突然失踪した夫②
いなくなってまずしたことは、警察への届け出だった。
義両親に夫が再び失踪したことと警察に行くことを伝え、夫の仕事仲間とともに警察署へ行った。
生活安全課に通してもらい、仕事で使っている車の情報や特徴、写真を数枚連携して、行方不明届を出した。
そのなかで、自分がしばらく夫と会話もほとんどしていなかった状況だったことに気づかされた。
最近はどんな様子だったか、最後に会ったのはいつか、どんな服装をしていたのか、全く答えられなかったのだ。
それどころか、探してもらうために最新の写真を探してみると、4ヶ月も前だった。
もうずっと前から破綻していたのだなあと、夫がいない生活にすっかり慣れていたことにも今更気がつく。
警察署を訪れたのはすで夜も遅い時間だったけれど、何か手掛かりになるものがあるかも知れないからとメインで生活していた職場近くの部屋へも同行してくれた。
私は、その時はじめて夫が主に生活していた部屋を訪れた。
全く知らない部屋に夫の服や知っている家具が置かれているのを見るのは不思議な気持ちだった。
「近所にある商業施設がいろいろあって楽しかったよ!今度一緒に行こう」と言われたことを思い出した。それを言われたとき、なぜ出かけることは忙しいからと断るのに人のことを平気で自分のテリトリーに呼びつけるのだろう、と思ったことも。
私が悪かったのだろうか。そういう冷たい思考だから。良かれと思って提案しただけかもしれないのに、いい反応をしなかったから。
起こった物事に対して、自分の責任を探してしまうのはクセだ。
そんなことを考えている間に、コンビニの菓子パンのゴミや水場の状況を見ながら、いつ頃までいた様子なのかを確認してもらったけれど、大した情報はないという結論だった。
すっかり日付も変わってしまった頃、ようやく確認が終わり、最後に、大人の行方不明は捜査の優先順位が高くないことを念押しされて警察官とは別れた。見つけてもらうことはおそらくとても難しいのだろうと感じた。
その帰り道、仕事仲間に家まで送ってもらいながら、私ははじめて夫が恐らく女性といることを告げた。不倫をされたことがあることを、誰かに話したのははじめてだった。
仕事仲間は、浮気だとか不倫だとかそういうことに対する抵抗感が強く、夫がそういう人間であることがわかれば夫のことを軽蔑するだろうという予感があった。
だから、以前不倫された時も、最初の失踪の時もそのことを伝えられなかった。夫にとって、仕事仲間はほとんど唯一の友達であったし、二人だけの会社のパートナーだったから。
でも、もう誰にも言えず黙っていることは耐えられなかった。それに、警察も頼ったほどなのだ。
もうお互いに何かを隠して情報が霞むのが嫌だった。
仕事仲間は、ひどく驚いて。そんなことはできない人間だと思っていたと悔しそうに言って。
最後になんで言ってくれなかったのだと、少し私を責めた。
その時に、思ってしまった。
もっと早い段階で他人に相談していれば違ったのかもしれない。自分が隠してしまったせいでこんなことになったのかもしれない、と。
起こった物事に対して、自分の責任を探してしまうせいで、苦しい時間はしばらく続くこととなった。
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失踪したときの自分は、夫に対してひどくさめた心地だったように思います。
失踪直前の夫との関係も、振り返ってみると普通じゃなかった。どうしてそうなったのかもどこかで残しておきたいと思います。