両側乳がんラプソディ ♯18 遺伝子検査の結果
7月中旬、私は再び、G施設の門をくぐった。
3週間前に受けた遺伝子検査の結果を聞きに来たのである。
まずは両胸とも乳がんであることが改めて告げられ、I先生から遺伝子検査の結果を教えられた。
「陰性でしたね。」
つまり、遺伝子性の乳がんではないということである。
「はい。」
終わり。
(保険適用で)6万6000円をかけたにしては、あっけない。
でもよくよく考えたら、陰性ならばそれ以上、何も説明することはないのだろう。
良かったです、というのもなんだか憚られ、話題を変える。
「手術はいつ頃になりそうでしょうか。」
乳がんとわかった以上、早く摘出手術をしたいという気持ちに変わりはない。
「まだ確定してないんだよね。今は、6月初旬に予約した患者さんの手術日の予定がようやく決まってきたところです。」
私のG施設の初診日は6月22日だったので、ここから2週間後に私の手術日も確定することになりそうである。
「8月の下旬に温泉旅行に行こうと思っているんですが、入院や手術に引っかかることはないですかね。」
順当にいけば、8月下旬から9月上旬にかけて入院することになる予定である。
仮に、入院とはならなくても、新型コロナウイルスの影響で、入院10日前から体温を計り、記録しなければならない。
リスクを避けるために、入院前はできる限り外出しないように、初診の際に看護師から説明を受けていた。
「ぜひ行ってらっしゃい。」
なぜかI先生の声の高さがワントーン上がる。
その声色の変化に言外の意味を感じる。
(摘出前の胸で最後の温泉を楽しんでらっしゃい。)
うがちすぎか。
私は非言語で送られたI先生の気持ちを勝手にキャッチして答えた。
「最後のナマチチで楽しんできます。」
ふふっ、と先生の口元に笑みがこぼれたのを見た気がしたのは、記憶の書き換えかもしれない。
たまたま友人と温泉旅行に行くことになっただけなのだが、私もその気(感動体験温泉旅行)になってくる。
「その時期に外出してコロナに罹ったらまずいかなと少し心配してました。」
「なる時はなるから、楽しんできて。」
ですよね。
I先生は、だいたい入院1ヶ月前ぐらいだろうということで、8月頭に術前検査の予約を入れてくれた。
入院日は相変わらず決まらないが、温泉旅行と術前検査日を確定させて、遺伝子検査の陰性結果を持って、わずかな達成感と共に私は帰宅した。