Tоmmy和訳&解説 #1
さて、今回からThe Whoの名盤『Tommy』の全曲和訳と解説を始めていく。
初回はこのアルバムについての解説、次回から曲解説に移ろうと思う。長丁場になるが、どうかお付き合い頂きたい。
自分がこのアルバムを真剣に聴き始めたのは最近である。
The Who自体は高校生の頃に聴き始めて以来一貫して大好きであったが、どうにもこのアルバムは手が出なかったのである。
何かとっつきにくいものがあったのであろうか…長いし。
変わったのは一月前、ニコニコ動画にてこの『Tommy』を全編通しで和訳&解説している動画を見つけ、視聴した。
※https://www.nicovideo.jp/watch/sm6730349
AAで表現する The Who「TOMMY」の物語)
衝撃であった。なぜもっと早くこの名盤を聴かなかったのかと思った。
この動画作者の和訳や解釈も素晴らしかった。
そして自分も稚拙ながら和訳を細々としている身なので、この名盤に自分も挑もうと決心したのである。
まずはこのアルバムについての解説をしなければならない。
このアルバムは1つの大きなストーリーがアルバムの曲によって順に紡がれている。舞台や演劇を想像すれば分かりやすいだろうか。オペラが一番近いかもしれない。
そうした『Tommy』はロックとオペラを融合させた作品、つまりは『ロック・オペラ』という形態を確立したアルバムであるとされている。
チャート成績は全英2位、全米4位。
とある事件によって見えない、聞こえない、話せない三重苦を負ってしまった少年トミーを主人公にした物語で、アルバムのほぼ全曲の作詞作曲を担当したギタリスト、ピート・タウンゼント自身の孤独や苦悩、幼少期の経験を反映させた非常に壮大かつスピリチュアルな構成になっている。
オペラの雰囲気を高めるために、主人公であるトミーの心情や台詞を歌う曲では基本的にボーカルのロジャー・ダルトリーが歌い、他の登場人物の台詞、もしくは語り部を担う曲ではタウンゼントが歌う。
なお収録曲の中で『従兄弟のケヴィン』と『フィドル・アバウト』ではベーシストのジョン・エントウィッスルが、『トミーのホリデイ・キャンプ』ではドラムのキース・ムーンがリードボーカルを担当している。
本作はリリース後、ロックファンだけでなく幅広い層から好評と注目を集め、映画化、舞台化など様々な媒体によって取り上げられている。
(映画版では主人公トミー役をダルトリーが務め、他にもエルトン・ジョンやエリック・クラプトンが出演している)
収録曲
A面
序曲 - Overture
イッツ・ア・ボーイ - It's a Boy!
1921 - 1921
すてきな旅行 - Amazing Journey
スパークス - Sparks
光を与えて - Eyesight to the Blind
B面
クリスマス - Christmas
従兄弟のケヴィン - Cousin Kevin
アシッド・クイーン - The Acid Queen
アンダーチュア - Underture
C面
大丈夫かい - Do You Think It's Alright?
フィドル・アバウト - Fiddle About
ピンボールの魔術師 - Pinball Wizard
ドクター - There's a Doctor
ミラー・ボーイ - Go to the Mirror!
トミー、聞こえるかい - Tommy Can You Hear Me?
鏡をこわせ - Smash the Mirror
センセイション - Sensation
D面
奇跡の治療 - Miracle Cure
サリー・シンプソン - Sally Simpson
僕は自由だ - I'm Free
歓迎 - Welcome
トミーのホリデイ・キャンプ - Tommy's Holiday Camp
俺達はしないよ - We're Not Gonna Take It
さて長々と解説してたきが、もう少しだけお付き合い願いたい。
ここからはストーリーと登場人物の紹介に移る。
ストーリーは後日から始める曲解説の時にも再度解説する。
この『Tommy』を理解するうえで登場人物たちの心情や台詞(無論、全て歌詞で表現される)は外すことはできない。
・あらすじ
時は第一次大戦。英軍のパイロットであるウォーカー大佐は戦闘中に行方不明となり、戦死と報告される。ウォーカー夫人は報を聞き、失意の中で新たな夫を作り、息子のトミーを出産する。
4年後、ウォーカー大佐は奇跡的に生還を果たし帰宅するも、夫人の浮気(夫人は大佐が生きていると知らなかったとはいえ)を知ってしまい、激高して彼を射殺する。
これを目撃してしまった息子のトミーに対し、両親は「お前は何も見ていない。何も聞いていない。」と言い聞かせる。
そして「このことを一生誰にも話すな」と迫る。これが決定的なトラウマとなり、その日からトミーは視覚・聴覚・発話障害の三重苦を負ってしまう。
荒れ果ててしまったしたトミーの心が、あご髭を生やした長身の男の幻覚として現れる。男は精神世界への『すてきな旅行』を誘いかける。
トミーは異常だが幸福に満ちた自分だけの精神世界を垣間見るのだった。
自分たちの呼びかけに全く応えなくなったトミーを心配し、両親は彼を治療するために地域で勢力を伸ばしていたカルト教団の集会を訪れる。
子ども達が楽しみにしているクリスマスの季節。
