半分抜けた状態でビーチに放置されている様子を表現しています。この広告は屋外広告やSNSのほか、バケーションに出かける旅行者に向けて空港でも展開されました。
インパクトのある写真が環境問題について改めて考えさせられる内容となっています。
しかし、AdAgeの「Purpose Marketing Hits and Misses」では、IKEAの鏡を使った広告と同様に低評価でした。理由の一つは、トーマス・クックが飛行機を所有する旅行会社であり、完全に環境に優しい企業ではないことです。もし海洋保護協会単独で制作された広告であれば筋が通っていますが、トーマス・クックが関わっていることで、表面的に環境問題を訴える「グリーンウォッシング」に見えてしまいます。また、子供が使うような大きな浮き輪を広告に利用しましたが、実際に海で問題視されているゴミの多くは、プラスチックボトルやスナック菓子の袋などの小さなプラスチックです。このため、実際の問題と広告に描かれている浮き輪との間にギャップが生じています。
また、OOHではないですが、グリーンウォッシングと言えば、Doveが環境保護団体のグリーンピースからよく避難を受けています。9月に公開されたDoveのToxi Influenceを真似て撮影された「Toxic Influence: The Dark Side of Dove」はとても印象的でした。
元ネタのDoveのToxic Influenceは母と娘の会話を撮影し、SNSの影響を軽視しがちな親たちに警鐘を鳴らすキャンペーンで、2022年のカンヌライオンズで3部門の賞を獲得した本当に素晴らしい作品です。
しかし、Doveの巧みなマーケティングとDoveの環境対策が表面的であることを暗に示したグリーンピースの作品もまた、強いメッセージ性を持っています。グリーンピースの作品では、プラスチック汚染の問題を訴えていますが、DoveのSNSアカウントをつまらなそうにスクロールしている様子を撮影したシーンはグリーンピースの痛烈な皮肉を感じます・・・。
最新OOH:Heineken「The Hidden Message for The Boring Mode」
後半は、今月発表されたばかりの最新OOH3つをご紹介します!
ハイネケンはメキシコとオランダの音楽イベントでステージの赤外線ディスプレイに、とある仕掛けを行いました。
肉眼では気づかず、スマホをかざすと「この瞬間をスマホではなく記憶に残そう」というメッセージが浮かび上がります。また、「退屈モード」というアプリも紹介されました。このアプリは、通知やアプリ、カメラ機能を一時的にブロックし、スマホをガラケーのようなモードにすることで、ユーザーがその場、その瞬間をリアルに楽しめるように設計されています。
こうした音楽イベントでのスマホを使用しないオフライン推奨のアクションは、DJやパフォーマーたちからも賛同を得ており、会場がより一体感になり、盛り上がると話しています。
興味深いことに、Z世代とミレニアル世代のスマホユーザーの35%以上が誰かと交流中に頻繁にスマホをチェックしている一方、60%が「スマホを使用しなければ音楽イベントをもっと楽しめる」と答えています。さらに、「55%がコンサートでビデオ撮影を優先しているが、見返すことはほとんどない」とも回答。
これには私も納得な回答・・・
ちなみにハイネケンは今回のキャンペーンの前に、今年4月、ミラノデザインウィークで最小限の機能しか持たないダムフォン「The Boring Phone(退屈な携帯電話)」を発表しました。
この携帯は透明でレトロな折りたたみ式デザインで、通話とメールに加え、唯一のアプリはレトロゲーム「Snake」のみ。カメラも外側に低画質のものだけが付いています。
これは、1980~90年代に流行したガジェットを現代風にアレンジし、10代から30代に人気の「ニュートロ(ニュー+レトロ)」を意識したデザインになっています。非売品ですが、今後スポーツ競技やさまざまな消費者向けのイベントを通じて限定5000台を配布予定と発表しています。
The Boring Phoneの広告はこちら↓
最新OOH: Glossier 「VOTE FOR YOU」
Glossierは、10月の乳がん啓発月間と11月のアメリカ大統領選挙に向けて、New York Timesにインパクトのある新聞広告を掲載しました。
胸の中央には「Vote For You(あなたのために投票を)」と書かれ、さりげなくGlossierの人気商品のフレグランス「You」とかけてあり、新商品のYou RêveとYou Douxというフレグランスの宣伝にも繋げています。
広告の右下には選挙登録を案内するリンクが記載され、登録すると選挙管理局のウェブサイトへ案内される仕組みになっており、この広告は、新聞やSNSに加え、10月14日から11月の選挙日まで、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシンのビルボード、大衆交通機関、大学キャンパスでも掲示される予定です。
写真は10月13日にNew York Timesに掲載された新聞広告で、目を引くインパクト性があります。
乳がん啓発月間や選挙といった注目の時期を巧みに活用しながら、新商品の宣伝もさりげなく紹介したこの広告は、タイミングとメッセージが上手だなと思います。
最新OOH: NIKE x Jonquel Q Jones x 自由の女神像
2024年秋のWNBA(女子バスケットボールリーグ)では、10月20日に行われた決勝戦でニューヨークリバティチームが優勝しました。その際、MVPを受賞したジョンケル・ジョーンズ選手を讃え、自由の女神像に彼女の喜びの瞬間が映し出されました。こういったプロジェクションマッピングの活用方法、本当に最高ですね…。
以上!
今年カンヌライオンズで受賞したOOH広告や話題になった広告をいくつかご紹介いたしました。
みなさまはどの広告が印象に残りましたか?
次回もどうぞよろしくお願いします!
執筆:高嶋 くらら