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武道館と寝た女 アイナ・ジ・エンド
夢だった武道館ライブ
2024年9月11日日本武道館でアイナ・ジ・エンドのライブがありました。布袋寅泰、藤井風、元BiSHのモモコグミカンパニー、リンリン、アユニD等が見守る中で18:30過ぎにステージの幕は開きました。長打の列だったグッズ売り場から多くのファンが戻ってきて、武道館が超満員の観客で埋まると舞台は暗転しました。「アイナ・ジ・エンド」という声が何度も流れると、黒で統一したジャケットスタイルのアイナが登場します。1曲目は1月のLINE CUBE SHIBUYAでの単独ライブでも1曲目だった「帆」で力強いパフォーマンスがはじまります。バンドメンバーであるモグリアンズが舞台に登場せず、アイナの歌と踊りのパフォーマンスでした。2曲目は武道館のためにオーディションをしたダンサーも登場し、「Frail」を歌います。歌い終わるとアイナは「武道館よろしく!」と矢沢永吉ばりの挨拶。スクリーンに映るアイナと舞台のアイナが、まるで夢と現実の如くパフォーマンスする姿は圧巻でした。3曲目はアイナのライブで観客と一緒に踊るための振付が楽しい「ZOKING DOG」「みんな今日はもっと馬鹿になろうぜ!」とさらに扇動し、観客のボルテージは最高潮になります。o
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コンテンポラリーダンスの巨匠・清水舞手の演出が圧巻だったLOVE SICK
アイナ武道館ライブの前半の山場は「LOVE SICK」。ドラマ「アノニマス」のエンディングテーマだった「誰 誰 誰」の狂気的な歌と踊りから、更に人間の情念をダンスに託した「LOVE SICK」に曲が変わると、大勢のダンサーに混ざり振付をアイナとともに手がけた清水舞手が登場します。情念を揺さぶるようなアイナの歌声、大所帯のダンサー集団が見せる迫力ある演舞が合わさり、情念をモチーフにした白いダンサーたちが恨みつらみを表現するかのように狂舞します。
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武道館のど真ん中で寝たアイナ
アリーナ席の真ん中設置されたセンターステージ。BiSHの時ならば「STERO FUTURE」でアイナが「いつまでも約束されぬ彼方」と歌い始めるとアユニDを先頭にメンバーがセンターステージまで走っていく姿が想像できました。しかし、この日アイナはコートを羽織り、自分の部屋のように寛ぎ、そのまま仰向けに寝てしまいます。そして「日の丸が見えるよ~」など武道館の中央で寝たことがある人しか見えない景色を語ります。センターステージでは「日々」、「死にたい夜に限って」、「金木犀」が歌われます。
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モグリアンズ登場で武道館ライブのボルテージMAX
センターステージからアイナが戻ると、バックバンド・モグリアンズのメンバーたちの姿が浮かび上がります。「虹」、「静的情夜」と続き、「Red:birthmark」では、赤い衣装のアイナが白い衣装のダンサーたちの中で鮮烈なパフォーマンスをします。
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下積み時代が長かったアイナの言葉
アイナは「ちょっとお話していいですか?」と語り掛け、「上京して人様の歌をカバーして、身銭を切っていろんな小さなライブハウスでライブをしていて。なんのためにライブしてるんだろうなって。大阪から上京するとき、お母さんが『大学に行ってほしい』と、入学金も払ってくれていた。でも私は歌手になりたいんだ!って、4歳から打ち込んでいたダンスを辞めて東京に来て。こんなうまくいかなくていいのかなと思っていて。オリジナル曲を作ったら、CDショップにCDが並んで、親も安心するかもしれない。もうちょっとお客さんが増えるかもしれない。そんなことを思って作った曲なんです。だからあふれ出る思いを書きました、みたいなそんな感じじゃないんやけど、この曲以上に自分の心が丸裸になってる曲をこれ以降、書けてないなと思うくらい、大切な曲です。この曲を10年以上の時を経て、ここ武道館に持ってこれたこと、なんだかすごくうれしいです。忘れちゃいけないのは、私はこの11年間、1人で活動してきたわけじゃない。8年間BiSHというグループをやってました。ずっとその頃から武道館に立つのが夢でした。ここにもいるかな、清掃員。そう。私、アイナ・ジ・エンドになったのBiSHだから。BiSHを応援してくれてた人もここに来てくれて本当に本当にありがとう。BiSHじゃなく私を知ってくれた人も、本当に本当にありがとう。出会ってくれてありがとうございます。してお父さん、お母さん。こんなに応援してくれる人がいたら、ちょっと安心する?パパ、ママ。産んでくれてありがとう。」と自分の過去や過去に出会った人、両親、全てにアイナは感謝し、その過去があったからこの成功があったことを伝えます。
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生きてまた会おうぜ!
村上龍さんが、自ら命を絶った知人に向けて、サザンを聞いていたら死なずに済んだかもしれないと「無敵のサザンオールスターズ」という文書に書いていました。「歌は革命を起こせないが、人の自殺を止める力を持っている」と。BiSHだけでなく、アイナの歌にも「死にたい」でも「生きていれば明日はくる」といったフレーズが多く使われます。武道館ライブのアンコールでは、「宝者」、そして新曲の「ハートにハート」、ライブの定番「サボテンガール」の3曲が演奏されました。「ハートにハート」は「目には目を」と戦争や主義主張の諍いで命を奪い合うのではなく、「ハート」を分け合うことでみんなが生きていく力を分かち合いたいというアイナの思いが詰まった曲になっています。途中、涙も見せたアイナでしたが、最後は「生きてまた会おうぜ!」と声を張り上げ、「何があっても生きてろよ。生きてまた会おうぜ! ありがとう、ありがとう、ありがとう!」「武道館、また絶対やろうね! 今日のあなたたち、最高だった!」と締めくくりました。自分に絶望せず、生きていればみんなとまた会える。アイナは自らを切り刻むが如く、歌と踊りを生み出し、ハートを与える歌の神に憑りつかれたパフォーマーなんだと感じました。
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