両親は今日が何の日か理解できないばかりか、神の存在も神に祈ることも知らないトミーの哀れな境遇に嘆き悲しむ。
「トミー、聞こえるかい?」と必死に語りかける両親に対し、彼の内なる心が開眼し、トミーに「僕を見て、僕を感じて」と語る。
用事で外出する両親はトミーの従兄弟ケヴィンに自宅に来てもらい、留守の間トミーの子守を託す。
2人きりになったところでケヴィンは豹変。彼は異常なほどの虐めっ子でサイコパスであり、三重苦のため何も抵抗できない彼に対し執拗な虐待を加えるのだった。
何をしても改善が見られないトミーに対し両親は再度の治療を望み、アシッド・クイーンを名乗る女の所へトミーを連れて行く。
彼女は両親を騙し、『良い薬』と称した薬物を使って彼をドラッグ漬けにしてしまい、彼はバッド・トリップに陥ってしまう。
再度外出する両親。
今度は人柄が良い叔父のアーニーにトミーの子守を託す。アーニーは快く引き受け、自宅にトミーと両親を案内し紅茶を振る舞う。
しかし両親が出ていったのを確認したアーニーはいきなりトミーをベッドに押し倒す。実は彼は同性愛者であった。
アーニーは抵抗できないトミーに性的暴行を加えるのだった。
成長した青年トミーは突如ピンボールの才能を開花させる。
彼は大会でチャンピオンを負かし、一躍『ピンボールの魔術師』と呼ばれる大スターになる。
人々は三重苦のはずの青年が突如としてチャンピオンになったことに驚愕し、彼の奇跡のようなプレイを賞賛する。
両親は彼を検査しようという医師を見つけ出す。
検査の結果、医師は彼の肉体は健常で、病因は精神性のものであると結論づけた。彼の内なる心は再び「僕を見て、僕を感じて」と語りかける。
その声はトミーが鏡に向かっている時だけに聞こえるのだった。
両親は引き続き「トミー、聞こえるかい?」と熱心に呼びかけるものの、それに応えずただ鏡を見つめるだけの彼にとうとう我慢の限界に達した母親は鏡を粉々に破壊してしまう。
母親が鏡を壊したはずみでトミーは突如として三重苦から解放される。
あの『三重苦のトミー』が完治したというニュースは一世を風靡した。
奇跡の象徴としてファン達から導師に祭り上げられた彼は、新興宗教の教祖としてファン達を教化するようになる。
トミーの熱狂的信者のサリー。彼女は神父の娘だったが家出してトミーの説法を聞きにやってくる。
トミーに触れようと手を伸ばした彼女は警備員により演壇から投げ出され、顔に傷を負ってしまう。
トミーは完治によって得られた肉体的・精神的自由を満喫し、説教を聞きに来た人々を良かれと思い熱心に教化しようとするのだった。
トミーの両親は自宅を教会として開放し、より多くの信者の獲得を目論む。すぐに自宅が満員になってしまったため、彼らは誰でも参加できるホリデイ・キャンプを開設し、その運営を叔父のアーニーに託す。
しかし、アーニーは信者を教化するというキャンプの目的を無視し、献金で私腹を肥やし始める。
トミーは信者達を自分と同じ境地へ導くために、飲酒と喫煙を禁じ、目と口と耳を塞いだ状態でピンボールをプレイするよう教える。
だが、このような無茶苦茶な教義やウォーカー家による献金の搾取に爆発した信者達は、「もう付いていけない、こんなことはご免だ!」と、彼に反旗を翻し、キャンプは崩壊した。
築き上げてきたものは全て無に還ったのであった。
何もかも失った彼の発する内なる声「僕を見て、僕を感じて」と共に物語は終わる。
・登場人物
トミー・ウォーカー :主人公の少年。父の犯した殺人を目撃したショックで視覚・聴覚・発話障害の三重苦を負う。
ウォーカー大佐:トミーの父親。英国陸軍大佐。夫人の浮気を目撃して衝動的に情夫を殺害する。
ウォーカー夫人:トミーの治療方法を模索して迷走するトミーの母親。
情夫:夫人の浮気相手。激高したウォーカー大佐に殺害される。
叔父アーニー:トミーの叔父でホモセクシュアル。トミーに性的暴行をする。
従兄弟のケヴィン:トミーの従兄弟。トミーを執拗に虐待する。
ザ・ホーカー:息子の治療を願うウォーカー夫人が訪れるカルト教団の主導者。
チャンピオン:ピンボール大会で競り負け、トミーに“ピンボールの魔術師”の称号を奪われる。
アシッド・クイーン:トミーを治療すると称して幻覚性薬物を投与した女。
医師:トミーの三重苦が精神的トラウマに起因することを突き止める。
サリー・シンプソン:トミーの熱狂的な信者の少女。
これらの登場人物たちがこの『Tommy』の物語を紡いでいく。
ストーリーに中々にハードで重苦しい場面もあるが、これはストーリーを考えたタウンゼント自身が、幼少期に叔母や父から虐待を受けていたことを曲に反映させたからである。
収録曲のほぼ全てはタウンゼントの作だが、トミーが性的虐待や虐めにあう曲は「自分には書けそうもないから」とタウンゼントに託されたエントウィッスルの作詞作曲。
また、『トミーのホリデイ・キャンプ』は、キース・ムーン作とクレジットされているが、実際はタウンゼントの作曲である。
ムーンが「自分も書く」と言い出したが、彼は言うだけで曲を仕上げないのは明白だったためタウンゼントがすぐに書き上げてしまった。
リリース時にメンバーの計らいによりムーン作とクレジットされた。
さて、今回は以上にしようと思う。
長々と読んで頂いた読者諸兄に感謝を申し上げる。
次回からはいよいよ曲の和訳解説を始める。
次回、”Overture”解説をお楽しみに。
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