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【私たちは何を知らないのか】ウイルスとアミノ酸
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私たちが、ここまで、進化するために、
「ウイルス」
は、必要不可欠な存在でした。
■ウイルスと人間
▶[テキスト①]「生物はウイルスが進化させた 巨大ウイルスが語る新たな生命像」(ブルーバックス)武村政春(著)
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「私たちヒトのゲノムは、32億塩基対もの長さをもつ。
…ところが、この長大なゲノムのうち、遺伝子に該当するのはわずかに1.5~2.0%程度である。
じつに、ヒトゲノムの最も大きな領域にあたる40%以上にもわたる部分は、かつてウイルス(ならびにそれとふるまいがよく似たもの)が感染した名残であると考えられている。
もともとはウイルス(ならびにそれとふるまいがよく似たもの)がもっていた塩基配列であったらしい。」(武村政春「生物はウイルスが進化させた」)
そして、私という人間は、
「多くの生き物が生息する器」
にすぎず、主導権を握っているのが、
「どの生物なのか謎」
だったりもする世界で、生かされている存在(^^;
▶[テキスト②]「あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた」(河出文庫)アランナ・コリン(著)矢野真千子(訳)
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「あなたの体はあなたのものである以上に、微生物のものでもあるのだ。
微生物は腸管内だけで100兆個存在し、海のサンゴ礁のように生態系をつくっている。
およそ4000種の微生物がひだそれぞれの小さなニッチを開拓し、長さ1.5メートルの大腸表面を覆うひだに隠れるようにして暮らしている。
あなたは生まれた日から死ぬ日まで、アフリカゾウ五頭分の重量に匹敵する微生物の「宿主」となる。
微生物はあなたの皮膚の上にもいる。
あなたの指先には、イギリスの人口を上回る数の微生物が付着している」(コリン・アランナ「あなたの体は9割が細菌」)
ならば、
「私という存在」
の
「内と外の境界線」
は、一体、どこにあるのだろうか・・・
▶[テキスト③]「土と内臓 微生物がつくる世界」デイビッド・モントゴメリー/アン・ビクレー(著)片岡夏実(訳)
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「腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境」(光文社新書)桐村里紗(著)
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そういえば、このごろ、
「土に触れる」
こと、ない。
昔は、みんな土だったのにね。
私は、今日、一歩も、
「土の上」
を歩かなかったし、なあ。
いや、別に、今日だけではなく、特に、ウイークデイは、土を見ることさえ、珍しい生活をしています。
会社迄の全ての道は舗装されています。
雨の日も、水たまりに、出会うことはありません。
それは歩きやすく、とても便利です。
でも、ちょっと、味気ない気がします。
そういえば、子供のゴム長姿も、あまり、見かけなくなった様な気がします。
「土の感触」
に、触れられるくらいの
「不便さ」
は、あってもいい、気がするのですが。
▶[テキスト④]「ユ-ザ-イリュ-ジョン 意識という幻想」トール ノーレットランダーシュ(著)柴田裕之(訳)
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「意識が私たちに示す感覚データは、すでに大幅に処理されているのだが、意識はそうとは教えてくれない。意識が示すものは、生のデータのように思えるが、じつはコンテクストというカプセルに包まれており、そのカプセルがなければ、私たちの体験はまったく別物になる。」
「意識的な自覚が起こる前に、膨大な量の感覚情報が捨てられる。そして、その捨てられた情報は示されない。だが、経験そのものは、この捨てられた情報に基づいている。」
「私たちは感覚を経験するが、その感覚が処理されたものだということは経験しない。」
「人が体験するのは、生の感覚データではなく、そのシミュレーションだ。感覚体験のシミュレーションを、人は経験している。物事自体を体験しているのではない。物事を感知するが、その感覚は経験しない。その感覚のシミュレーションを体験するのだ。」
「人が直接体験するのは錯覚であり、・・・この錯覚こそが意識の核であり、解釈され、意味のある形で経験される世界だ。」
私たちが
「客観的」
だと信じている、
「この目に映る世界」
は、世界全体から
「主観的」
に
「ある一部分を型抜き」
したものにすぎず、生物学者、日高敏隆氏の言葉
