野球好きに向けたF1沼への誘い:番外編①〜レースウィーク特集〜
こんにちは、そーすです。ここまで2つの記事を読んでくださった方々、本当にありがとうございます。今回はドライバー紹介を一度中断して、今週末に開催されるフランスGPに合わせ、F1で良く使われる用語について解説していこうと思います。もしここまでの記事で少しF1に興味を持ってくださった方々、よろしければこの記事でいくつかルール・用語を覚えてもらえれば、立派なF1オタクの仲間入りです。
F1のレースは、単に一度サーキットでバトルして終わり、というものではありません。今回のnoteでは、F1チーム・ドライバーのレース開催週末の動きと、レースでの様々な豆知識をご紹介します。
木曜日:公式記者会見
・木曜日、ドライバーは公式の記者会見に臨みます。ここでは全員が一堂に会することはせず、予め予定されていた3〜5名程度のドライバーが会見を行います。基本的には前回レースからのチーム・マシンの最新状況やレースに関わる質問がなされるのですが、何故かこの記者会見で定期的に笑いが巻き起こることがあります。これは野球やサッカーの記者会見と同じで、時に記者がトンチンカンな質問をしたり、競技とは関係ない方面の質問をしたりするためです。
F1公式による「オモシロ記者会見ベスト10」。ちなみにサムネにもなっている3位の会見でノリス君(右から2番目のオレンジ帽子の人)が爆笑してるのは「シモの毛」についてツボに入ったため。
木曜日:トラックウォーク
・サーキット入りしたチーム・ドライバーは木曜日にはコース上を一周グルリと歩き、路面の状態、温度、天気などをくまなく確認して回ります。毎年同じサーキットを使っていても、年によってその背景は大きく異なるため、綿密な情報収集が求められるのです。
金曜日:フリープラクティス1回目(FP1)
・実は、金曜日からF1マシンのドライブは始まります。F1開催時は基本的にフリープラクティスと呼ばれる練習走行が金曜日と土曜日に合計3回行われます。この練習走行の時間を使い、それぞれのサーキットの特徴に合わせてF1マシンの微調整を行うのです。例えば、コーナリングで思うようにマシンが曲がってくれないとか、ストレートのスピードが予想より伸びないとか、様々な確認作業を行うのです。ただし、今シーズンからこのフリープラクティスは各セッション60分に短縮されています。そのため、各チームが精力的に確認のため活動します。
FP1は最初の走行ということもあって大人しめな動きが多いです。タイムについてもあまり速くはありません。ただし、このFP1でいきなり問題を抱えると、週末中それに追われることになるため確認が非常に重要なセッションです。
また、コース上にはホコリや砂が大量に残っているため、このセッションではこれらをコースのレコードライン上から取り除く「掃除」のための走行、という意義もあります。
金曜日:フリープラクティス2回目(FP2)
・金曜日の午後には2回目の練習走行の時間です。このセッションは基本的に、行われる時刻が土曜日の予選・日曜日の決勝と同じです。そのため、本番に近い天気・気温・路面状況の下走行が行われることになります。従って、本番を想定したシミュレーションが盛んに行われ、開始20〜30分ごろには予選想定ラップが各チームで行われることが多いです。そのためFP1と比べて各マシンのタイムが良化します。また、土日に向けた各マシンの調子が朧げに判明してくるセッションでもあります。
土曜日:フリープラクティス3回目(FP3)
・土曜日の午前は最後の練習走行の時間です。ここではマシンの最終確認や各タイヤのペースの確認が主に行われます。数時間後の予選に向けて最後の調整時間というわけです。またここまでの走行によってコースの路面も仕上がってくるのがこのセッションの特徴で、それまでのFPよりさらにタイムが伸びてきます。
土曜日:公式予選
・土曜日の一番の目玉はこの予選です。予選ではコース一周のタイムを計測し、そのタイムが速かった順に日曜日のレースのスタート順が決まります。チーム・ドライバーはまずこの予選で一つでも上の順位を獲得することに力を注いでくるのです。
予選の方式は「ノックアウト方式」と呼ばれるものです。F1は現在10チーム計20台のマシンが参戦しています。このノックアウト方式はQ1,Q2,Q3の3つのセッションに分かれます。各セッションごとに遅いマシン5台が「ノックアウト」となり、スタート順が決まっていくのです。つまり、Q1では20台のマシンが走り、そのうち上位15台が次のQ2に進出。16位以下はその順位がそのままスタート順として確定になります。Q2では15台のマシンが走り、上位10台がQ3に進出。そして最後、Q3では上位10台が1番手〜10番手のスタート順をかけてアタックを行う、という流れです。
