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突然失踪した夫①

夫くんどこにいるか知ってる?

夫の仕事仲間から連絡が入ったのは突然だった。
時刻は22時。すでに私も仕事から帰宅していたが夫は家にはいなかった。
「家にはいないです。もしかして連絡取れてませんか?」
そう返信してすぐに自分も夫とのやりとりを振り返ると、前日の夕方にやりとりしたままとなっていた。

当時夫は仕事が忙しく家にはほとんど帰っていなかった。職場の近くに仕事仲間と寝泊まりするようの部屋を借りており、そこで過ごして休日たまに帰ってくるような生活が続いていたので、この頃3週間近く会っていなかった。
どうしてそんなめちゃくちゃな生活が成り立っていたかというと、夫は起業していたもののうまくはいっておらず、とにかくどうにか立て直すために頑張る日々で。私は私で忙しく仕事をしていたのでそれぞれ自分の生活を送っていた。それが私たち夫婦の当たり前だった。

仕事仲間からの「職場にも寝泊まりする部屋にもいなかった」という報告を受けながら、この日が来てしまったか、という気持ちだった。

夫は、3ヶ月前に一度家出をしていた。
理由は仕事がうまくいかずに実家にお金を借りにいかなくてはいけなくなったが、そんなこと申し訳なくて言えない。
自分が頼んだらきっと家を売ってでもお金を出してくれるはずだから…
と説明されていた。

無理のある話に聞こえるが、これを大の大人が信じられないくらい憔悴した顔と態度でぼろぼろと泣きながら必死に説明されたので、そうなのか…と思ってしまった。

けれど、心のどこかでは信じていなかった自分もいた。
だから、もう一度こんなことがあるかもしれない。その時は、真実を追求しなくてはいけない、と思っていた。

女性といるのではないか。

一度目の失踪のときに考えていたことだ。面と向かって聞いても否定されたけれど。

これまでに小さな違和感もあった。
なんなら不倫の前科もある。
けれど、小さな違和感に引っかかるたび「不倫か?」と冗談めかして問い詰めるのが精一杯だった。
そのたびに否定をされて、でも別にその言葉を信じてもいなくて。
けれど、自分以上にこの人に付き合い切れる人もいないだろうと思っていた。

それはもう愛情とかそういう話ではなくて。
お金だとか性格だとか起こしたことだとか、大変なことが多すぎてひとつずつ対処してきた分、責任感が増してしまっていた。

私たちは財布は別にしていて、生活費をお互い決めた金額出し合っていた。けれど、このときすでに、夫は決めた金額も生活費以外の自分の支払いもままならなくて、私が貯金を切り崩しながら補填していた。

だから、夫は私に対して頭が上がらない状況にあった。
それを裏切るほど、非道い人間だとは思えなかった。

けれど、裏切られたのだと思った。
一度目の失踪のあと、信じてあげなければいけないと、違和感も文句も全て飲み込んで腹を括った分、その絶望は大きかった。

もうダメだ。
再構築とか、2人の未来とか、考えられるはずがなかった。

わたし、離婚することにする

もう悩まないように。
決めたまま突き進めるように。
夫の仕事仲間に宣言するようにそう伝えると、「俺もさすがにもう無理だ」と返ってきた。

この日から始まった夫を捜索する日々は、地獄のような事実の連続で、めまぐるしいものになった。

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