かしこくて勇気ある子ども 感想文 最終回直前SP

山本美希による連載作品、全六話のうち五話まで公開されている。妊娠が発覚した夫婦が産まれてくる子供をめぐり日々を進めていく話。ネタバレがたくさんあるので、できれば先にリンクにある漫画の方を読んでほしい。

第一話
冒頭、横断歩道を渡ろうとする夫婦を指差す高野沙良。母親の呼びかけにより子供が顔をだす。沙良は子供を指さしていたのだ。
そんなやり方で妊娠を打ち明けた沙良と夫は喜びを分かち合う。以降、生まれてくる子供が歩むであろう人生について思いを巡らせる二人。ベビーカーや・ベビーベッドなど現実問題としての準備と、育っていく環境について話し合う姿は喜びと希望にあふれている。

何の気なしに読んでいた一話も、五話の公開後に読み返すと見え方が変わってくる。子供は大人のルールの外にある世界にいるから親の注意も聞かないし、信号を渡る夫は妻おろか子供の方すら意識が向いていない。

それはそうと、絵がめちゃくちゃ上手い。この朗らかな絵柄の中、夫の脇毛や沙良のふとももにある斑点に見られるリアルとのバランスの取り方が良い。

第二話
親特有の特別モードと自身の及ばなかった可能性を子供に投影する親の姿について言及。それでもうちの子は違うとつっぱねる沙良はすでに無敵状態になっている。沙良のセリフから、仕事をやめずに続けていることがわかる。夫婦で話し合い、尊重している様子が伺える。夫なりの気遣いがあまり表に見えてこないのは沙良が子供を中心に魔法をかけられた特別なモードにいるからなんだろうか。それにしても後半の勢いと急激に肝が冷えていく感じったらもう。

第三話
帰宅後、沙良は寝込んでしまった。マララが銃撃されたニュースを見る夫の顔つきは何も読み取ることができない。すごい顔だ。全く言葉が通じていないのか、それとも表に出そうとしないのか。
翌日、妻の異変に気づき声をかける夫。沙良も自分がいつもと違うことを自覚していることを伝えるが、それに対してかける夫の言葉が全て通り過ぎている。優しくて良い夫だけど、事の重大さに関して受け止め方が違うことに気づいていない。ここらへんの言葉が言葉として機能しない感じがね〜〜、いたたまれない。

検診後、妻と夫で見えている世界が違うことが丁寧に表現されている。夫は妻を見ているが、妻が目の前の現実のむごたらしさに目を向けていることに気づいていない。一方で沙良も、家事をこなし出産の準備をしたり、カレーをつくる夫を見ていないんだよな〜。それも支えではあるんだけどな。

第四話
誰も見ていない中、生まれたくないのかもしれないと思いを巡らせる沙良。美味しいものでも食べてくれ…と思ったけど、妊婦が出来る息抜きについて何も知らないことに気づいた。俺も夫側の人間なんだな…。日を追うごとに目を合わさなくなる沙良と、無意識にプレッシャーをかけていることに気づかない夫。ところどころ「てめえマジで言葉選べよ」と思う。
ただ、実際問題として二人で決めたことを大事にしようとしたり、現実的に考えたら極論な不幸像を否定した上で、ポジティブに考えてみようと提案する良いとこもあるんだよな〜〜。その後理屈はもう十分と突っぱねられるんだけど。

かしこくて勇気ある子供を迎えるにあたって自分たちの生きる世界があまりにも準備が出来ていないと嘆く沙良は、重荷となっている子ども像を捨てようとする。そういった計画を取りやめたところで子供は生まれるし、現実の重たさは変わらない。沙良が引き受けた負担は、彼女一人が背負うべきものじゃないんだけど自分の子供を中心に広がる特別なモードにあると、全責任が彼女のものとなってしまうんだろう。

第五話
限界を迎えた沙良。怒涛の伏線回収。インサートされる猫の絵が良い。怒鳴り散らす沙良を横目に病院に居合わせた母親たちがそっと自分の子供たちを守っているのが象徴的。あれはなんとなく昔見たセックス・アンド・ザ・シティを思い出す。キャリアウーマンのミランダは夜泣きする赤子に振り回された挙げ句、近所の住人に嫌味まで言われてしまう回。沙良は先輩となるママのサポートが必要。

後半 沙良と夫は口論の果てに意図せず子供たちを突き飛ばしてしまう。その子供はかつて妊娠を打ち明けるきっかけとなった子供たちだった。事態に居合わせず、成り行きがわかっていない子どもたちの母親は、泣き叫ぶ子供を叱りつけ、沙良と夫の謝罪を最低限の言葉で封じ込めつつ足早に去ってしまう。母親は笑顔と共に怒りを隠せないでいる様が生なましい。人のせいにせず干渉しないように立ち去るのリアルだな〜〜〜。あれバチクソ怒ってるよね。

そして守るべき子供を傷つけてしまうことで、ようやく二人は世界に戻ってくる。いや〜〜後味が悪い。次で最終話?どうなるんだ!?!?


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