勿論一周を全速力で走るわけなのですが、実は色々と戦略が絡んでくるのがこの予選。その理由は、使用するタイヤにあります。現在F1で使用されるタイヤはピレリによる独占供給となっていて、さらにゴムが硬い順にC1〜C5までの5種類のタイヤが用意されています。
ここで一つ、タイヤについての情報を追加します。基本的にF1で使われるタイヤはスリックタイヤと言って、地面との接地面に溝が一切ありません。F1マシンはこのツルツルのタイヤをどのように使うかというと、表面のゴムを上手いこと溶かして使うのです。レース中、タイヤはコースのアスファルトとの猛烈な摩擦によって1000℃以上にまで加熱します。これによって表面のゴムがドロドロに溶けて、接着剤のようにアスファルトと粘着するのです。この接着によってF1マシンは滑ることなくコーナーを曲がっていける、というわけです。従って、ドライバーはタイヤの摩擦を上手く調節して丁度良い具合にゴムを溶かしながら走り続ける必要があります。摩擦が強まればタイヤの温度はどんどん上がります。そのため、基本的には周回を重ねていく毎に温度が上がるのです。
先程のC1〜C5のタイヤ種類は、このタイヤ熱の入り具合とタイヤライフの違いが差になっています。C1タイヤはゴムが硬く、熱入れにも時間がかかりスピードも出しにくいですが、タイヤの寿命が長く、レースによっては40〜50周は平気で走ることが可能です。逆に1番柔らかいC5タイヤは素早く熱が入り、タイムも速くなりますが寿命は短く、レースなら20周程度が走行の限界になります。
F1のレースではこの5種類のうち、サーキットに合わせて連続した3種類を持ち込みます。例えばC1,C2,C3タイヤの3種類を一つのレースウィークで使用可能、となるのです。そして数字の大きい順(タイヤの柔らかい順)にそれぞれソフト、ミディアム、ハードと呼ばれます。それぞれのタイヤの側面には赤(ソフト)、黄(ミディアム)、白(ハード)のラインが入るため、走行中やタイヤ準備の時点で目視で判断が可能です。
左からソフト・ミディアム・ハードタイヤ。レースごとタイヤ紹介映像が流れるのだが、なぜか毎回上の写真のように坂道に並べた画像が流れる。どう固定しているのかは謎。
そんなタイヤがどう予選の戦略に絡んでくるのか、どうせ一周のタイムなんだから1番柔らかいタイヤ使えばいいじゃんか、と思う方がいるかもしれません。ですが、実はこの予選で使用したタイヤを、決勝レースのスタート時に装着しなければいけない、というルールがあるのです。正確には全車にその義務があるわけではありません。どのマシンが対象になるかというと、Q3に進出した上位10台のマシンになります。この10台は、Q2でタイムを出したタイヤを翌日スタート時に装着しなければならないのです。
そのため、単純にタイムだけ出しにいって1番柔らかいタイヤを使用すると、決勝レースで寿命の短いタイヤを使用しなければいけなくなり、早々とピットインしてレースの勝負権を失う、なんてことになりかねないわけです。従ってメルセデスやレッドブルなどの上位チームは時折、あえて少しタイムが遅くなるミディアムタイヤを使用してQ2に挑みます。
ただし、常に・全チームがこの戦略をできるわけではありません。ミディアムタイヤを使うということは当然ソフトに比べてタイムが劣るわけで、決勝の事を考えて硬いタイヤを履いたらタイムが伸びずにQ2で脱落してしまった、なんてポカが起こりかねないのです。このような事態を防ぐために、今回の予選はどのタイヤを使うかを3回のFPで見極めていくのです。
予選Q3では各マシンの限界の速さを競いあうため、非常に白熱したものとなります。当然、1/100,1/1000秒の差をかけて争うことになり、時には全く同じタイム、なんてことも起こります(その場合は先にタイムを出していたドライバーが上位となる)。今シーズンはそれまでのメルセデス1強が崩れ、レッドブル、フェラーリが予選1位の座、「ポールポジション」をかけて鎬を削っています。
予選終了後には1位〜3位のドライバーのインタビューが行われるのですが、その時にミニチュアサイズのタイヤにドライバーがサインをします。野球のヒーローインタビューのようなノリで行われ、各ドライバーの感想を聞くことができます。