「人間も人間以外の動物も、イリュージョンによってしか世界を認知し構築し得ない。
そして何らかの世界を認知し得ない限り、生きていくことはできない。」(日高敏隆「動物の人間の世界認識」P195より)
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を借りれば、
「イリュージョン」
なのだそうだ。
アメリカの神経生理学者ベンジャミン・リベットによると、
①意識が生じるまでには、0.5秒の脳活動が必要。
②意識は、時間的な繰り上げ調整を行い、0.5秒の誤差をごまかす。
そうであり、
「意識が錯覚」
だとすると、
「私」
は、一体、どこにいるのだろうか・・・
もし、私たちの目にするものが、全て、錯覚、夢うつつなのであれば、古の人は、もう、それに気づいて(古今和歌集942番のよみ人知らずの和歌 等)いたのかもしれませんね。
「世の中は 夢かうつつか うつつとも 夢とも知らず ありてなければ」
▶[テキスト⑤]「ウイルスは生きている」(講談社現代新書)中屋敷均(著)
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「ヒトは生命活動の基本中の基本とも言えるアミノ酸合成系のいくつかを欠いている。生命活動に必要な20種ほどのアミノ酸のうち9種はその合成系を欠いているか、あっても自己の維持に必要な量を作り出すことが出来ない。これらが必須アミノ酸と呼ばれるものであり、我々はこれを体外から摂取しないと生きていけない。大腸菌などの細菌や植物がすべてのアミノ酸を合成できるにもかかわらず、進化の頂点にあると自負するヒトがそれを出来ないのだ。」(中屋敷均「ウイルスは生きている」)
そんな不確かな意識の世界で生きているのに、追い打ちをかけるかの如く、例えば、その意識が
「幻想」
ではなかったとしても、
「知覚の限界」
があり、
「客観的に世界を認識する」
ことは不可能なのだと、ユクスキュルは、
「環世界」
で指摘していたし、更に、
「生命維持の観点」
でも、人間は、あまり優秀な生物とは言えないそうです・・・
▶[テキスト⑥]「ウイルスの意味論 生命の定義を超えた存在」山内一也(著)
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ウイルスとは何者か。
その驚くべき生態が明らかになるたびに、この問いの答は書き替えられてきた。
ウイルスは、数十億年にわたり生物と共に進化してきた「生命体」でありながら、細胞外ではまったく活動しない「物質」でもある。
その多くは弱く、外界ではすぐに感染力を失って“死ぬ”。
ただし条件さえ整えば、数万年間の凍結状態に置かれても、体がばらばらになってしまったとしても“復活”する。
ウイルスの生と死は、生物のそれとはどこかずれている。
一部のウイルスは、たびたび世界的流行を引き起こしてきた。
ただしそれは、人類がウイルスを本来の宿主から引き離し、都市という居場所を与えた結果でもある。
本来の宿主と共にあるとき、ウイルスは「守護者」にもなりうる。
あるものは宿主を献身的に育て上げ、またあるものは宿主に新たな能力を与えている。
私たちのDNAにもウイルスの遺伝情報が大量に組み込まれており、一部は生命活動を支えている。
ウイルスの生態を知れば知るほど、生と死の、生物と無生物の、共生と敵対の境界が曖昧になっていく。
「細菌をはじめとするすべての生物の基本構造は「細胞」。細胞は、栄養さえあれば独力で二つに分裂し、増殖する。
細胞が増殖できるのは、その膜の中に細胞の設計図(遺伝情報)である核酸(DNA)やタンパク質合成装置(酵素)などを備えているから。
ウ
イルスは独力では増殖できない。ウイルスは、遺伝情報を持つ核酸と、それを覆うタンパク質や脂質の入れ物からなる微粒子にすぎず、設計図に従ってタンパク質を合成する装置は備えていないから。」
人間は、地球上で、特別な存在なのだというのは、思い上がりにすぎず、見方を変えれば、地球にとっては、人間が、厄介なウイルスのようなものであり、全ての存在は、視点を変えれば、
「宇宙の塵」
にすぎないのだけれど・・・
前述の通り、大腸菌などの細菌や植物がすべてのアミノ酸を合成できるにもかかわらず、進化の頂点にあると自負するヒトがそれを出来ない点を、思考回路を巡らせる全ての人で世界を進化させているのだと、そう感じます(^^)
▶[テキスト⑦]「立体と鏡像で読み解く生命の仕組み ホモキラリティーから薬物代謝、生物の対称性まで」黒栁正典(著)
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・はじめに1
我々が生活している世界は、縦・横・奥行の3つの方向から成り立つ三次元の空間である。
そのため私たちは朝、目が覚めれば起き上がり、洗顔し朝食を食べて勤めや学校へ出かける。
人間はもちろん、イヌやネコも自由に動き回り、鳥や虫たちも自由に飛び回っている。
植物たちも前後左右上下に枝葉を伸ばして、花を咲かせ果実を実らせている。
このように我々地球上の生物が空間的に広がって活動できるのは、世界が三次元空間だからである。
