【ナビレラ】自分の人生を生きよう
世代を超えた友情
70歳のドクチュルは、少年の頃からの夢であったバレエを23歳の青年チュロクから教わることになる。当初その役割に納得していなかったチュロクだったが、ドクチュルの誠実さと明るさに触れ、次第に心を開き始める。ドクチュルはチュロクの生徒でありマネジャーでもあり、また彼の孤独を癒す家族のような存在となっていく。徐々に深まる二人の関係性や世代を超えた友情がとても温かい。
韓国でも日本でも、「若者を支え応援する中高年」はどれくらい身近だろうか。過酷な競争社会で働いて生きていくことは並大抵ではない。そんな若者たちの困難に対して先に社会に出た大人たちには何ができるか。私も、少しでもマシな何かを次の世代に手渡したいと思うから(現実には申し訳なさと無力感に打ちのめされることの方が多いが)ドクチュルの言葉に共感する場面がたくさんあった。
ドクチュルは、チュロクだけでなく孫娘やチュロクの友人たちに対しても、温かい眼差しを向ける。インターンとして頑張っていたドクチュルの孫娘が管理職の私的な手伝いをさせられた上に採用試験で不合格になるというエピソードがある。第5話で孫娘は管理職に異議申し立てをするのだが、その場に居合わせたドクチュルが管理職に言い放ったセリフが良い。
「大企業で役職に就くとあなたのようになるのかね?昇進のために自分の立場を利用し、新社会人を苦しめるとは。私は最近の若者たちにかけてやる言葉がない。申し訳なくて・・努力は報われると言ってきたのに、あなたのような人が若者をつぶしてしまうから。応援するどころか踏みにじるとは・・恥を知れ!」
人生の先輩としてのドクチュルの正しさと優しさが胸を打つ。世代間連帯への希望を感じる場面だった。
互いに尊重しながら
ドクチュルの妻や子どもたちは最初、バレエを習うことに反対した。韓国でも、まだまだ家族が互いに干渉し合うのは当然という風潮が根強く残っているのだろうと思う。その様子は理不尽にも感じるほどで、「本人の好きにさせたげてよ!」と口出ししたくなるほどだった。しかし、最終的には子どもたちも理解を示し、応援するようになる。特にすべてを包み込んで夫を支える妻の姿は、苦楽を共にしてきた二人の長い時間の重みが感じられて素敵だった。
ドクチュルと妻、長男夫婦、長男と娘、チュロクと父、バレエの講師カップル・・・主人公だけでなく、周縁の夫婦や親子の対立や和解が丁寧に描かれるのは、韓ドラの特徴である。いずれの家族の関係性も、なかなか過干渉でめんどくさそうだけど、反面、ぶつかり合う分だけ深いところで繋がっているようにも見える。
人生の主人公は自分自身だから自分のことは自分で決めたい。互いの自己決定を尊重したい。それでも疎遠になるのではなく、助け合ったり応援し合ったりしたい。相手の幸せを願い自己決定を尊重する姿勢を前提として、そのためのぶつかり合いなら意味があると思う。
自分が着実に老いに近づいていることを痛感しているので、ついドクチュルばかりに注目して感想を書いてしまったが、チュロクを演じたソン・ガンの鍛え込まれた身体やバレエシーンの美しさもこのドラマの魅力である。異質な他者とも支え合いながら最期まで自分の人生を生きよう、誰もが幸せを求めて良いんだ、というメッセージを白鳥の湖の旋律に乗せてそっと手渡してくれる人生賛歌のドラマだった。