芸術は過渡期だと思った(副題:モネ&フレンズ アライブに行きました)
日本橋三井ホールで開催中の「モネ&フレンズ アライブ」に行きました。
印象派の絵画が好きだし話題になっていたので、せっかくなら、と。
普通の「美術館」ではない、360℃囲まれた巨大スクリーンと音楽が融合した没入型の展示となっていました。
良かったところ
半強制的に印象派の世界に没入させられる
やはりこの展覧会の最大の見どころであり特徴である、最新技術を駆使して巨大スクリーンで印象派の作品を次々と映し出す展示。
この映像は1回50分程度なのですが、その50分間の間は誰もが印象派の作品に没入するというのがいい点だと思いました。
美術館って、作品鑑賞にどのくらい時間をかけるべきなのかよく分からないことが多い。
「綺麗だな」「素敵だな」とはもちろん思うけれど、それ以上のことを考えずに先を急いでしまうことも。
その点、この展示方法は50分間映像で見せられるため、その時間は印象派の世界に浸り、作者や作品に思いを馳せることが出来た。
ただ、1つ言っておきたいのは、物理的に閉じ込められるから没入できたというだけで、決してこの展示方法が没入感を味わえるような画期的なものだった訳ではないです。
ただ絵画が音楽に合わせて動くだけで、「ちょっとチープだな」と感じました。
印象派を体系的に理解できる
映像展示の前段階の展示で、モネや他の印象派の画家たちのプロフィールや名言・代表作がまとめられていました。
この展示が個人的には良かった。
印象派ってどういう人がいて、どんな性格で、どんな境遇で、どんな作品を描いてきたのか。それを体系的に理解することが出来ました。
今回の展示名「モネ&フレンズ」、安直すぎて微妙だなと思いますが、印象派の画家同士で「こことここは交流が深いんだな」「この人は他の人と交流を持たないタイプなんだな」など、キャラクター的に画家のことを理解出来たのは面白かった。
映えスポットがある
私はそんなに映えスポットでの自撮りとか興味が無いのですが、こういう作品の世界観を再現できるスポットがあると若い人的には楽しいだろうなーと思いました!
良くなかったところ
混みすぎてて没入感どころではない
人気なのは何よりなんだけど、とにかく人が多い。
おそらく、360℃展示を最大限に楽しむ方法としては、スペースの中を自由に動き回って360℃見渡せることだと思うんだけど、混みすぎてて全員同じ方向を見て体育座りするような状況。
没入感って「作品と私」だけの空間を錯覚することだと思うけど、それを実現するにはもっと人数制限すべきだと思った。(収支度外視の意見)
作者と作品が結びつかない
スクリーンには絵だけでなく画家の名言も表示されるのだけれど、スクリーンに映し出される絵と名言の人物がバラバラだった気がする。
(モネの絵が表示されてる時にセザンヌの名言が表示される、みたいな感じ)
せっかく「この絵好きかも!」って思っても、それが誰の何という絵なのかがスクリーン上に情報として映らないので、それ以上の知識に結びつかないというか。
「この展覧会を取っ掛りにして印象派の作品を好きになってもらおう」っていう気持ちが作り手に無いんだろうなって思いました。
背景と人物を無理矢理バラバラにしている
これは1番言いたいこと。
映像がぬるぬる動いていく過程で、絵の中の背景だけが動いたり、逆に人物だけが動いたりする。
それって見ていてかなり気持ち悪い。
元からレイヤー化されたデジタルイラストであれば背景だけ動かしても何の違和感もないだろう。
だけど、アナログ作品、ましてや印象派なんて影や境界を「線」で表現してるわけではないので、そこから無理矢理背景だけを動かしても、ギザギザで汚いのです。
分かりづらい写真で申し訳ないのですが、背景が少し動いてるの分かりますか?
この動きの影の感じが汚くて、芸術への冒涜だなと思ってしまいました。
芸術への冒涜なのか?
芸術への冒涜。
かなり強い言葉を使ってしまったと思います。
印象派の画家たちは自分の描いた絵をこんな風にバラバラに切り刻まれて勝手に動かされて、それを本当に望んでいたのかなぁ、と思いを馳せました。
アナログにはアナログの良さがあって、それをデジタルの最新技術と無理に融合させる必要は無い、と。
でも一方で、芸術とはいつの時代も挑戦だと思う。
印象派だって、それより前の時代の絵とは違う挑戦をしてきたわけだし、印象派が流行った頃はカメラの技術が出てきた頃で、「絵だから出来ること」「写真だから出来ること」をきっと人々が模索してきた時代だったのかな。
そして、今もその模索は続いている。
正直、今回の展示方法が「完璧な正解」とは言えないと思うけど、「最新技術を駆使して、名作を今までとは違う魅せ方がしたい」という熱意は伝わりました。それってすごく芸術家マインド。
イマーシブ技術と美術展示の最適解を見つけるには、まだまだ過渡期なのかな、と思ったけど、
逆にいうと芸術っていつの時代も過渡期だから面白いってことにも気づかせてくれる展覧会でした。