二次元空間ではこのような動きを行うことは不可能である。
景色を写真やテレビなどの画面で見ても何か物足りない感じがするが、それは三次元世界が画像という二次元の形で表現されているからである。
我々が住む世界が二次元空間で平面の中でしか行動できないとしたら、景色は点やさまざまの長さの直線としてしか見ることができない。
日々の生活はまったく面白みのないつまらないものになってしまうだろう。
スポーツでは、走る、跳ぶ、投げる、打つ、泳ぐことで三次元の空間を存分に利用することにより迫力あるプレーが成り立っており、大谷翔平の豪快なホームランも楽しむことができる。
これが平面だけの動きしかできないとしたらやはり迫力のないつまらないものになってしまう。
理論物理学の世界では三次元以上の多次元の空間があるといわれているが、それがどんなものかは我々門外漢には知ることができない謎である。
ただ、三次元空間に四次元目として時間を加えた四次元時空という概念がアインシュタインの特殊相対性理論で用いられ、我々の住むこの世界に適用されており、一般に受け入れられている。
もしも時間がなかったら物事の動きというものが止まってしまうことになる。
一体どんな世界になってしまうのだろうか。
時間のない世界も到底考えることができない。
我々の住む世界が三次元空間であるために、思わぬところでいろいろな現象に遭遇することがある。
地球上の生物の生理現象をコントロールしている、生命維持に最も重要な生体成分であるタンパク質はアミノ酸で構成されている。
そのアミノ酸は三次元構造を持っており、タンパク質は例外なくL ─アミノ酸のみで構成されている。
L ─ アミノ酸の鏡像異性体(鏡に映した構造)であるD ─ アミノ酸が同様に用いられる可能性もあるのに、地球上の生物ではどうして一方の鏡像異性体であるL ─ アミノ酸だけを用いているのか疑問が湧く。
当然、一方のアミノ酸のみを用いることが生物の生存にとってメリットがあるためであることは間違いない。
しかし、L ─ アミノ酸とD ─ アミノ酸のうちL ─ アミノ酸が選択されることになった理由はわかっていない。
いつどんな理由でL ─ アミノ酸が選ばれたのかは生命誕生と並んで今なお解決されない謎である。
・はじめに2
アミノ酸だけでなく糖や核酸はじめ地球の生物の生命活動に関わる物質のほとんどは三次元の構造を持っており、2つの鏡像異性体の一方のみが用いられている。
このような現象は生命のホモキラリティー(homochirality)と呼ばれている。
ホモキラリティーという現象が維持されることで地球上に生命が誕生し進化し、繁栄することができたのである。
我々の知る限りでは、奇跡的に誕生した地球の生物以外この宇宙に生物は存在しない。
そんな地球の生命がいかにして誕生したのかは最大の謎である。
生命の起源は地球にあるのか、地球外からやってきたのかなどいろいろな議論があるが、いまだ結論は得られていない。
しかし、原始的な生物から植物や動物などの生物への進化については多くのことが明らかになっている。
生命誕生とその進化にはホモキラリティーが必然であったと考えられる。地球生命は植物の光合成に支えられていることなどを含め生命誕生とその後の進化の歴史を第1章で眺めてみる。
生物が生きていくために、体内ではタンパク質や核酸などの高分子が関与して代謝に関連する有機化学反応が行われている。
この中心となる有機化合物がアミノ酸や糖、核酸などである。
しかも、タンパク質の素材となるアミノ酸はL ─ アミノ酸だけが用いられ、自然界に存在する糖は基本的にD ─ グルコース、D ─ ガラクトース、D ─ リボース、D ─ デオキシリボースなどD ─ 系列のものが生命活動に用いられている。
このような生物が持つ独特のホモキラリティーという現象について第2章で述べる。
アミノ酸や糖だけでなく多くの有機化合物は三次元構造を持っており、お互いに実像と虚像の関係にある鏡像異性体が存在する。
有機化合物の鏡像異性の理論に関する発見の歴史は比較的新しく、ルイ・パスツールなどの若き科学者による貢献が大きい。
鏡像異性という現象発見の歴史について第3章で述べる。
・はじめに3
三次元構造を持つ生理活性物質の鏡像異性の関係を論じていくためには、物質の三次元構造を二次元の紙面で議論する必要があり、規則や約束事が必要となる。
そのために有機化学の一分野として有機立体化学が確立してきた。
アミノ酸や糖の鏡像異性を表示するためにはD/L表記が用いられ、その他の多くの光学活性物質の鏡像異性表示にはR/S表記が用いられる。
光学活性の理屈や立体表示の規則について第4章で述べる。
専門外の読者には理解が難しいかもしれないので読み流していただいても問題ない。
タンパク質は酵素や化学物質受容体、筋肉、皮膚などとして働いており、地球の生物にとって最も重要な生体成分である。
そのタンパク質を構成するアミノ酸はすべてがL ─ 型である。
遺伝子であるデオキシリボ核酸(DNA)を構成する糖であるデオキシリボースや、タンパク質に結合してその機能を修飾する各種の糖はすべてがD ─ 型である。