日曜日:決勝レース
・いよいよ日曜日、決勝レースのスタートです。まずは各チームのピットにあるマシンをホームストレートにあるスターティンググリッドに回送しなくてはいけません。このピットからグリッドまでの周回を、「レコノサンスラップ」と呼びます。F1ではこのレコノサンスラップを行う時間が指定されており、指定時間内であれば何周してもOKです。ただしホームストレートは走行できず、一周ごとピットレーンを通過しなければなりません。また指定時間内にグリッドにつかなければペナルティとして、ピットレーンからのスタートとなります。
レコノサンスラップが終わり、各マシンがグリッドにつくのですが、この時のグリッドは「ダミーグリッド」と呼ばれます。DAZNやフジテレビnextで中継が始まるのは、大抵がこのダミーグリッドに各マシンが整列してドライバー・エンジニアなどが最終確認を行なっている時間帯です。レースに招かれたVIPなどがコース上に出てドライバーやチームスタッフと会話する光景も見られます。
ダミーグリッドにつくマシンと、最終確認を行うエンジニアたち。
開会宣言や国歌演奏などが終わるといよいよスタートが近づきます。各ドライバーがマシンに乗り込んだら、「フォーメーションラップ」のスタートです。ポールのマシンから順に1列になってゆっくりとコースを一周します。このフォーメーションラップ中にドライバーはタイヤに熱を入れ、ゴムを溶かしていきます。ただし安全のためスピードは出せません。そのためマシンを蛇行運転させて、なるべく沢山地面との摩擦を起こさせる光景が見られます。この動きを「ウェービング」と呼びます。
コースを一周しホームストレートに戻ってきたら、スターティンググリッドにマシンを停車させます。全車停車が完了すると、ストレート上のランプが赤く点灯。5つ赤ランプが灯り(オールレッド!などと実況アナウンサーが叫びます)、その5つのランプが一斉に消灯した瞬間(ブラックアウト)、レースがスタートです!ドライバーたちはニュートラルからクラッチを一気に繋いで加速を開始、第1コーナーへと飛び込んでいきます。
一斉にスタートしたマシンがコーナーへなだれ込んでいく。このスタートは大きく順位を上げるチャンスなので、ドライバーによる激しいバトルが見られます。
ちなみにF1マシンはセミオートマチック方式で、スタート時のみクラッチを使用して1速からギアを入れていきますが、一度発進した後はステアリングにあるパドルを使ってギアを変えます。そのためエンジンストールが起きるのは基本的にこのスタート時のみとなります。
2019年のメルセデスAMGのステアリングについての解説動画。ドライバーはレース中常に様々なスイッチを操作しながら運転している。
いよいよスタートしたレース。F1レースの規定では「原則305kmの距離を超える最も少ない周回数」でレースが行われることになっています。例えば日本GPが開催される鈴鹿サーキットは一周約5.8kmなので、305÷5.8=52.5...となって53周のレース、というわけです。
決勝レースでは、異なる種類のタイヤを2つ以上使用する義務があるため、必ず一回はピットインしてタイヤ交換を行わなければいけません。このタイヤ交換のタイミングが、チームの戦略の見せ所となります。例えば最初に履いているタイヤをなるべく長く使って、ピットインの回数をなるべく少なくする戦略。逆に最初のタイヤを早々と捨てて、複数回交換するけど寿命気にせずガンガン飛ばす戦略。マシン・ドライバーによって得意なタイヤやドライビングは異なるので、戦略もバラバラになります。その中でも今回は2つの用語を紹介したいと思います。
まずは「アンダーカット」と呼ばれる戦略です。これはライバルのマシンよりも早くタイヤ交換を済ませて、新しいタイヤで飛ばしに飛ばしまくり、後にタイヤ交換したライバルがピットから出てきたところで前に出てしまうという戦略です。現代のF1はマシンの大型化や空力才能の向上でコース上で直接ライバルを追い抜くことが難しくなっているため、このような水面下でのバトルが非常に大切なのです。
もう一つが「オーバーカット」という戦略。読んで字のごとく、先程のアンダーカットとは逆にライバルよりもタイヤ交換を遅らせて追い抜く戦略のことを言います。どちらの戦略も、ドライバー・マシン・サーキット・タイヤなど多くの要素が絡み合って判断がなされるのです。
