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肉を食べろ

将棋中継を見ていると、時に解説の何気ない一言がやけに記憶に残ることがある。
最近よく思い出すのは2018年王将戦中継での解説の加藤一二三九段の一言。
「肉は即戦力ですよ。食べたらすぐ血肉になりますから」
メモなどは取っていなかったので細かいニュアンスは違うかもしれないが、とにかく「肉はすぐに血肉になる」という言葉が強烈に脳に残った。仮にこれが大谷翔平選手の言葉だったとしたら特に記憶には残らなかっただろう。当時78歳、半世紀以上もの長きに渡り戦いの場に身を置き、最後の最後まで戦い抜いた加藤一二三九段の言葉だからこそこの言葉が響いた。
それ以来、落ち込んだり悲しかったり元気が出ないときは「肉を食べよう」という意識が刷り込まれた。「血肉になる」ってモリモリ元気が出てきそうな気がするじゃないですか。 

現在、私がとても・いつも・非常に応援している豊島九段が永瀬王座に挑戦する王座戦5番勝負を戦っている。その第2局が本日行われた。
午前9時から始まった対局は、夕方には評価値上は豊島九段優勢を示し、後の時間の使い方を見るに豊島九段も「自分が良くできそう」と感じていたのではないかと思う。ただ、そこから勝ち切るまでがまた難しい。本譜も夕食休憩直前に突如千日手の筋が現れ、手番の豊島九段は休憩中も盤の前でずっと考えていた。休憩後に3回目の同一局面になり、誰しもが千日手だと思ったところで豊島九段がまた時間を使う。あと1回、同じ手順を指せば千日手成立だ。千日手指し直し局は持ち時間を残している方が有利だ。

指し直し前の両対局者の各残り時間がそのまま持時間となり、片方または両方の対局者の持時間が60分に満たない場合は、持時間が少ない方の持時間が60分になるように、両対局者に同じ持時間を加える。

千日手  -Wikipedia

つまり持ち時間がすでに1時間を切っていた豊島九段は、ここでどれだけ時間を使おうとも指し直し局の持ち時間は1時間に変わりがないが、1時間以上残していた永瀬王座は豊島九段が時間を使えば使うほど持ち時間が加算されていく。「千日手にするのなら早く指したほうが…時間が〜〜!!」などと思いながら見守っていたが、同一局面3回目でもまだまだ考える姿を見てようやく気が付いた。自分がどれだけ考えても指し直し局の持ち時間が変わらないのなら、今この目の前の将棋を限界まで考えよう、そういう心意気なのだと。それ程までにこの将棋は諦め難い1局なのだと思った。残り10分まで考えた豊島九段の出した答えは「千日手」だった。
指し直し局は中盤まで非常に際どい将棋だったが、豊島九段の過激な攻めを永瀬王座がしっかり見極めて快勝し、王座戦は1-1の振り出しに戻った。

先手番でおそらく良くできそうな将棋が千日手になったこと、指し直し局が中盤以降はずっと苦しい展開になってしまったことなどを考えて、勝手にしんどい気持ちになってしまう。一方で、たかが一ファンが勝手にしんどくなっても…(スンッ)という気持ちある。このどうしようもない気持ちをどうすれば………
そうです、肉です。
肉を食べて血肉とし、次の対局の応援をしよう。

そもそもなぜ豊島九段のファンになったか原点を振り返ると「強さへの飽くなき探究心」なので、そういう常に前進する人を応援しているのだからファンも体力がなければ追いついていけないのだ。
そうだ、肉を食べよう。

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