これらアミノ酸や糖は厳しくホモキラリティーを維持している。
その他にもホルモンや脂質などの生体成分もホモキラリティーを維持している。
アミノ酸や糖など生命活動に重要な役割を持つ生体物質について第5章で解説する。
医薬品開発が進み、特に新規の合成医薬品が広く用いられるようになり我々の平均寿命は大幅に改善されてきたが、その半面多くの薬害も問題になっている。
医薬品は有効性と共に有害な副作用を持つことがあり、医薬品の鏡像異性が関係している場合がしばしば見られる。
特にサリドマイドの鏡像異性体による薬害の問題は有名で、この事件をきっかけに一方の有効な鏡像異性体のみを医薬品として供給することが望まれるようになった。
また、自然界には香り物質や味覚物質が存在するが、香りや味覚では化学物質の鏡像異性の違いが大きく影響することが知られている。
鏡像異性体と生理活性の関係について第6章で述べる。
・はじめに4
有機合成技術が大きく発展し多くの合成医薬品が供給される現在では、医薬品の鏡像異性体では生理活性に違いがあることが常識となり、医薬品として求められる鏡像異性体を供給することが当たり前となっている。
そのための研究が行われ技術が進歩してきた。
特定の鏡像異性体を供給するための方法について第7章で述べる。
動物の外形はほとんど左右対称の形をとっているのに、植物の全体的な姿はあまり左右対称にはこだわっていないような印象を受ける。
しかし植物の部分である花や葉などの形になると対称形を持っているのが普通である。
一方で巻貝や植物の蔓の巻き方など対称性を持たない形がしばしば見られる。
生物の対称性に関して第8章で述べる。
本文中で述べなかった興味深い関連事項についてはコラムで記載しているので読んでいただきたい。
また難解と思われる専門用語は巻末に解説しているので参考にしていただきたい。
アミノ酸や糖などの生体成分が三次元構造を持つために起こるホモキラリティーという現象は、専門性が高く難解な点もあると考えられるが、我々生物誕生と進化にとって大事な現象であることを理解していただければ幸いである。
■必須アミノ酸のバランス
▶アミノ酸とは?
▶強いメンタル作りに欠かせないアミノ酸「トリプトファン」入門
▶アミノ酸の名称につく「L」「D」「DL」とは?
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アミノ酸は、その分子内に、
「アミノ基(-NH2)」
と
「カルボキシル基(-COOH)」
を持つ、化合物の総称です(図)。
グリシンを除くアミノ酸には、ちょうど、右手と左手の関係のように、互いに、鏡に映すと、同一になる構造のものが、存在し、一方をL体、もう一方を、D体と呼んで、区別します。
体たんぱく質を構成するアミノ酸は、不思議なことに、全て
「L体」
です。
以前は、
「D体」
のアミノ酸は、自然界に存在しないとされてきましたが、分析技術の進展により、実は、いろいろな役割を持って存在していることが、見出されています。
「DL体」
は、
「L体」
と
「D体」
の等量混合物で、
「ラセミ体」
ともいいます。
「うま味調味料」
になる
「グルタミン酸」
をはじめ、今日、製造されているアミノ酸の大半は、
「L体」
です。
▶食品添加物アミノ酸
食品添加物アミノ酸とは、食品のうま味を豊かにするために使用される添加物で、「調味料(アミノ酸)」とも呼ばれます。昆布やかつおなどの自然由来のうま味成分を化学的に抽出・合成して作られています。
食品添加物アミノ酸の主な成分には、次のようなものがあります。
グルタミン酸ナトリウム:昆布などのうま味成分として知られています
グリシン:動物性コラーゲン由来の成分です
食品添加物アミノ酸は、料理に深みを与えたり、酸味や苦味を和らげたりする効果があります。
食品添加物アミノ酸の安全性については、一部で発がん性物質を生成する可能性が指摘されています。また、グルタミン酸ナトリウムを大量に摂取すると、神経細胞に影響して頭痛や手足のしびれ、のぼせなどの症状を引き起こす可能性があります。
食品添加物アミノ酸を安全に摂取するには、過剰摂取を控えることが大切です。
▶うま味調味料ってなんだろう?
▶L-アミノ酸を選択する反応メカニズムの解明
■参考図書
「私たちは何を知らないのか 宇宙物理学の未解決問題」ローレンス・クラウス(著)長尾莉紗/北川蒼(訳)
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「宇宙と物質の起源 「見えない世界」を理解する」(ブルーバックス)高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所(編)
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「多元宇宙(マルチバース)論集中講義」(扶桑社新書)野村泰紀(著)
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