言霊
あれから、2ヶ月あまり経った。
私が「私じゃない誰か」の力でと言いながら他人を呪ったあの黒い思いの日から。
怒りは、消えたわけではなく、
ずっと抱えたまま、それでも努めて自分を抑え、
どうすべきか、どうあるべきか、日々考えながら過ごした。
そうしてる間にも理不尽なことはたくさん起き、
異常な活動を続けながら吹奏楽部は繁忙期に入った。
定められたガイドラインを大きく逸脱しながらの練習と本番の日々で、
この夏、ある一定の結果を残した顧問は、
現状、今年手に入れたかった名誉を手中にしている。
この先もまだシーズンは続くので、そちらは結果しだいだけれど、
夏の大舞台に関しては、おそらく今できる最高の結果だったと思われる。
さぞかし満足だろうか。
奪ってやりたい、と書いたそれは、まだ奪えてはいない。
ただ、奪うことを諦めたわけではなく、
私はこの日々で、今自分が騒ぎ立てることは時期尚早だと判断しただけのこと。
娘は1年生で、私はその保護者であり、
まだ部の何をも取り仕切れる立場ではない。
その立場になったとき、きちんと声を上げ、
きちんと部員や保護者の総意をまとめ、
割れるではあろうけれど多数だったときに立ち上がろうと思っていた。
そのために今は起きていることを記録し、
考えを簡潔に整理し、伝えたいこと、変えていきたいこと、
いざというときにぶつけられるためにまとめておく。
そういうことを地道にやりながら、
同学年の保護者と関係を深めて時を待とうとしていた。
これが私なりに出した結論だった。
だからこの夏起きたどんな理不尽も、
心には黒いものを抱えながら黙って見過ごしてきた。
今週末にもまた、子どもたちは本番のステージを控えている。
本番が近づくと練習はより厳しくなり、量を増すのだが、
おととい、事件が起きた。
練習に出ていたわけではない私は、娘や他の部員からの話を聞くのみだけれど、
そこに誇張や嘘はないと思う。
いつものように、顧問の個人攻撃が始まって、
1人の男子部員が泣かされるまで怒られた。
ここまでは(あってはならないとはいえ)日常的なこと。
泣きじゃくる男子部員に、顧問は「顔を洗ってこい」とうながし、
彼は練習場をあとにしたという。
そして合奏の練習は続く。
戻ってこない男子部員のことが、
みな気がかりではあったが、合奏を止めることはできない。
この世界は、顧問の指揮棒で牛耳られているから。
たまたまその日、遅れて部活に来る予定だった、
3年生の女子部員がいた。
その子が登校してきて気づいたというのは、
男子部員が何十分も放置された挙げ句過呼吸を起こしている姿だった。
大変です!
とその子が駆け込むにも、
合奏の切れ目まで待ったという。
日曜日だから、保健室なども閉まっており、
事態は緊急を要するために救急車を呼んだ。
ということが、その日のお昼前に起きていたけれど、
知ったのは1日練習を終えた、夕方帰宅後の娘の話でだ。
そういうことが起きたということも、
その後の経過のことも、今後についても、
顧問や保護者会会長から連絡はなかった。
そしてその夜、当事者の保護者からのLINEが、
グループラインに投じられた。
内容は、心配をかけて申しわけなかった、
息子は落ち着いてきていますということ、
これからもよろしくお願いしますということ。
とんでもないと思った。
私ならこんなことは言えない。
まるで息子のせいですみません、という内容は、
顧問の何をも責めていないのだから。
はたして本当にこのひとは、本心でこれを書いたのか?
声を上げるべきは、この方ではないか?
私ではないよな、そう思った。
でも上げない、それなら、これも私の記録に…。
と思っていたところで、もう我慢ならないから立ち上がると、
同級生の保護者から私に連絡があった。
私が早くから、この方は同じことを思っていると察して、
今後のことなどを相談していた方だった。
今回のことでご主人が、もう待てないと言っていて、止まらないと。
暴走になるかもしれないけれど、動きますと。
3年生になるのを待っていた私に悪いから連絡してきたという彼女に、
私は、ならば私も参戦するとしか言えなかった。
今じゃないとわかっている。
わかっているけど、1人で行かせられない。
変なのが1人出てきた、で潰されるより、
2人出てきた、にしたいから。
同じ潰されるでも、個人の行動にしたくないから。
今、その準備を進めていて、
近いうちにアポを取って学校に話し合いを申し入れることになる。
救急搬送のことはきっかけに過ぎず、
訴えるのはこのことではもちろんない。
ガイドラインを逸脱した活動と、常軌を逸した指導、
ものを言わせない空気、
それに対する意図の説明、かつ、本当に大切なものは何かの確認、
その上で、どうするか、改善するのか、排除するのか、
答えをもらおうと思う。
今じゃないし、もっと根回ししたかったけどね。
私のシナリオで人を動かすもんじゃないしね。
「私じゃない誰か」と書いたのこそ、私だしね。
言霊って、こんなふうにかえってくるんだな。
また、落ち着いたら書きに来ます。
では。