F1マシンは1/1000秒を争うため、コース上でライバルとの差を1秒でも縮めるのは非常に難しいことです。ですが、ピットインでのタイヤ交換作業では、一度ミスをすると簡単に2〜3秒失ってしまいます。そのためピット作業の素早さと正確性は非常に大きな意味を持ちます。特にレッドブルのピット作業は鬼のように速く、
マシンがピットイン→静止→ジャッキアップ→4本のタイヤを外す→新しいタイヤを装着する→ジャッキダウン→発進
までの工程をなんと2秒以下で行なってしまいます。他のチームであれば2秒台前半であれば速い、3秒以内なら十分スムーズ(それだって速過ぎるのですが)と言われていますから、レッドブルはピットだけでコンマ数秒稼いでしまうわけです。このピット作業の素早さは実際に見ても圧巻です。
レッドブルの「世界最速ピット」。
僅か1.82秒で作業を終えている。速さ命の横浜ファン必見。
DAZNでF1を観戦する時は、「F1ZONE」という機能を使うのも一つの手です。F1ZONEではメインの映像の他に、各マシンのラップタイム、コース上の位置関係、どれか一台のオンボード映像(ドライバー目線の映像)が一つの画面で確認できます。初心者にはあまり向かないかも、と言われている機能なのですが、普段から野球中継見ながらスポナビで選手の詳細成績引っ張ってきてそれをツイートしているような皆さんであれば、細かい数値を調べることなくチェックできるこの機能はうってつけなのではないかと思います。是非試してみて下さい。
「F1ZONE」の画面例。ラップタイムを逐一確認したい人はなるべく大画面で見ることをオススメします。
ファイナルラップ、チェッカーフラッグが振られる中ホームストレートを通過したらレースは終了です。F1では1位〜3位が表彰台(ポディウム)、4位〜10位までが入賞となり、それぞれポイントをゲットできます。優勝争い・表彰台争いはもちろん、入賞をかけた10位争いも最後まで目が離せません。
日曜日:表彰式
レースが終わりパルク・フェルメにマシンを停めたら、インタビューののち表彰式です。表彰式では優勝したチームとドライバーの国家が流れ、トロフィーを授与されたらシャンパンファイト、という流れになっています。
ちなみにここ数年、あまりにもメルセデスのハミルトンが優勝しまくるため、表彰式で流れる国歌が毎回イギリス国歌(ハミルトンの母国)→ドイツ国歌(メルセデスチームの登録上の本拠地、ただし実際のファクトリーはイギリスにある)となって、この2曲が「F1公式テーマソング」などと揶揄されています。約20年ほど前はフェラーリを駆る「皇帝」ミハエル・シューマッハが勝ちまくっており、その頃はドイツ国歌→イタリア国歌が同じように公式テーマソング扱いされていました。
シャンパンファイトでも各ドライバーが様々な表情を見せてくれます。例えば、フィンランド生まれのキミ・ライコネン(アルファロメオ)やバルテリ・ボッタス(メルセデス)はシャンパンを振り撒く前に「まず飲む」。フィンランド人お決まりの光景などと言われています。またオーストラリア出身のダニエル・リカルド(マクラーレン)は地元の風習(と、本人は言っている)であるシューイパフォーマンスを見せてくれます。なんだか面白そうな響きですが、これはなんと、「自らの靴をグラスにしてシャンパンを注ぎ、そのまま靴に入ったシャンパンを飲む」というとんでもないパフォーマンスです。しかもリカルドはこのシューイを表彰台に登っている他のドライバーに強要したりします。「気持ち悪い」などと非難されたりしますが、本人は大真面目で儀式として楽しんでいるようです。ただ、コロナ禍の昨シーズン・今シーズンはシューイを「自粛」することもあります。
気持ちよさそうにシューイを行うリカルド。僕は絶対嫌ですが...😅
まとめ
ここまでがレースウィークの大まかな流れになります。いかがだったでしょうか。今回紹介しきれていない用語もまだまだありますが、あまり詳細を知らなくても十分に楽しむことは可能です。実際、タイヤ返却のルールなど僕もイマイチ分かっていないルールも多々あります。まずは実際のレースを観戦してみて、その中で徐々に覚えていくのが良いのではないでしょうか。今週末のフランスGPの後はオーストリアでの2週連続開催が待っており、3週連続のグランプリウィークとなります。この機会に是非、F1観戦を楽しんでみてくださいね!
それではまた、次の記事でお会いしましょう!👋
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